浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
61 / 65

パーティーⅤ

しおりを挟む
「そのことについては僭越ながら私の方から答えさせていただきます!」

 私は広間の前方に出るとそう叫ぶ。
 私が出ていくと、父上は驚きメイナード公は不快そうに眉を動かす。そして後ろではカーティスが兵士と口論していた。

 そんな中、メイナード公は私をぎろりと睨みつける。
 オスカーなど比較にならないほどの威圧感だったが、私はどうにか踏みとどまった。

 今のメイナード公と父上の対決は王国内の勢力争いがかかっている。ここで少しでも父上に後ろ暗いところがあると思われれば、多くの貴族は「結局はどっちも後ろ暗いことがあるのだからメイナード公に味方して甘い汁を吸おう」となってしまうだろう。

 そうなればカーティスやイヴなど、これまでお世話になってきた人の家に対しても良くない影響が出てしまうかもしれない。
 そして何より、私の家の命運がかかっている。

 突然出てしまった大舞台であったが、私はそれを意識して踏みとどまり、メイナード公を睨み返す。

「いきなり出てきてどこの小童だ」

 メイナード公は威圧するような低い声で言った。

「エイミス公の娘、リアナです」
「今はお前のような小僧がしゃべる幕ではない」
「それを言えば、そもそもメイナード公がしゃべる幕でもありませんが」

 そう言って前に出てきたのはクリフの父、アンドリュー公であった。そう言えばクリフの方からも父親を説得してくれると言っていたが、その結果はどうだったのだろうか。
 手放しにうちに味方してくれた訳ではなさそうだが、少なくともこの場では彼は私に発言させようとしてくれている。

「何だと?」
「別に誰がしゃべろうと、真実が明らかになるのであればそれでいいのではないでしょうか?」

 アンドリュー公の言葉にメイナード公は少し考え、やがて思い直したように頷く。

「確かにそうだ。もっとも、こうして出てきたからにはガキであろうと何だろうと、お前の言葉がエイミス公の答えになるということだ。それは分かっているか?」
「その通りです」
「ならせいぜい言ってみるがいい」

 元々はメイナード公が煽ったせいで、大勢の貴族たちはこの問題にかなり興味を示しているようだった。
 そのため、もし彼が私を黙らせようものなら逆に顰蹙をかいかねないと思ったのだろう。
 もしくは私のことをただのガキだと侮っているのか。

 いずれにせよ、メイナード公は私が話すのを認めざるを得なかった。
 そんな中、父上だけははらはらしながらこちらを見守っていた。普段威厳のある父上があんな表情をしているのを見るのは初めてかもしれない。私は父上を安心させるために頷き返す。

 ここ最近、法律や政治について色々学んできたが、その中で自分の家がどうなっているのかについても学んできた。そこで学んだことを今こそ話さなければ。

「では父上の代わりに述べさせていただきます。まずフーバー港の利益についてですが、昨年から我が家では独自の取引を行っています。そのため、我が家が元手を出資した得た利益は当然全て我が家の取り分となります。公爵がおっしゃった七割というのはそれらを全て合算して計算した場合の割合です」
「……」

 私の言葉にメイナード公はそれ以上反論しなかった。
 私が言っていることを否定する材料はなかったのだろう。

 そして矢継ぎ早に次の問いを発する。

「では教会の件は」
「教会の件ですが、我が領内では商業を推し進めています。その際、教会の方も蓄えた財で商売することを許可したのですが、我が家の見解としては教会と言えど商取引をして得た財は普通に課税されると考えております。ただ、この件についてはまだ係争中なのでメイナード公の手を煩わせることはないかと」

 私の言葉に周囲の貴族たちの反応は様々だった。

 賛否両論だが、中には「そもそも教会が商売で金儲けなどありえない」という声もあった。それから私は残りの事項についても一つずつ反論していく。
 それから他にもいくつかの件について尋ねられたが、私はそれらについても順に応えていく。

 メイナード公は表情を変えなかったが、私が話し終えるころにはすっかり仏頂面になっていた。

「……と言う訳ですが皆様いかがでしょうか」

 そう言って私は居並ぶ貴族たちの方を見る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...