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Ⅳ
カーティスの相談
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試合の後も、色々話題にはなっていたが、私は変わらぬ学園生活を送っていた。
変わったのはカーティスで、クラス内だけでなく一、二年生の他の生徒たちからも尊敬の眼差しで見られるようになった。廊下で他クラスや後輩から声を掛けられることも増えたようだ。もっとも周囲の彼を見る目が変わっても彼自身には特に変わった様子はなかったが。
また、変わったと言えばクリフの様子も少し変わっていた。今まで死んだ目で日々を過ごしていたのに、試合の日の前後から少しだけ目に生気が戻って来たような気がする。私と関係ないところで何かあったのだろうか。
もっともその後クリフが私に何か言ってくることもなかったが。
とはいえ彼との関係についても、父上がクリフの父親と何か話しているようなので、もしかすると婚約が解消される日も近いかもしれない。
「リアナ、実は今日は折り入って相談があるんだが」
そんなある日のこと。
いつものようにイヴとカーティスと勉強会をしていると、不意にカーティスが切り出す。カーティスが相談を持ち掛けてくるなんてこの勉強会を始めた時以来ではないか。カーティスに頼られるのは素直に嬉しかった。
「何?」
「最近リアナはニコラス先生に直接法学を習っているだろ?」
「そうだけど」
先生との勉強会も相変わらず続けてはいる。最近はより専門的な内容になってきて、週に一、二回でもついていくが大変になってきているが、だからこそ逆におもしろいとも言える。
「じゃあ法学にはまあまあ詳しい訳だな?」
「一応そうなるけど」
「実は我が家が大分前からメイナード家から借りているお金があったんだが、それを急に全額返せと言われたんだ」
「そんなことが」
実は貴族の家同士は結構お金の貸し借りがあったとする。仲のいい家や大きな家同士だと、お互いがお互いに過去にお金を貸していて債権の持ち合いみたいなことが発生していることもある。
カーティスの実家、グランド家は侯爵家である。決して小貴族という訳ではないが、国で有数の大貴族であるメイナード家に比べると家格は落ちると言わざるをえない。
貴族の家には冠婚葬祭や領内の飢饉や災害、もしくは国から急に労役の命令があったりして出費が発生し、払えずにお金を借りてしのぐということがよくある。
商人から借りて済ませたり、借りてもすぐに返済することが出来れば他家への借金という形では残らないが、そもそもぎりぎりで運営している家だと急な出費が発生してそのお金を借りた場合返済出来ないこともある。
貸す側もお金のない家から無理に取り立てて恨みを買うよりも、貸しにしておく方がいいと判断してそのままになることがある。
おそらくグランド家もそんな感じだったのだろう。
「それで返さなければグランド家とメイナード家の境界にある領地を質に入れろと迫られているんだ」
「なるほど……借金の契約書とかはあるの?」
「あるけど、返済期限は大分過ぎている」
カーティスは暗い表情で言った。
おそらく大分前に借りて、その時は口約束か何かで返済を遅らせ、そのまま宙ぶらりんになっていた借金なのだろう。
「それってやっぱりこの前の試合のせいなのかな」
イヴも険しい表情で言う。
試合で負けたオスカーがカーティスに復讐するために父親に泣きついてそうさせたというのはありえなくはない。
もっとも、メイナード公が子供のためだけにそんなことをする人物なのかはよく分からない。
父上ならメイナード公のことはもっと知っているだろうが、私のような子供の身では特に接点もなく、何となく怖そうな人、というぐらいのイメージしかない。
いや、そう言えば一度だけメイナード公の恐ろしさに触れたことがあった。
前に歴史の授業を受けていた時である。
教師の一人が、王国の建国の折にメイナード家の先祖が行ったとされる事績を違う貴族が行ったと生徒に教えた。元々メイナード家が自分の手柄にしているだけでそれが間違っていたのか、ただの言い間違えなのか、教師のメイナード家に対する嫌がらせなのかは定かではない。
生徒の何人かは首をかしげたが、特に指摘することもなく授業は終わった。
歴史の授業では皆自分の先祖に都合のいいように話を作るため、そういうことは大なり小なり起こることだからである。
が、数日後なぜかその先生は長期休暇に入り、歴史の先生は交代した。
そう言えば彼は長期休暇から復帰した様子はない。
そのため、メイナード公が先生を辞めさせた、という噂が立ったのだった。
もちろんあくまで噂に過ぎないが、メイナード家ならやりかねない、と妙な信憑性があったのは確かだ。
「どうだろう、オスカーの意向がメイナード家にどの程度反映されているのかは分からないが。もしかしたら他に理由があるのかもしれない」
そう言ってカーティスは首をかしげる。
「グランド家が借金をしているのは恐らく本当だからどうにもならないかもしれないけど、一応色々調べてみる」
「ありがとう、リアナが味方してくれるなら心強い」
カーティスはほっとしたように言う。
とはいえ、相手がメイナード家のような大きな家であれば、法的にこちらの方が正しいとしても必ずしも勝てる訳ではない。
法律というのはよほどの悪人を裁く時以外は、あくまでお互いが対等である時以外はうまく機能しない。
