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Ⅲ
試合
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それから数日後、カーティスが出場する試合がやってきた。
基本的に試合に出るのは上級生ばかりになる中、一人カーティスは一、二年生の中から選ばれている。その時点ですでに注目を集めているのだが、それに加えて今回はオスカーの件もあるため普段はサッカーに興味がないような多くの生徒も試合を見に集まっていた。
下級生からすればここでカーティスがオスカーに勝利すれば、今後オスカーも少しは大人しくするのではないかという期待があったし、また純粋にオスカーが負けているところを見て留飲を下げたいという気持ちもあるようだった。
そのため、主にこれまでオスカーに不快な思いをさせられたと思しき生徒たちがカーティスを応援していた。
一方、上級生たちもいつもより観客は多かったが、皆オスカーの恐ろしさを知っているせいか、期待と不安が混ざった表情をしていた。
また、元々カーティスのチームメイトからすれば、オスカーが自分たちのチーム全体と戦うのではなくカーティス単独との戦いを挑んだことを、自分たちを無視されたように感じて不快に思っているようだった。
そして一番可哀想なのは相手チームだろう。
どういう経緯があったかは知らないが、突如全く仲がいい訳でも何でもないオスカーがチームに割り込んできたのだから。
相手チームからオスカーを疎むような恐れるような微妙な雰囲気が漂っていた。あれではいくらオスカーが実はサッカーが出来るとしても、他のメンバーは本来の力を発揮することは出来ないだろう。
そうなれば勝ち負けは明白だ。
それでもオスカーはそんな周囲の雰囲気を気にすることもなく、カーティスをじっと睨みつけていた。相手チームも、そんなオスカーを遠巻きにするだけで何も言えずにいる。一体どんな脅しを掛けられたのだろうか。
見かねたカーティスのチームのキャプテンと思われる上級生がオスカーに歩み寄る。
彼はキャプテンだけあってオスカーに負けないがっしりとした体格をしていた。そのためか、オスカーに対しても臆することなく話しかける。
「おいオスカー、お前のチームメンバーが迷惑しているだろう。そんなチームで俺たちに勝てる訳がない!」
「ふん、お前との戦いに興味なんてない。俺はただ生意気な下級生に力の差を見せてやりたいだけだ」
「それならサッカーの試合を使わないでくれ」
キャプテンの上級生は非常にまともなことを言う。
が、オスカーはふん、と鼻を鳴らすだけだった。
「別に俺は真剣の斬り合いでも構わないが、それだとあいつが嫌がるだろう。だから合わせてやってるんだ。俺に試合を邪魔されたくないならあいつに言うんだな」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ」
キャプテンは唖然とした。
いくら試合を邪魔されているとはいえ、そんな訳の分からない要求を呑める訳がない。当然オスカーもそれを織り込んで無茶な主張をしているのだろう。
「ではそろそろ試合を始める!」
審判を務めている教師が険しい声で言う。
それを聞いて両チームの生徒たちはそれぞれの配置につく。
オスカーは最前列に立つのかと思いきや、最初はやや後ろの方から動き出した。
中央でボールが蹴られると、カーティスは味方がパスを出しやすい位置に走っていこうとする。オスカーはそんなカーティス目掛けて一直線に走っていった。
ボールを持っていないカーティスをそこまでマークするのは異常な行動だ。
お互いのチームが戦慄するが、オスカーの異様な行為に動揺したのか、こちらの選手がボールをとり、走っていく。
カーティスはそのまま走っていったが、そんな彼にオスカーがぴったりとくっつく。
私たち観客はそれに注目していたが、コートの中央では上級生のエース同士が熾烈なボールの奪い合いをしていた。カーティスのチームの選手たちはオスカーにマークされているカーティスにパスを出すことはない。
必然的に審判の目はボールを奪い合っているところに向く。
その時だった。
ばたっ、
追いかけっこをしていたカーティスが突然オスカーと接触して地面に倒れる。
それを見てオスカーはまるで何事もなかったかのようにプレイを続ける雰囲気でその場を離れていった。
「ふざけんな!」「何をする!?」
それを見て客席から怒号が飛ぶ。
オスカーが直接何かをしたようには見えなかったが、ここまでの経緯を考えると遠くから見えづらいようにわざとぶつかったと考えるしかない。
客席からのざわめきを聞いて審判の先生は慌ててそちらに視線を向けるが、その時にはオスカーはその場を離れていた。
カーティスは腰のあたりを抑えながらも立ち上がる。
その時にはオスカーは次の選手にぶつかって倒していた。
それを見て私たちはようやくオスカーの意図を理解した。確かに彼はサッカーの技術は皆無だったが、いかに審判の目をかいくぐり、事故に見せかけて相手の選手と接触するかという技術にはたけていた。
そしてオスカーがこのようなプレイを続ければ次第にこちらのチームの選手は疲弊し、委縮していってしまう。そして満足なプレーは出来なくなっていくだろう。そうすれば相手も試合に勝つことは出来るかもしれない。
