浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

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エルマ視点 窮地

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「よし、ならばついて来い」
「は、はい」

 そう言ってオスカーはエルマの手を引いてどこかへ歩いていく。
 が、オスカーはお店がたくさんあるだろう繁華街や王都中心からは遠ざかっていくので、どこに向かっているのだろう、と思ってしまう。

「あの、一体どちらへ?」
「もうすぐ分かる」

 そう言われればエルマにはそれ以上言い返すことは出来ない。
 やがて二人は王都の普通の街並みの外へ出る。

 そこにはあまりお金のない貴族の屋敷がいくつか並んでいた。王都の土地は高いため、王都の屋敷は郊外の安い土地に建っているのだ。ちなみにメイナード家は裕福なのでもっと王都の中心に建っている。

 オスカーはそのうちの一つに近づいていく。
 さすがにエルマも何かがおかしいと気づく。

「あの、一体どちらに行くのですか?」

 そう言ってエルマは足を止めようとする。
 が、オスカーは強引にエルマの腕を引っ張って歩く。そうされるとエルマはついて行かざるを得ない。
 そしてオスカーが自分に説明する気がないということを理解し、自分がもしかするととてもまずい状況に陥っているのではないかと思いいたる。

「ここだ」

 やがてオスカーは一軒の建物の前で足を止める。
 そこは貴族の屋敷が並ぶ中に混ざっている廃屋のような屋敷だった。少なくとも今人が中に暮らしているようには見えない。
 エルマが先ほど抱いた不安がどんどん大きくなっていく。

「あの、ここは?」
「ここには俺の知り合いがたくさんいるんだ」
「知り合い?」

 基本的にこの国の貴族で年齢が近い者はほぼ全員学園にいる。ということは年が離れているか、身分が違う相手となるが……などと思っていながら、エルマも続く。

 そして息を飲んだ。
 中にいたのはオスカーよりも年上の、おそらく他家の貴族の男たちだった。
 だが、いずれも人相が悪く、オスカーが混ざっていても何の違和感がないぐらいだった。着ている服や持っている物がいずれも上質なものであることを除けば、ならず者の巣窟と言われても違和感がないだろう。

 中も散らかってはいるが、転がっている酒や食べ物は自分の屋敷で見るものと大差なかった。
 オスカーを除けばここまで柄の悪い男たちに囲まれたことのないエルマは思わず身がすくんでしまう。
 彼らはエルマを見ると下品な笑みを浮かべた。

「おお、オスカーさん、今日はきれいな女を連れてきてくれたんすか」
「さすがっす」

 男たちはオスカーの舎弟のような言動をしている。

「ちょっと今日は学園で不愉快なことがあってな、ぱーっと酒でも飲みたい気分なんだ。当然注いでくれるよな?」
「は、はい」

 オスカーの有無を言わせぬ視線にエルマは頷くしかない。
 それを見て男たちは沸き立つ。

「酒宴だ!」「さすがオスカーさん!」「こんな可愛い女子を連れてくるなんて!」

 貴族らしからぬ下品な物言いにエルマは恐怖し、助けを求めるようにオスカーを見る。

「あの、この方たちは……」
「主に下級貴族の三男とか四男とかで家からあぶれた連中だ。せっかくだから俺が養ってやってるんだ」
「そ、そうですか」

 仕方なくエルマは言われるがままに酒をついでいく。
 男たちは時々卑猥なことを叫びながら大声で酒を飲んでいたが、次第に酔っぱらっていく。

「あの、そろそろ私は帰らないと……」

 エルマが言ったときだった。
 彼女の腕をがしっとオスカーが掴む。

「!?」

 ここまで固く腕を握られたのは初めてで、血が止まるかと思った。
 突然のことにエルマは声も出せない。

 そしてオスカーは野獣のような眼光でエルマを見つめた。

「何言ってるんだ、これからが本番だろう?」
「えっ」

 叫んだ時にはもう遅かった。オスカーに腕を引かれ、気が付くとエルマは男たちの中心に座らされる。そして隣の男が何のためらいもなく、卑猥なことを言いながらエルマの体に腕を伸ばす。

 その時だった。突然屋敷のドアが開いた。
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