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Ⅳ
エルマ視点 父親の要求
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クリフに助けられた日、エルマはクリフに手を引かれてオスカーに連れていかれた屋敷を離れた。もし彼が来なければ自分はあの男たちに弄ばれていただろう。
そう思うとクリフには感謝してもしきれなかった。
だからエルマはお礼を言ったが、クリフの方が恥ずかしくなったのか、すぐにその場を離れてしまった。
それまでエルマはクリフを誘惑していた時も、怒られた後も実家がいいだけのぼんぼんだと思っていたが、今日のクリフはそれまでとは違っていて、思わず見る目が変わってしまった。
とはいえエルマ自身、クリフを騙していたという引け目があるのでそれ以上彼を引き留めることも出来ず、黙って家に帰ったのである。
その日の遅く、屋敷に帰ると、父であるオルドナ伯爵は珍しく上機嫌であった。
「おお、帰ったか、エルマ」
珍しく父はエルマにも上機嫌に話しかけてくる。オルドナ伯爵はエルマのことを自家を大きくする道具としてしか見ておらず、エルマがクリフと仲良くしている間はエルマにも優しかったが、クリフと破局してからはほぼ無視に近い扱いであった。
結局自分はいい男を捕まえるための道具でしかないのか、と悲しくはなったが一体どうして風向きが変わったのだろうか。
ちなみに帰りが遅いことについては気にもされていなかった。
「何かいいことでもあったのでしょうか?」
「最近おぬしはメイナードの跡継ぎと仲がいいそうだな」
「ええ、まあ」
昨日まではそうだったが、とも言えずにエルマは言葉を濁す。
「クリフと破局したときはもうだめかと思ったが、お前もなかなかやるじゃないか」
「はあ」
オスカーがろくでもないやつだった、とも答えづらい雰囲気なのでエルマは適当に言葉を濁す。
どうせすぐに自分がオスカーと破局したと知って手の平を返すのだろうと思ったが、今日は疲れているのでわざわざ自分から嫌な話題を出したくはなかった。
「すみません、今日は疲れているので」
「ちょっと待て」
そう言って自室に戻ろうとするが、こんな日に限って父はエルマを引き留める。
「何でしょう?」
「実は今国ではメイナード公が国有地における貴族の力を強化する法律を出そうとして、色々揉めているのだ」
「それを出すとどうなるのでしょう」
「簡単に言えば、国有地の管理を代行している貴族の裁量が大きくなり、今までよりも収入が増えるということだ」
要するに国有地の諸々を誤魔化して懐を温めようという話だろう。
裁量が大きくなれば、誤魔化せるお金も増える。簡単な話だった。
とはいえそれが一体どう自分に関係するのだろうか。
「とはいえ、その法律が通れば国有地を多く預かっている我らやメイナード公は得をするが、そうでない者たちにはそれがおもしろくない。もちろんわしは率先してメイナード公に協力するつもりだが、うまくいけばお礼にお前をオスカーに嫁がせることが出来るかもしれない。そうなれば我が家は安泰だ」
要するに国で有数の大きな家であるメイナード公爵家との仲を盤石にしたいから、せいぜい今のうちにオスカーと仲良くしておけということだろう。
先ほどのことを思い出すと気持ちが暗くなるが、父にとってはエルマがオスカーにどのような目に遭わされようと結果的に嫁ぐのに成功すればあまり関係はないのだろう。
「……分かりました」
そう言ってエルマは暗い気持ちで自室に戻るのだった。
オスカーに取り入ろうとすればまたあのような目に遭わされるかもしれない。しかし父の言うことに逆らえば、今度こそ本当に家を追い出されるかもしれない。
どちらも嫌だったのでエルマも容易には決心がつかなかった。
が、それから数日の間様子を見ていると、少しずつ周囲の生徒がオスカーにすり寄っているのを見かけるようになった。
あの試合の後だから、オスカー本人がどうというよりはメイナード家に取り入っておこう、と思った貴族が自分の子供にもオスカーに取り入らせようと命令したのだろう。
彼らはオスカーの本性をどの程度知っているのだろうか。
一方、エルマはさりげなくクリフの様子を伺ってみたが、彼はそれからエルマに特に声を掛けて来るでもなく、黙々と自分の勉強や運動に励んでいるようだった。
それを見て、やはりあの日クリフが助けてくれたのはたまたまだったのだろう、と思い直す。
