浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

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カーティスの懸念

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「大丈夫?」

 オスカーが去っていくと、私は真っ先にカーティスに声をかける。
 カーティスは私とイヴの顔を見るとほっとしたように息を吐いた。

「ああ、僕は何もされていない」
「良かった……」
「その、助けていただいてありがとうございます!」

 すると、オスカーに絡まれていたと思われる下級生がそう言ってカーティスに頭を下げる。
 彼もオスカーが去ってようやく緊張が解けたようだった。
 そんな彼にカーティスは優しく微笑んでみせる。

「いや、当然のことをしたまでだ。とはいえこれからは出来れば彼とは鉢合わせしないように気をつけた方がいいかもしれないね」
「はい。しかし先輩は因縁をつけられていたようですが大丈夫でしょうか?」

 その質問を受けてカーティスは急に真剣な表情に変わる。

「そう、それが問題なんだ。オスカーのクラスから考えると、入ってくるとしたら相手のチームになる。そうなれば相手のチームの誰かはオスカーのせいで試合に出られなくなってしまう。それにもしそうなれば試合結果も滅茶苦茶なものになるだろう。それが申し訳ないんだ」

 確かに、順当に推測するなら相手チームはいきなり素人がチームに加わるため、技量もチームワークもぼろぼろの状態で試合を迎えることになる。
 それに気づき、生徒はさらに申し訳なさそうな顔をする。

「すみません、僕のために」
「いや、今回の件で悪いのは全てオスカーだから君が気にすることは何もない」
「ありがとうございます」

 そう言って彼はその後も何度もカーティスに頭を下げながらその場を離れていくのだった。

「優しいんだね、カーティスは」
「優しいというよりはどちらかというと、あいつが学園内で好き勝手しているのが許せないってだけだ」
「もちろんさっきの彼を助けたこともあるけど、今もオスカーがあんなに怒ってるのに、自分のことよりも相手チームのことを心配しているなんて」

 普通あんな風に言われたら彼が自分に対して報復してくることを真っ先に心配してしまうものではないだろうか。
 だが、私の心配にカーティスは自信をもって答える。

「ああ、それは優しいというよりはサッカーもやったこともない奴が図体の大きさだけで試合にやってきても大して活躍することは出来ないだろうと思っているだけだ」

 確かに単純に体力と足の速さを競うだけの競技であればサッカーはここまで人気のスポーツにはならなかっただろう。
 この前の試合で見せたカーティスやその他の選手の動きに未経験者のオスカーがついてこられるとはあまり思えない。

「だからあいつは試合に出て恥をかくだけだからいいんだが、そのせいでまっとうに練習している誰かが試合に出られなくなるのは申し訳ない」

 ただ、私はオスカーがあそこまで傲慢な態度をとっているのを見て少し不安になった。オスカーはクズではあるが、クリフと違って無能ではない。もし彼が試合に出て醜態を晒すような無能であれば、周囲の恨みを買うような行動ばかりしている以上、上級生になるまでにどこかで足元を掬われているはずだ。そうなっていないということはただのバカではないのだろう。
 だからカーティスのことが少し心配になってしまう。

「本当に大丈夫?」
「ああ。僕らは結構な頻度で練習しているからあんな奴に負けることはない。いくらあいつの方が足が速くても追いつかれそうになればパスを出せばいいだけだし、あいつにボールをとられてもすぐに取り返すことは出来るだろう」
「それならいいんだけど」
「だからこれまで真面目に練習してきた誰かがあいつのせいで試合に出られなくなるのが可哀想だ」

 カーティスはそう断言するが、私はどこか胸のもやもやがとれずにいた。
 とはいえ私にはどうすることも出来ない。

「うん、何にせよ試合の時は応援に行くね」
「ああ、それは嬉しい。是非見に来てくれ」

 そんな話をしていると一限開始の予鈴がなり、その話はそこで中断したのだった。
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