浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

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オスカーの策

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 前半戦が終わり、ベンチに選手が集まっていくと、キャプテンがカーティスに心配そうに何かを話しかけている。が、カーティスはそれに対して笑いながら答えていた。それを見て周りのチームメイトたちもほっとしている様子を見せる。

 本当に余裕なのか、それとも周囲を安心させるために意図的にそういう雰囲気を作っているのか。

 一方の相手チームは選手たちが集まっているところから少し離れて不機嫌そうなオスカーがカーティスを睨みつけながら立っている。

 他の選手たちも色んな意味で雰囲気が暗そうだった。相手チームからすればこんな試合を続けたくはないだろう。試合放棄すればいいのにとも思ってしまうが、それが出来るならそもそもオスカーをチームに入れるようなことはしないだろう。

 そんな対照的な雰囲気で休憩が終わり、後半戦が再開する。

「おいオスカー、調子が出ないなら代わったらどうだ? お前がいるせいで他のチームメンバーが迷惑しているんだ!」
「何だと!? てめえ許さねえぞ!」

 前半とは打って変わり、今度はカーティスがオスカーを煽っている。
 カーティスにしてみれば一対一であればどうにかなりそうということが分かった以上、他の選手に手を出される方が困ると思ったのだろう。

「おい、試合中に相手を煽るな!」
「すみません」

 審判の注意が飛ぶが、カーティスは涼しい顔をしている。
 カーティスの挑発に苛立ったオスカーはその後はより露骨にカーティスを狙うようなプレイが増やしていった。

 しかしカーティスはオスカーの突進をかわし、近づいてこれば巧みに距離をとり、足をかけられそうになった時はそれを器用に回避した。

 そのあまりの白熱した展開に、観客の一部は試合そっちのけでそちらに集中してしまっている。
 試合の序盤とは打って変わり、主導権は完全にカーティスの方に移っていた。しかもカーティスは時折オスカーを煽って、彼が他の選手の妨害に向かうことのないようにする。
 カーティスが大丈夫そうだと思ったせいか、審判も完全に視線を主戦場へと集中させていた。

「タイムだ!」

 後半戦も半分ぐらいまで来たところで不意にオスカーが叫ぶ。
 そもそもタイムはチームで回数が決まっているため、まじめに試合をしている選手の都合で使われるべきものだが、相手チームのキャプテンはしぶしぶ審判にタイムを宣言する。
 オスカーは彼らが不満そうな顔をしているのを完全に無視し、何故かベンチではなく客席の方へと向かっていく。

「あれって……」

 隣にいたイヴが不審げな視線をオスカーに向ける。

「ちょっと見てくる!」

 嫌な予感がした私はオスカーの方へと向かう。するとオスカーは靴を取り出すと履き替えた。特にサッカーの選手という訳でもないオスカーがシューズの細かな違いでパフォーマンスが変わるとは思えない。

 不審に思った私はそのことを伝えに、カーティスたちが集まっているベンチの方へと向かう。
 後半戦、オスカーとカーティスがやり合っている間にさらに一点入ったらしく、こちらのベンチは明るさを取り戻していた。
 本来は応援席から選手に話しかけるのはだめだろうが、それを言ったら客席の荷物から靴を履き替える方が良くないのでそこは許して欲しい。

「カーティス、オスカーの靴に気をつけて!」

 私が叫ぶとカーティスははっとしたようにこちらを向く。

「分かった、ありがとう!」

 どうやらそれで私の意図を察してくれたらしい。

「頑張ってね」
「ああ、絶対あんな奴に負けるものか」

 カーティスは自信満々に宣言する。
 それを見て私は安堵して自分の席に戻るのだった。
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