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Ⅳ
パーティーⅣ
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「突然何を言い出すか、メイナード公爵! ここはおぬしの個人的な意見を表明する場ではない! 王国の繁栄を祝う式典だ! それなのに先ほどから聞いていれば勝手なことを次々と!」
父上は質問に正面から答えるのではなく、まずはメイナード公爵がいきなり話始めたことを非難する。
恐らく屋敷に戻ればメイナード公の主張に反論する資料は用意出来る。
だからこの場で正面から質問に答えるのは良くない、と思ったのだろう。
「いいではないか、それよりも私が提示した疑惑に答えていただきたい」
そう言ってメイナード公は笑う。
周りの貴族たちも突如提示された疑惑に父上がどう答えるのか、興味を示している。
こういう時、メイナード公のように日頃からイメージが悪い貴族はこういうことをしてもさしてイメージが悪化する訳でもないが、元々まっとうな貴族として生きてきた父上はいちいち疑惑に答えなければならない。
もっとも、父上は真っ当な生き方をしてきたからこそ先ほど貴族代表の祝辞を任されている訳だし、普通はその方がいいに決まっているが。
「フーバー港については王家との取り決めに従って適切に分配しているし、税に関しても教会から直接とっている訳ではない」
やむなく父上はその場で立ち上がり弁解する。が、
「ではどういう取り決めなのか、詳細に説明してもらってもいいだろうか」
メイナード公は間髪入れずに追及する。その言葉に父上は一瞬沈黙した。
基本的に父上は一つ一つの条約の内容は把握していても、細かい文言まで把握している訳ではない。ここで迂闊なことを言って少しでも間違っていれば、「嘘をついた」などと責め立てることも出来る。
対するメイナード公は父上がぼろを出すまでひたすら重箱の隅をつつくような質問を繰り返すだけでいい。
それならここは答えずにメイナード公の非礼を指摘し、後日改めて他の貴族たちに釈明した方がいい。
父上はそう判断したのかもしれない。
だが、そんな父上を見てメイナード公と父上のどちらにつくと悩んでいた貴族たちは不安そうな表情を見せる。
このままではどちらに着くか迷っている貴族たちはメイナード公には敵対しない方がいい、と向こうに味方してしまうかもしれない。
父上も恐らくそのことを悟ったのだろう、苦渋の表情を浮かべている。
恐らく、細かいボロが出ることを覚悟で反論するか、沈黙を貫くか考えているのだろう。
メイナード公が裏から手を回しているせいか、式典をぶち壊しにしたメイナード公が咎められる気配はない。
それを見て私は決心した。そして席から立ちあがり、前方へと歩いていく。
すると私の前に会場を護衛していた兵士たちが立ちふさがった。広間の前方は各貴族家の当主しか入ってはいけないことになっていた。
「ここから先は各家の当主の方だけが入れるところです」
「そんなことを言うならメイナード公のあの振る舞いをまず注意すべきではないでしょうか」
「それは私たちの職務ではありませんので」
兵士たちは固い表情で答える。彼らもメイナード公に買収されているのか、ただ融通が利かないだけか。
「行かせてください、私はエイミス公の娘です。このことについて説明させていただきたいのです!」
「ですが規則ですので……」
とはいえ兵士はどく気配はない。
父上に加勢しようかと思ったが、通してもらえないのであればそれも無理だ。
そう思った時だった。
突然、兵士を押しのけるように人影が現れる。
「他の貴族たちも皆エイミス公爵の釈明を聞きたがっている。だから彼女を通すべきではないか」
「カーティス!?」
現れたのはカーティスだった。そう言えば彼もこの式典に参加していた。
彼は私をちらっと見ると兵士に向き直る。
「と言う訳で通してもらおう!」
そう言って強引に兵士の体をどかす。さすがの兵士たちもカーティスに反撃する訳にもいかず、その場には少しの空間が空く。
「今だ、リアナ!」
せっかく作ってもらったチャンスを生かさない訳にはいかない。
