「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません

Ⅰ

気まずい会話

「最近新しく届いた紅茶なんだけどどう？」

　私はウィルに紅茶を出しながら尋ねます。
　ウィルはティーカップを口元に近づけて匂いをかぐ。

「うん、確かにいい香りだ」

　そう言ってウィルは紅茶を一口飲む。
　彼がその味に満足そうにしていたのを見て私はほっとします。

「最近は何か変わったことはありましたか？」
「そうだな……最近は父上に政務について習い始めているよ」

　とはいえ、あまり楽しいことではないためか、ウィルの表情は浮かないものです。

「すごいですね。私はそういうの全然ですから」

　私は慌てて彼をフォローしようとします。もっとも、私は家を継ぐ可能性はないので政務について習ったことはほとんどないですが。

「そりゃエレンは女だからな……あ、いや、別に今のはそういうつもりじゃなくて」
「え、ええ、分かってますよ」

　私たちの間に気まずい沈黙が流れてしまいます。

　おかしい、私はウィルと普通にとりとめのない雑談をしたいだけなのに、何でこうなってしまうのでしょう。
　ウィルも同じことを思ったのか、取り繕うように話を変えます。

「エレンは最近何かあったか？」
「い、いえ、特には。でも、最近今日のために料理の練習や屋敷の掃除をしていたんです」
「そうか……料理と言えば、エレンもシエラも料理が得意だね」

　急にシエラの名前が出てきて私はついびくりとしてしまいます。
　別にそんなに気にすることでもないと言うのに。

「そ、そうですね、うちはあまり使用人もいないので、私たちも家事をやっているんです。でもシエラはまだまだですよ。この前も一緒にクッキーを作っている時、分量を間違えそうになっていましたし」

　私は何気なくそう答えます。
　が、なぜかその瞬間、ウィルの眉がぴくりと動きました。

「そうか……でも彼女も一生懸命頑張っているのにそういう風に言うのは良くないんじゃないかな」
「え？」

　ウィルの言葉に私は困惑します。
　別に今のは悪口というほどのつもりで言った訳ではないのですが、彼にはそう聞こえてしまったのでしょうか。
　それに、ウィルはシエラのことを「一生懸命頑張っている」と言っていますが、一体彼女の何を知っているのでしょう。

「いや、私はそんなつもりでは……」

　今のウィルの言葉には色々と引っ掛かるところが多く、私はついもやもやしてしまいます。ウィルの方も私が本気でシエラのことを悪く言ったと思ったのか、沈黙していました。

　謝った方がいいのかとも思いましたが、謝るとそれはそれで本気で悪口を言っていたように聞こえてしまうような気がしてしまいます。

　そのため、再び私とウィルの間に気まずい沈黙が流れました。
　お互い沈黙をごまかすためにやたらティーカップに手を伸ばします。

　一体どうしたらいいでしょうか。
　少し早いですが、外を見るとすでに太陽は傾いています。それなら気まずい雰囲気を変えるために夕食にしてしまった方がいいのではないでしょうか。夕食は色々頑張って用意したので、それを出せばウィルの気分も晴れるでしょう。

　それはもはや予想というよりは願望に近いものでしたが、そう考えて私は口を開きます。

「ね、ねえウィル、そろそろ夕食にしません？」
「そ、そうだね、ちょうどお腹が空いてきたところだよ」
「では用意してきましたので少し待っていてくださいね」

　私の言葉にウィルも慌てたように同意してくれたので、私は逃げるようにキッチンに向かうのでした。