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Ⅲ
オスカーVSカーティス
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「あんなことして、反則をとられないの!?」
私は思わず、近くで観戦していた同じクラスの男子に尋ねる。
彼もサッカーをしており、今は控えだがおそらく三年生か四年生になればレギュラーになるのだろう。
が、彼は険しい表情で答える。
「オスカーはあくまで自然に体がぶつかっているように装っている。もちろん明らかにわざとであれば反則だけど、外から見るだけだとグレーゾーンだろう」
「そんな、でも彼がわざとやっているのは明らかなのに……」
「うん。それからもう一つの理由は、やはり彼がメイナード家の御曹司だからだと思う」
「ああ……」
それを聞いて私は納得する。
一応学園内では建前上は公爵家出身でも男爵家出身でも平等であるということになっているが、そんなことが実際に実現出来る訳はない。
実家の力が大きい生徒の周りには次第に彼に取り入ろうとする人物が集まるし、教師も後で何か言われることを恐れてあまり厳しい指導を行うことは出来ない。教師のニコラスも言っていたが、貴族の中には子供が爵位の低い先生に怒られたというだけで文句を言う人物もいるのだ。
実際にオスカーは普段から素行不良であるが、大して怒られているようには見えない。
その点については、むしろ貴族といっても実際にはピンキリである様々な家の子供を学園という場所にひとまとめに出来ている時点で十分な成果だと思うが。
メイナード家ほどの家であれば試合中、審判を脅迫なり買収なりすることはたやすいだろう。
さすがにあからさまな反則を行えばアウトにせざるをえないが、限りなく黒に近いグレーであればセーフということだろう。そしてオスカーは黒に近いグレーを遂行する技術だけは持っていた。
当然他の選手にそれに対抗するような力がある訳もなく、私たちがそんなことを話している間にもオスカーは次々と他の選手への接触を繰り返しては相手を倒していく。選手は次々と倒れていき、審判の教員も険しい表情をしているが、決定的な反則場面を捉えられずにいる。
最初はカーティスのチームが二点ほど入れたものの、オスカーの度重なる接触プレーによりチームの動きはどんどん鈍くなっていき、相手チームが点数を取り返す。
相手は相手で一応同じチームであるオスカーが繰り返すラフプレイに眉をひそめていたが、審判が反則をとらない以上試合を続けるしかないのだろう、渋い表情で試合を続けている。
やがて、オスカーには近づくだけでぶつかられると思った選手たちはオスカーがやってくるだけで逃げるようになり、こちらはどんどん連携が乱れていった。
カーティスはそんな様子を少しの間静観していたが、やがて今度は自分からオスカーの方へ向かっていく。
そしてオスカーに向かって怒鳴るように言った。
「おい、そんなせこいことしてないで、僕に用があるなら僕の方に来てみろよ」
「何だと?」
カーティスの挑発に観客からはどよめきが上がり、オスカーは舌打ちした。
仮にオスカーが試合中ずっとカーティスをマークしていれば、他の選手同士の試合になるが、そうなれば今のところはこちら側の方が有利そうであった。
しかし「カーティスを潰す」とまで言って試合に乗り込んだ以上オスカーは挑発を無視することは出来ない。
オスカーは猛然とカーティスの方へ向かっていく。
「よし、俺たちは元のサッカーをするぞ!」
それを見てキャプテンはチームメイトにそう指示した。
カーティスのことは心配でも、試合に勝つことを優先した方がカーティスのためになると思ったのかもしれない。
それに相手も応じ、すぐにオスカーとカーティスを除いた十対十の試合へとシフトしていった。
そんな中、オスカーは猛然とカーティスの方へと走っていく。
「そんなに言うなら望み通りお前を“潰して”やるよ!」
「オスカー・メイナード! 相手チームへの乱暴な発言は慎むように!」
審判が注意するが、視線はボールがある方へ向けざるを得ない。
逆に、観客の目はコートの隅でボールがある訳でもない二人の方へと集まっていく。
「うおおおおおおおお!」
オスカーは猛然とカーティスに走り寄り、何かにつまずいてよろけた振りをしてカーティスにぶつかっていく。
カーティスはそれを器用にかわした。もはやサッカーというよりは格闘技の試合かと思わせるような見事な回避である。
「残念だが、お前の動きはワンパターンだ。前半で大体見切らせてもらった」
カーティスは涼しい表情で言い、客席からはどよめきが上がる。
カーティスは一度転倒させられてから目立った動きも見せずに大人しくしていると思ったが、まさかオスカーの動きを見切っていたとは。
というかずっと客席から見ていた私でも、オスカーの動きは全然捉えられないのにそれを瞬時に見切ったカーティスはやはりすごい。
「何だと?」
そんなカーティスに向かってオスカーは眉を吊り上げる。その声にはわずかに動揺が混ざっていた。
そして再びオスカーに向かって突進するが、オスカーは器用にそれをかわしながら、しかもパスを受け取れそうな位置へと向かって走る。
オスカーはなおもカーティスを追いかけようとするが、そこで審判が叫ぶ。