私はカーティスが兵士を押しのけた隙間を走り抜ける。
「ありがとう、カーティス!」
そう言って私は広間の前方に向かうのだった。
父上は質問に正面から答えるのではなく、まずはメイナード公爵がいきなり話始めたことを非難する。
恐らく屋敷に戻ればメイナード公の主張に反論する資料は用意出来る。
だからこの場で正面から質問に答えるのは良くない、と思ったのだろう。
「いいではないか、それよりも私が提示した疑惑に答えていただきたい」
そう言ってメイナード公は笑う。
周りの貴族たちも突如提示された疑惑に父上がどう答えるのか、興味を示している。
こういう時、メイナード公のように日頃からイメージが悪い貴族はこういうことをしてもさしてイメージが悪化する訳でもないが、元々まっとうな貴族として生きてきた父上はいちいち疑惑に答えなければならない。
もっとも、父上は真っ当な生き方をしてきたからこそ先ほど貴族代表の祝辞を任されている訳だし、普通はその方がいいに決まっているが。
「フーバー港については王家との取り決めに従って適切に分配しているし、税に関しても教会から直接とっている訳ではない」
やむなく父上はその場で立ち上がり弁解する。が、
「ではどういう取り決めなのか、詳細に説明してもらってもいいだろうか」
メイナード公は間髪入れずに追及する。その言葉に父上は一瞬沈黙した。
基本的に父上は一つ一つの条約の内容は把握していても、細かい文言まで把握している訳ではない。ここで迂闊なことを言って少しでも間違っていれば、「嘘をついた」などと責め立てることも出来る。
対するメイナード公は父上がぼろを出すまでひたすら重箱の隅をつつくような質問を繰り返すだけでいい。
それならここは答えずにメイナード公の非礼を指摘し、後日改めて他の貴族たちに釈明した方がいい。
父上はそう判断したのかもしれない。
だが、そんな父上を見てメイナード公と父上のどちらにつくと悩んでいた貴族たちは不安そうな表情を見せる。
このままではどちらに着くか迷っている貴族たちはメイナード公には敵対しない方がいい、と向こうに味方してしまうかもしれない。
父上も恐らくそのことを悟ったのだろう、苦渋の表情を浮かべている。
恐らく、細かいボロが出ることを覚悟で反論するか、沈黙を貫くか考えているのだろう。
メイナード公が裏から手を回しているせいか、式典をぶち壊しにしたメイナード公が咎められる気配はない。
それを見て私は決心した。そして席から立ちあがり、前方へと歩いていく。
すると私の前に会場を護衛していた兵士たちが立ちふさがった。広間の前方は各貴族家の当主しか入ってはいけないことになっていた。
「ここから先は各家の当主の方だけが入れるところです」
「そんなことを言うならメイナード公のあの振る舞いをまず注意すべきではないでしょうか」
「それは私たちの職務ではありませんので」
兵士たちは固い表情で答える。彼らもメイナード公に買収されているのか、ただ融通が利かないだけか。
「行かせてください、私はエイミス公の娘です。このことについて説明させていただきたいのです!」
「ですが規則ですので……」
とはいえ兵士はどく気配はない。
父上に加勢しようかと思ったが、通してもらえないのであればそれも無理だ。
そう思った時だった。
突然、兵士を押しのけるように人影が現れる。
「他の貴族たちも皆エイミス公爵の釈明を聞きたがっている。だから彼女を通すべきではないか」
「カーティス!?」
現れたのはカーティスだった。そう言えば彼もこの式典に参加していた。
彼は私をちらっと見ると兵士に向き直る。
「と言う訳で通してもらおう!」
そう言って強引に兵士の体をどかす。さすがの兵士たちもカーティスに反撃する訳にもいかず、その場には少しの空間が空く。
「今だ、リアナ!」
せっかく作ってもらったチャンスを生かさない訳にはいかない。
私はカーティスが兵士を押しのけた隙間を走り抜ける。
「ありがとう、カーティス!」
そう言って私は広間の前方に向かうのだった。
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