それでも相手がメイナード家ということもあって、私は調べてみようという気になったのだった。
変わったのはカーティスで、クラス内だけでなく一、二年生の他の生徒たちからも尊敬の眼差しで見られるようになった。廊下で他クラスや後輩から声を掛けられることも増えたようだ。もっとも周囲の彼を見る目が変わっても彼自身には特に変わった様子はなかったが。
また、変わったと言えばクリフの様子も少し変わっていた。今まで死んだ目で日々を過ごしていたのに、試合の日の前後から少しだけ目に生気が戻って来たような気がする。私と関係ないところで何かあったのだろうか。
もっともその後クリフが私に何か言ってくることもなかったが。
とはいえ彼との関係についても、父上がクリフの父親と何か話しているようなので、もしかすると婚約が解消される日も近いかもしれない。
「リアナ、実は今日は折り入って相談があるんだが」
そんなある日のこと。
いつものようにイヴとカーティスと勉強会をしていると、不意にカーティスが切り出す。カーティスが相談を持ち掛けてくるなんてこの勉強会を始めた時以来ではないか。カーティスに頼られるのは素直に嬉しかった。
「何?」
「最近リアナはニコラス先生に直接法学を習っているだろ?」
「そうだけど」
先生との勉強会も相変わらず続けてはいる。最近はより専門的な内容になってきて、週に一、二回でもついていくが大変になってきているが、だからこそ逆におもしろいとも言える。
「じゃあ法学にはまあまあ詳しい訳だな?」
「一応そうなるけど」
「実は我が家が大分前からメイナード家から借りているお金があったんだが、それを急に全額返せと言われたんだ」
「そんなことが」
実は貴族の家同士は結構お金の貸し借りがあったとする。仲のいい家や大きな家同士だと、お互いがお互いに過去にお金を貸していて債権の持ち合いみたいなことが発生していることもある。
カーティスの実家、グランド家は侯爵家である。決して小貴族という訳ではないが、国で有数の大貴族であるメイナード家に比べると家格は落ちると言わざるをえない。
貴族の家には冠婚葬祭や領内の飢饉や災害、もしくは国から急に労役の命令があったりして出費が発生し、払えずにお金を借りてしのぐということがよくある。
商人から借りて済ませたり、借りてもすぐに返済することが出来れば他家への借金という形では残らないが、そもそもぎりぎりで運営している家だと急な出費が発生してそのお金を借りた場合返済出来ないこともある。
貸す側もお金のない家から無理に取り立てて恨みを買うよりも、貸しにしておく方がいいと判断してそのままになることがある。
おそらくグランド家もそんな感じだったのだろう。
「それで返さなければグランド家とメイナード家の境界にある領地を質に入れろと迫られているんだ」
「なるほど……借金の契約書とかはあるの?」
「あるけど、返済期限は大分過ぎている」
カーティスは暗い表情で言った。
おそらく大分前に借りて、その時は口約束か何かで返済を遅らせ、そのまま宙ぶらりんになっていた借金なのだろう。
「それってやっぱりこの前の試合のせいなのかな」
イヴも険しい表情で言う。
試合で負けたオスカーがカーティスに復讐するために父親に泣きついてそうさせたというのはありえなくはない。
もっとも、メイナード公が子供のためだけにそんなことをする人物なのかはよく分からない。
父上ならメイナード公のことはもっと知っているだろうが、私のような子供の身では特に接点もなく、何となく怖そうな人、というぐらいのイメージしかない。
いや、そう言えば一度だけメイナード公の恐ろしさに触れたことがあった。
前に歴史の授業を受けていた時である。
教師の一人が、王国の建国の折にメイナード家の先祖が行ったとされる事績を違う貴族が行ったと生徒に教えた。元々メイナード家が自分の手柄にしているだけでそれが間違っていたのか、ただの言い間違えなのか、教師のメイナード家に対する嫌がらせなのかは定かではない。
生徒の何人かは首をかしげたが、特に指摘することもなく授業は終わった。
歴史の授業では皆自分の先祖に都合のいいように話を作るため、そういうことは大なり小なり起こることだからである。
が、数日後なぜかその先生は長期休暇に入り、歴史の先生は交代した。
そう言えば彼は長期休暇から復帰した様子はない。
そのため、メイナード公が先生を辞めさせた、という噂が立ったのだった。
もちろんあくまで噂に過ぎないが、メイナード家ならやりかねない、と妙な信憑性があったのは確かだ。
「どうだろう、オスカーの意向がメイナード家にどの程度反映されているのかは分からないが。もしかしたら他に理由があるのかもしれない」
そう言ってカーティスは首をかしげる。
「グランド家が借金をしているのは恐らく本当だからどうにもならないかもしれないけど、一応色々調べてみる」
「ありがとう、リアナが味方してくれるなら心強い」
カーティスはほっとしたように言う。
とはいえ、相手がメイナード家のような大きな家であれば、法的にこちらの方が正しいとしても必ずしも勝てる訳ではない。
法律というのはよほどの悪人を裁く時以外は、あくまでお互いが対等である時以外はうまく機能しない。
それでも相手がメイナード家ということもあって、私は調べてみようという気になったのだった。
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