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Ⅰ
誘い
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それから数日後、私は父上や母上とともに近隣の貴族家で行われたパーティーに出席しました。うちとランカスター家は領地が近いこともあって、当然ウィルの姿もあります。
主だった参加者の方への挨拶が終わると、私はウィルに話しかけに向かいました。
私は彼の姿を見ると反射的に彼がどのくらい食べているのかに目がいってしまいます。そんなものを確認しても意味がないのに。
今日は他家のパーティーだからか、料理は皿に少し載せているだけでした。それでもこの前うちで食べていた量よりは多く思えてしまいますが。
声をかけないのも不自然と思い、私は彼の元へ歩み寄りました。
「こんにちは、ウィル」
「やあ、こんにちは」
相変わらず彼は気のない声で私に挨拶します。
「この前はうちに来てもらいましたので今度は私がお邪魔したいのですが、いかがでしょう?」
話題も特になかったので当たり障りのないことを訊ねました。
大体仲がいい相手同士と会う時は定期的にお互いの屋敷で会うのが普通です。もちろん、時にはレストランなどに誘うこともありますが。
てっきりいつものように生返事をするのかと思いましたが、私の誘いにウィルは一瞬考えこみます。
「実は僕はまたエレンの屋敷に行きたいんだ」
「え? でもうちでは大したもてなしも出来ませんし……」
ウィルの答えに私は首をかしげました。
うちは貴族とはいっても、私が幼いころから家事をやるぐらいには質素な暮らしをしています。おそらく裕福な商人の方がよほど良い暮らしをしているでしょう。
一方のウィルの家であるランカスター子爵家は栄えている港を持っているとかで、子爵家の割には経済的に余裕があり、屋敷もきれいで仕えている人の数も多いです。
そんなウィルからするとうちの屋敷はそんなに来たがるような場所でもないと思いますが。
それに私との関係に思い入れのなさそうなウィルがそんな主張をしてきたこと自体が驚きでした。
「別にお金をかけたもてなしなんていらない。ただ心さえこもっていればそれでいい」
ウィルはとってつけたように言います。
が、ふと私は気が付きました。この前彼が私の料理を食べた時は心がこもってないと言っていました。それなのに急にこんなことを言うのはおかしいです。
何かうちに来たがる特別な理由があるのでしょうか。
「ウィル、もしかしてランカスター家の屋敷に人を招きづらい事情とかあります?」
「べ、別にそんなことはない。ただ君の屋敷に行きたいだけだ」
それを聞いて私はさらに疑問を抱きます。
自家に他人を招きたくない事情がある訳でもなく、わざわざ貧しいうちを訪れたい理由とは。しかもうちにこればまた私が料理を用意することになりますが、彼は私の料理を気に入っていないというのに。
が、そこである可能性に思い至ります。
もしかしてウィルは私じゃなくてシエラに会いたいからこんなことを言っているのではないでしょうか。
私がウィルの屋敷に行けば、当然一人で、シエラに会うことは出来ません。
そのためウィルがシエラに会うためにはうちに来なければなりません。そしてうちに来れば彼女に「挨拶」することは不自然ではありません。
そう考えれば不自然にうちに来たがるのも説明がつきます。
もしそれが本当であればとても悲しいことです。
「だめ……だろうか?」
が、目の前で首をかしげているウィルを見るとそのことを言いだすことは出来ませんでした。
確かに彼の態度は不審ですが、急に問い詰めるみたいなことをしてもしも私の勘違いであれば大変失礼なことです。きっと先日言われた言葉がショックでどうしてもマイナスな方向に考えてしまうのでしょう、と自分に言い聞かせます。
「いえ、構いませんよ。ただこの前と同じようなもてなししか出来ませんがいいでしょうか?」
「もちろん構わない」
彼はまるで自分が料理を残したことなど気にも留めていないように頷きます。彼にとって私の料理を残したことなどどうでもいいことなのでしょうか。それともシエラに会えるなら他のことはどうでもいいということでしょうか。
いや、そんな風に考えてしまうのはよくありません。
逆に言えばこれはウィルとの関係を改善するチャンスとも言えます。
