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膨らむ疑念

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「さっきウィルと話していたみたいだけど、何を話していたの?」

 ウィルが帰って屋敷に戻ると、私は妹のシエラに尋ねます。

 シエラは私の一つ下の妹で、家事の手伝いばかりしている私と違って、きれいなドレスやアクセサリーに憧れる貴族令嬢らしい妹です。もっとも、うちの経済状況では彼女の願いを叶えることはできませんが。

 私が作った夕食を残したのにシエラのクッキーはおいしそうに食べていたこと、それから二人がやけに親密そうだったことが私の心にずっと引っ掛かっていたのです。

 が、

「え“”!?」

 私が尋ねるとシエラはあからさまにぎょっとしました。

 彼女はあまり器用な性格ではないので思っていたことがそのまま顔と声に出ているのでしょうが、そんなに驚かれるとこちらの方が困ってしまいます。

 仲が良さそうというのは私の勘違いで、ただ普通に話していただけなのかとも思っていましたが、そこまで驚いた反応をされるとやはり後ろめたい気持ちがあるのではと思えてしまいます。

 するとシエラはたどたどしい口調で言い訳を始めます。

「ほ、ほら、この間お姉様とクッキーを作ったじゃないですか。うまく出来たと思ったのでウィルさんにもおすそ分けをと思いまして」

 確かにこの前シエラがお菓子の作り方を教えて欲しいと言うので一緒に作ったことがあったのです。私がつきっきりで教えたこともあっておいしいクッキーが出来たのですが、まさかそれがウィルへのプレゼントだったとは。
 その時はてっきり自分で全部食べたものと思っていました。

「それでどうでした?」
「結構おいしいと言ってもらえましたが……そ、それだけです、それ以上は何もありません!」

 シエラは慌てて取り繕うように言います。
 もっとも、私は別に何か二人の仲を疑うようなことを言った訳でもないのに、シエラの方からそう答えるのは逆に不安ですが。

 クッキーの半分以上は教えながら私が作ったと言っても過言ではないので、それを喜んでもらえたのは嬉しいと言えば嬉しいですが、それでも私としては複雑な気持ちです。
 クッキーもほぼ私が作ったみたいなものなのに、なぜ私の料理とあんなに反応が違ったのでしょうか。

「クッキーを作るとき、ほとんど一緒に作ったと思いましたが、何か特別に気をつけたこととかありますか?」

 私が尋ねるとシエラはきょとんとした様子で首をかしげます。

「いえ、お姉様に言われたことをきちんとその通りに行って作っただけですが……」

 そこでシエラは何で私が尋ねたのか思い至ったようではっとします。

 彼女もウィルが結構な量の夕食を残していたことを思い出したのでしょう、それなのに自分のクッキーはすごい勢いで食べられたので私に対して申し訳ないような微妙な気持ちになったのでしょう。
 シエラは少し申し訳なさそうな表情になり、少し慌てたように言います。

「ま、まあたまたまですよきっと。もしくはウィルさんは甘い物が好きなんです」
「別にそんなことはなかったと思いますが」

 というかそもそも彼はそんなに好き嫌いするようなタイプでもないので、余計によく分かりません。

「と、とにかくたまたまですよ。たまたま今日はお菓子の方が食べたい気分だったんです」
「まあそういう日もあるかもしれませんね」

 シエラの言い訳にどこかぎこちなさがあるのが気になりましたが、かといってそれ以上何が原因なのかはよく分かりません。やはりウィルがシエラに私とは違う感情を抱いているのでは、と思いましたがはっきりした証拠もないのにそう決めつけてしまうのは良くないことでしょう。

 こうして私はもやもやを抱えながら眠りにつくのでした。
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