浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
60 / 65

パーティーⅣ

しおりを挟む
「突然何を言い出すか、メイナード公爵! ここはおぬしの個人的な意見を表明する場ではない! 王国の繁栄を祝う式典だ! それなのに先ほどから聞いていれば勝手なことを次々と!」

 父上は質問に正面から答えるのではなく、まずはメイナード公爵がいきなり話始めたことを非難する。
 恐らく屋敷に戻ればメイナード公の主張に反論する資料は用意出来る。
 だからこの場で正面から質問に答えるのは良くない、と思ったのだろう。

「いいではないか、それよりも私が提示した疑惑に答えていただきたい」

 そう言ってメイナード公は笑う。
 周りの貴族たちも突如提示された疑惑に父上がどう答えるのか、興味を示している。

 こういう時、メイナード公のように日頃からイメージが悪い貴族はこういうことをしてもさしてイメージが悪化する訳でもないが、元々まっとうな貴族として生きてきた父上はいちいち疑惑に答えなければならない。
 もっとも、父上は真っ当な生き方をしてきたからこそ先ほど貴族代表の祝辞を任されている訳だし、普通はその方がいいに決まっているが。

「フーバー港については王家との取り決めに従って適切に分配しているし、税に関しても教会から直接とっている訳ではない」

 やむなく父上はその場で立ち上がり弁解する。が、

「ではどういう取り決めなのか、詳細に説明してもらってもいいだろうか」

 メイナード公は間髪入れずに追及する。その言葉に父上は一瞬沈黙した。

 基本的に父上は一つ一つの条約の内容は把握していても、細かい文言まで把握している訳ではない。ここで迂闊なことを言って少しでも間違っていれば、「嘘をついた」などと責め立てることも出来る。
 対するメイナード公は父上がぼろを出すまでひたすら重箱の隅をつつくような質問を繰り返すだけでいい。

 それならここは答えずにメイナード公の非礼を指摘し、後日改めて他の貴族たちに釈明した方がいい。
 父上はそう判断したのかもしれない。

 だが、そんな父上を見てメイナード公と父上のどちらにつくと悩んでいた貴族たちは不安そうな表情を見せる。
 このままではどちらに着くか迷っている貴族たちはメイナード公には敵対しない方がいい、と向こうに味方してしまうかもしれない。
 父上も恐らくそのことを悟ったのだろう、苦渋の表情を浮かべている。
 恐らく、細かいボロが出ることを覚悟で反論するか、沈黙を貫くか考えているのだろう。
 メイナード公が裏から手を回しているせいか、式典をぶち壊しにしたメイナード公が咎められる気配はない。

 それを見て私は決心した。そして席から立ちあがり、前方へと歩いていく。

 すると私の前に会場を護衛していた兵士たちが立ちふさがった。広間の前方は各貴族家の当主しか入ってはいけないことになっていた。

「ここから先は各家の当主の方だけが入れるところです」
「そんなことを言うならメイナード公のあの振る舞いをまず注意すべきではないでしょうか」
「それは私たちの職務ではありませんので」

 兵士たちは固い表情で答える。彼らもメイナード公に買収されているのか、ただ融通が利かないだけか。

「行かせてください、私はエイミス公の娘です。このことについて説明させていただきたいのです!」
「ですが規則ですので……」

 とはいえ兵士はどく気配はない。
 父上に加勢しようかと思ったが、通してもらえないのであればそれも無理だ。
 そう思った時だった。
 突然、兵士を押しのけるように人影が現れる。

「他の貴族たちも皆エイミス公爵の釈明を聞きたがっている。だから彼女を通すべきではないか」
「カーティス!?」

 現れたのはカーティスだった。そう言えば彼もこの式典に参加していた。
 彼は私をちらっと見ると兵士に向き直る。

「と言う訳で通してもらおう!」

 そう言って強引に兵士の体をどかす。さすがの兵士たちもカーティスに反撃する訳にもいかず、その場には少しの空間が空く。

「今だ、リアナ!」

 せっかく作ってもらったチャンスを生かさない訳にはいかない。
 私はカーティスが兵士を押しのけた隙間を走り抜ける。

「ありがとう、カーティス!」

 そう言って私は広間の前方に向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...