次にウィルが来てくれた時に彼に喜んでもらえるような準備をしておく。それが私のすべきことではないでしょうか。
そう思って私は無理矢理気持ちを切り替えるのでした。
主だった参加者の方への挨拶が終わると、私はウィルに話しかけに向かいました。
私は彼の姿を見ると反射的に彼がどのくらい食べているのかに目がいってしまいます。そんなものを確認しても意味がないのに。
今日は他家のパーティーだからか、料理は皿に少し載せているだけでした。それでもこの前うちで食べていた量よりは多く思えてしまいますが。
声をかけないのも不自然と思い、私は彼の元へ歩み寄りました。
「こんにちは、ウィル」
「やあ、こんにちは」
相変わらず彼は気のない声で私に挨拶します。
「この前はうちに来てもらいましたので今度は私がお邪魔したいのですが、いかがでしょう?」
話題も特になかったので当たり障りのないことを訊ねました。
大体仲がいい相手同士と会う時は定期的にお互いの屋敷で会うのが普通です。もちろん、時にはレストランなどに誘うこともありますが。
てっきりいつものように生返事をするのかと思いましたが、私の誘いにウィルは一瞬考えこみます。
「実は僕はまたエレンの屋敷に行きたいんだ」
「え? でもうちでは大したもてなしも出来ませんし……」
ウィルの答えに私は首をかしげました。
うちは貴族とはいっても、私が幼いころから家事をやるぐらいには質素な暮らしをしています。おそらく裕福な商人の方がよほど良い暮らしをしているでしょう。
一方のウィルの家であるランカスター子爵家は栄えている港を持っているとかで、子爵家の割には経済的に余裕があり、屋敷もきれいで仕えている人の数も多いです。
そんなウィルからするとうちの屋敷はそんなに来たがるような場所でもないと思いますが。
それに私との関係に思い入れのなさそうなウィルがそんな主張をしてきたこと自体が驚きでした。
「別にお金をかけたもてなしなんていらない。ただ心さえこもっていればそれでいい」
ウィルはとってつけたように言います。
が、ふと私は気が付きました。この前彼が私の料理を食べた時は心がこもってないと言っていました。それなのに急にこんなことを言うのはおかしいです。
何かうちに来たがる特別な理由があるのでしょうか。
「ウィル、もしかしてランカスター家の屋敷に人を招きづらい事情とかあります?」
「べ、別にそんなことはない。ただ君の屋敷に行きたいだけだ」
それを聞いて私はさらに疑問を抱きます。
自家に他人を招きたくない事情がある訳でもなく、わざわざ貧しいうちを訪れたい理由とは。しかもうちにこればまた私が料理を用意することになりますが、彼は私の料理を気に入っていないというのに。
が、そこである可能性に思い至ります。
もしかしてウィルは私じゃなくてシエラに会いたいからこんなことを言っているのではないでしょうか。
私がウィルの屋敷に行けば、当然一人で、シエラに会うことは出来ません。
そのためウィルがシエラに会うためにはうちに来なければなりません。そしてうちに来れば彼女に「挨拶」することは不自然ではありません。
そう考えれば不自然にうちに来たがるのも説明がつきます。
もしそれが本当であればとても悲しいことです。
「だめ……だろうか?」
が、目の前で首をかしげているウィルを見るとそのことを言いだすことは出来ませんでした。
確かに彼の態度は不審ですが、急に問い詰めるみたいなことをしてもしも私の勘違いであれば大変失礼なことです。きっと先日言われた言葉がショックでどうしてもマイナスな方向に考えてしまうのでしょう、と自分に言い聞かせます。
「いえ、構いませんよ。ただこの前と同じようなもてなししか出来ませんがいいでしょうか?」
「もちろん構わない」
彼はまるで自分が料理を残したことなど気にも留めていないように頷きます。彼にとって私の料理を残したことなどどうでもいいことなのでしょうか。それともシエラに会えるなら他のことはどうでもいいということでしょうか。
いや、そんな風に考えてしまうのはよくありません。
逆に言えばこれはウィルとの関係を改善するチャンスとも言えます。
次にウィルが来てくれた時に彼に喜んでもらえるような準備をしておく。それが私のすべきことではないでしょうか。
そう思って私は無理矢理気持ちを切り替えるのでした。
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