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Ⅰ
シエラとウィル
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そんな永遠にも思えるような恐ろしい食事の時間がようやく終わりを迎えました。
幸いにも今回は量を減らしておいたため、残されることはありませんでした。
そして食事が終われば私は一応ウィルのために作ったクッキーを用意しています。料理がだめでクッキーが喜ばれる、というのは希望的観測に過ぎるような気がしますが、それでも私にはもはやクッキーに期待するしかありません。
そう思って私が席を立とうとした時でした。
不意にドアが開いて少し心配そうな表情のシエラが入ってきます。
一応今日は私たちに気を遣って家族は別室で夕食を食べていたはずでした。もっとも、その気遣いも完全に裏目に出てしまっていましたが。
「あの、先ほどから全然声が聞こえてこないので心配になりまして……何かありました?」
シエラも一歩部屋に入って私たちの間のただならぬ雰囲気に気づいたのでしょう、そう尋ねます。
そんなシエラの姿を見たウィルはほっと一息つきます。そしてシエラに優し気に声をかけました。
「いや、大したことじゃないよ。すまないね、心配かけてしまって」
「そ、そうですよシエラ。大丈夫です」
私もシエラに心配をかける訳にはいかない、とそう取り繕います。
「あの、実は私もクッキーを焼いたんです」
するとそう言ってシエラはこの空気を変えるためか、クッキーをウィルに差し出します。
が、それを見て私はふと思い出しました。彼女が焼いていたクッキーはフランクに渡すはずのものではなかったのでしょうか? そんなに大量に焼いた記憶はないし、その後私の知らないところでシエラがお菓子作りをした形跡もありませんでした。
となるとあのクッキーは元々ウィルのために焼いたものだったということでしょうか?
「ああ、ありがとうシエラ。この前もおいしかったから嬉しいよ」
ウィルはそう言って喜びます。
一瞬、この気まずい空気を変えるためにあえて大袈裟に喜んでいるのかとも思いましたが、私が見る限り恐らくウィルは本心から喜んでいます。
これでも婚約者としてそこそこの付き合いがある私にはそれが分かってしまっていました。それを自覚した瞬間、私は少しずつ意識が遠のいていくのを感じます。
そしてウィルはシエラが作ったクッキーを口に入れると、満足そうに微笑みます。
「うん、おいしい。きっとシエラは僕のために焼いてくれたんだな」
「はい、その通りです」
「…………ですか」
この時の私はすでに頭の中が真っ白になっていました。
ですが、無意識のうちに口からは声が漏れていたようです。
「ん、どうした?」
「……どうして、シエラの焼いたクッキーはそんなに素直に褒めるのですか!? あれも私が作ったもののはずなのに!」
気が付くと、私の口からはそんな叫び声が出ていました。
言った瞬間、何てことを言ってしまったんだ、という思いはありましたが、同時にようやく言えた、という思いもありました。
先ほどまでも雰囲気は悪かったですが、今度こそ完全に周囲は凍りつきます。
これまで私はウィルのために一方的に尽くしてきましたが、ウィルの私に対する「気持ちが籠っていない」という言葉について深く尋ねることは避けてきました。大人の対応と言えば聞こえはいいですが、ある意味問題を根本から解決することを避け、ひたすら自分が彼に尽くすことで何とかしようとしていただけです。
仮にもしそれでウィルが満足したとしても、いつか私が堪えられなくなっていたことでしょう。
それを自分から打ち破ったことで、私自身も少しだけすっきりしてしまいました。
「お姉様……」
そんな私を見て呆然とするシエラ。
ウィルは少し驚いていましたが、やがて口を開きます。
幸いにも今回は量を減らしておいたため、残されることはありませんでした。
そして食事が終われば私は一応ウィルのために作ったクッキーを用意しています。料理がだめでクッキーが喜ばれる、というのは希望的観測に過ぎるような気がしますが、それでも私にはもはやクッキーに期待するしかありません。
そう思って私が席を立とうとした時でした。
不意にドアが開いて少し心配そうな表情のシエラが入ってきます。
一応今日は私たちに気を遣って家族は別室で夕食を食べていたはずでした。もっとも、その気遣いも完全に裏目に出てしまっていましたが。
「あの、先ほどから全然声が聞こえてこないので心配になりまして……何かありました?」
シエラも一歩部屋に入って私たちの間のただならぬ雰囲気に気づいたのでしょう、そう尋ねます。
そんなシエラの姿を見たウィルはほっと一息つきます。そしてシエラに優し気に声をかけました。
「いや、大したことじゃないよ。すまないね、心配かけてしまって」
「そ、そうですよシエラ。大丈夫です」
私もシエラに心配をかける訳にはいかない、とそう取り繕います。
「あの、実は私もクッキーを焼いたんです」
するとそう言ってシエラはこの空気を変えるためか、クッキーをウィルに差し出します。
が、それを見て私はふと思い出しました。彼女が焼いていたクッキーはフランクに渡すはずのものではなかったのでしょうか? そんなに大量に焼いた記憶はないし、その後私の知らないところでシエラがお菓子作りをした形跡もありませんでした。
となるとあのクッキーは元々ウィルのために焼いたものだったということでしょうか?
「ああ、ありがとうシエラ。この前もおいしかったから嬉しいよ」
ウィルはそう言って喜びます。
一瞬、この気まずい空気を変えるためにあえて大袈裟に喜んでいるのかとも思いましたが、私が見る限り恐らくウィルは本心から喜んでいます。
これでも婚約者としてそこそこの付き合いがある私にはそれが分かってしまっていました。それを自覚した瞬間、私は少しずつ意識が遠のいていくのを感じます。
そしてウィルはシエラが作ったクッキーを口に入れると、満足そうに微笑みます。
「うん、おいしい。きっとシエラは僕のために焼いてくれたんだな」
「はい、その通りです」
「…………ですか」
この時の私はすでに頭の中が真っ白になっていました。
ですが、無意識のうちに口からは声が漏れていたようです。
「ん、どうした?」
「……どうして、シエラの焼いたクッキーはそんなに素直に褒めるのですか!? あれも私が作ったもののはずなのに!」
気が付くと、私の口からはそんな叫び声が出ていました。
言った瞬間、何てことを言ってしまったんだ、という思いはありましたが、同時にようやく言えた、という思いもありました。
先ほどまでも雰囲気は悪かったですが、今度こそ完全に周囲は凍りつきます。
これまで私はウィルのために一方的に尽くしてきましたが、ウィルの私に対する「気持ちが籠っていない」という言葉について深く尋ねることは避けてきました。大人の対応と言えば聞こえはいいですが、ある意味問題を根本から解決することを避け、ひたすら自分が彼に尽くすことで何とかしようとしていただけです。
仮にもしそれでウィルが満足したとしても、いつか私が堪えられなくなっていたことでしょう。
それを自分から打ち破ったことで、私自身も少しだけすっきりしてしまいました。
「お姉様……」
そんな私を見て呆然とするシエラ。
ウィルは少し驚いていましたが、やがて口を開きます。
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