そんなオスカーの意図に気づいた私たちは戦慄した。
基本的に試合に出るのは上級生ばかりになる中、一人カーティスは一、二年生の中から選ばれている。その時点ですでに注目を集めているのだが、それに加えて今回はオスカーの件もあるため普段はサッカーに興味がないような多くの生徒も試合を見に集まっていた。
下級生からすればここでカーティスがオスカーに勝利すれば、今後オスカーも少しは大人しくするのではないかという期待があったし、また純粋にオスカーが負けているところを見て留飲を下げたいという気持ちもあるようだった。
そのため、主にこれまでオスカーに不快な思いをさせられたと思しき生徒たちがカーティスを応援していた。
一方、上級生たちもいつもより観客は多かったが、皆オスカーの恐ろしさを知っているせいか、期待と不安が混ざった表情をしていた。
また、元々カーティスのチームメイトからすれば、オスカーが自分たちのチーム全体と戦うのではなくカーティス単独との戦いを挑んだことを、自分たちを無視されたように感じて不快に思っているようだった。
そして一番可哀想なのは相手チームだろう。
どういう経緯があったかは知らないが、突如全く仲がいい訳でも何でもないオスカーがチームに割り込んできたのだから。
相手チームからオスカーを疎むような恐れるような微妙な雰囲気が漂っていた。あれではいくらオスカーが実はサッカーが出来るとしても、他のメンバーは本来の力を発揮することは出来ないだろう。
そうなれば勝ち負けは明白だ。
それでもオスカーはそんな周囲の雰囲気を気にすることもなく、カーティスをじっと睨みつけていた。相手チームも、そんなオスカーを遠巻きにするだけで何も言えずにいる。一体どんな脅しを掛けられたのだろうか。
見かねたカーティスのチームのキャプテンと思われる上級生がオスカーに歩み寄る。
彼はキャプテンだけあってオスカーに負けないがっしりとした体格をしていた。そのためか、オスカーに対しても臆することなく話しかける。
「おいオスカー、お前のチームメンバーが迷惑しているだろう。そんなチームで俺たちに勝てる訳がない!」
「ふん、お前との戦いに興味なんてない。俺はただ生意気な下級生に力の差を見せてやりたいだけだ」
「それならサッカーの試合を使わないでくれ」
キャプテンの上級生は非常にまともなことを言う。
が、オスカーはふん、と鼻を鳴らすだけだった。
「別に俺は真剣の斬り合いでも構わないが、それだとあいつが嫌がるだろう。だから合わせてやってるんだ。俺に試合を邪魔されたくないならあいつに言うんだな」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ」
キャプテンは唖然とした。
いくら試合を邪魔されているとはいえ、そんな訳の分からない要求を呑める訳がない。当然オスカーもそれを織り込んで無茶な主張をしているのだろう。
「ではそろそろ試合を始める!」
審判を務めている教師が険しい声で言う。
それを聞いて両チームの生徒たちはそれぞれの配置につく。
オスカーは最前列に立つのかと思いきや、最初はやや後ろの方から動き出した。
中央でボールが蹴られると、カーティスは味方がパスを出しやすい位置に走っていこうとする。オスカーはそんなカーティス目掛けて一直線に走っていった。
ボールを持っていないカーティスをそこまでマークするのは異常な行動だ。
お互いのチームが戦慄するが、オスカーの異様な行為に動揺したのか、こちらの選手がボールをとり、走っていく。
カーティスはそのまま走っていったが、そんな彼にオスカーがぴったりとくっつく。
私たち観客はそれに注目していたが、コートの中央では上級生のエース同士が熾烈なボールの奪い合いをしていた。カーティスのチームの選手たちはオスカーにマークされているカーティスにパスを出すことはない。
必然的に審判の目はボールを奪い合っているところに向く。
その時だった。
ばたっ、
追いかけっこをしていたカーティスが突然オスカーと接触して地面に倒れる。
それを見てオスカーはまるで何事もなかったかのようにプレイを続ける雰囲気でその場を離れていった。
「ふざけんな!」「何をする!?」
それを見て客席から怒号が飛ぶ。
オスカーが直接何かをしたようには見えなかったが、ここまでの経緯を考えると遠くから見えづらいようにわざとぶつかったと考えるしかない。
客席からのざわめきを聞いて審判の先生は慌ててそちらに視線を向けるが、その時にはオスカーはその場を離れていた。
カーティスは腰のあたりを抑えながらも立ち上がる。
その時にはオスカーは次の選手にぶつかって倒していた。
それを見て私たちはようやくオスカーの意図を理解した。確かに彼はサッカーの技術は皆無だったが、いかに審判の目をかいくぐり、事故に見せかけて相手の選手と接触するかという技術にはたけていた。
そしてオスカーがこのようなプレイを続ければ次第にこちらのチームの選手は疲弊し、委縮していってしまう。そして満足なプレーは出来なくなっていくだろう。そうすれば相手も試合に勝つことは出来るかもしれない。
そんなオスカーの意図に気づいた私たちは戦慄した。
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