結局自分は父の言う通りにオスカーに取り入るしかないのだ。
そう考えたエルマはやむなくあの日のことはなかったことにしてオスカーの元へと戻るのだった。
そう思うとクリフには感謝してもしきれなかった。
だからエルマはお礼を言ったが、クリフの方が恥ずかしくなったのか、すぐにその場を離れてしまった。
それまでエルマはクリフを誘惑していた時も、怒られた後も実家がいいだけのぼんぼんだと思っていたが、今日のクリフはそれまでとは違っていて、思わず見る目が変わってしまった。
とはいえエルマ自身、クリフを騙していたという引け目があるのでそれ以上彼を引き留めることも出来ず、黙って家に帰ったのである。
その日の遅く、屋敷に帰ると、父であるオルドナ伯爵は珍しく上機嫌であった。
「おお、帰ったか、エルマ」
珍しく父はエルマにも上機嫌に話しかけてくる。オルドナ伯爵はエルマのことを自家を大きくする道具としてしか見ておらず、エルマがクリフと仲良くしている間はエルマにも優しかったが、クリフと破局してからはほぼ無視に近い扱いであった。
結局自分はいい男を捕まえるための道具でしかないのか、と悲しくはなったが一体どうして風向きが変わったのだろうか。
ちなみに帰りが遅いことについては気にもされていなかった。
「何かいいことでもあったのでしょうか?」
「最近おぬしはメイナードの跡継ぎと仲がいいそうだな」
「ええ、まあ」
昨日まではそうだったが、とも言えずにエルマは言葉を濁す。
「クリフと破局したときはもうだめかと思ったが、お前もなかなかやるじゃないか」
「はあ」
オスカーがろくでもないやつだった、とも答えづらい雰囲気なのでエルマは適当に言葉を濁す。
どうせすぐに自分がオスカーと破局したと知って手の平を返すのだろうと思ったが、今日は疲れているのでわざわざ自分から嫌な話題を出したくはなかった。
「すみません、今日は疲れているので」
「ちょっと待て」
そう言って自室に戻ろうとするが、こんな日に限って父はエルマを引き留める。
「何でしょう?」
「実は今国ではメイナード公が国有地における貴族の力を強化する法律を出そうとして、色々揉めているのだ」
「それを出すとどうなるのでしょう」
「簡単に言えば、国有地の管理を代行している貴族の裁量が大きくなり、今までよりも収入が増えるということだ」
要するに国有地の諸々を誤魔化して懐を温めようという話だろう。
裁量が大きくなれば、誤魔化せるお金も増える。簡単な話だった。
とはいえそれが一体どう自分に関係するのだろうか。
「とはいえ、その法律が通れば国有地を多く預かっている我らやメイナード公は得をするが、そうでない者たちにはそれがおもしろくない。もちろんわしは率先してメイナード公に協力するつもりだが、うまくいけばお礼にお前をオスカーに嫁がせることが出来るかもしれない。そうなれば我が家は安泰だ」
要するに国で有数の大きな家であるメイナード公爵家との仲を盤石にしたいから、せいぜい今のうちにオスカーと仲良くしておけということだろう。
先ほどのことを思い出すと気持ちが暗くなるが、父にとってはエルマがオスカーにどのような目に遭わされようと結果的に嫁ぐのに成功すればあまり関係はないのだろう。
「……分かりました」
そう言ってエルマは暗い気持ちで自室に戻るのだった。
オスカーに取り入ろうとすればまたあのような目に遭わされるかもしれない。しかし父の言うことに逆らえば、今度こそ本当に家を追い出されるかもしれない。
どちらも嫌だったのでエルマも容易には決心がつかなかった。
が、それから数日の間様子を見ていると、少しずつ周囲の生徒がオスカーにすり寄っているのを見かけるようになった。
あの試合の後だから、オスカー本人がどうというよりはメイナード家に取り入っておこう、と思った貴族が自分の子供にもオスカーに取り入らせようと命令したのだろう。
彼らはオスカーの本性をどの程度知っているのだろうか。
一方、エルマはさりげなくクリフの様子を伺ってみたが、彼はそれからエルマに特に声を掛けて来るでもなく、黙々と自分の勉強や運動に励んでいるようだった。
それを見て、やはりあの日クリフが助けてくれたのはたまたまだったのだろう、と思い直す。
結局自分は父の言う通りにオスカーに取り入るしかないのだ。
そう考えたエルマはやむなくあの日のことはなかったことにしてオスカーの元へと戻るのだった。
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