「前半戦終了!」
こうして試合の前半はこちらが二対一で優勢のまま終了した。
私は思わず、近くで観戦していた同じクラスの男子に尋ねる。
彼もサッカーをしており、今は控えだがおそらく三年生か四年生になればレギュラーになるのだろう。
が、彼は険しい表情で答える。
「オスカーはあくまで自然に体がぶつかっているように装っている。もちろん明らかにわざとであれば反則だけど、外から見るだけだとグレーゾーンだろう」
「そんな、でも彼がわざとやっているのは明らかなのに……」
「うん。それからもう一つの理由は、やはり彼がメイナード家の御曹司だからだと思う」
「ああ……」
それを聞いて私は納得する。
一応学園内では建前上は公爵家出身でも男爵家出身でも平等であるということになっているが、そんなことが実際に実現出来る訳はない。
実家の力が大きい生徒の周りには次第に彼に取り入ろうとする人物が集まるし、教師も後で何か言われることを恐れてあまり厳しい指導を行うことは出来ない。教師のニコラスも言っていたが、貴族の中には子供が爵位の低い先生に怒られたというだけで文句を言う人物もいるのだ。
実際にオスカーは普段から素行不良であるが、大して怒られているようには見えない。
その点については、むしろ貴族といっても実際にはピンキリである様々な家の子供を学園という場所にひとまとめに出来ている時点で十分な成果だと思うが。
メイナード家ほどの家であれば試合中、審判を脅迫なり買収なりすることはたやすいだろう。
さすがにあからさまな反則を行えばアウトにせざるをえないが、限りなく黒に近いグレーであればセーフということだろう。そしてオスカーは黒に近いグレーを遂行する技術だけは持っていた。
当然他の選手にそれに対抗するような力がある訳もなく、私たちがそんなことを話している間にもオスカーは次々と他の選手への接触を繰り返しては相手を倒していく。選手は次々と倒れていき、審判の教員も険しい表情をしているが、決定的な反則場面を捉えられずにいる。
最初はカーティスのチームが二点ほど入れたものの、オスカーの度重なる接触プレーによりチームの動きはどんどん鈍くなっていき、相手チームが点数を取り返す。
相手は相手で一応同じチームであるオスカーが繰り返すラフプレイに眉をひそめていたが、審判が反則をとらない以上試合を続けるしかないのだろう、渋い表情で試合を続けている。
やがて、オスカーには近づくだけでぶつかられると思った選手たちはオスカーがやってくるだけで逃げるようになり、こちらはどんどん連携が乱れていった。
カーティスはそんな様子を少しの間静観していたが、やがて今度は自分からオスカーの方へ向かっていく。
そしてオスカーに向かって怒鳴るように言った。
「おい、そんなせこいことしてないで、僕に用があるなら僕の方に来てみろよ」
「何だと?」
カーティスの挑発に観客からはどよめきが上がり、オスカーは舌打ちした。
仮にオスカーが試合中ずっとカーティスをマークしていれば、他の選手同士の試合になるが、そうなれば今のところはこちら側の方が有利そうであった。
しかし「カーティスを潰す」とまで言って試合に乗り込んだ以上オスカーは挑発を無視することは出来ない。
オスカーは猛然とカーティスの方へ向かっていく。
「よし、俺たちは元のサッカーをするぞ!」
それを見てキャプテンはチームメイトにそう指示した。
カーティスのことは心配でも、試合に勝つことを優先した方がカーティスのためになると思ったのかもしれない。
それに相手も応じ、すぐにオスカーとカーティスを除いた十対十の試合へとシフトしていった。
そんな中、オスカーは猛然とカーティスの方へと走っていく。
「そんなに言うなら望み通りお前を“潰して”やるよ!」
「オスカー・メイナード! 相手チームへの乱暴な発言は慎むように!」
審判が注意するが、視線はボールがある方へ向けざるを得ない。
逆に、観客の目はコートの隅でボールがある訳でもない二人の方へと集まっていく。
「うおおおおおおおお!」
オスカーは猛然とカーティスに走り寄り、何かにつまずいてよろけた振りをしてカーティスにぶつかっていく。
カーティスはそれを器用にかわした。もはやサッカーというよりは格闘技の試合かと思わせるような見事な回避である。
「残念だが、お前の動きはワンパターンだ。前半で大体見切らせてもらった」
カーティスは涼しい表情で言い、客席からはどよめきが上がる。
カーティスは一度転倒させられてから目立った動きも見せずに大人しくしていると思ったが、まさかオスカーの動きを見切っていたとは。
というかずっと客席から見ていた私でも、オスカーの動きは全然捉えられないのにそれを瞬時に見切ったカーティスはやはりすごい。
「何だと?」
そんなカーティスに向かってオスカーは眉を吊り上げる。その声にはわずかに動揺が混ざっていた。
そして再びオスカーに向かって突進するが、オスカーは器用にそれをかわしながら、しかもパスを受け取れそうな位置へと向かって走る。
オスカーはなおもカーティスを追いかけようとするが、そこで審判が叫ぶ。
「前半戦終了!」
こうして試合の前半はこちらが二対一で優勢のまま終了した。
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