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Ⅲ
因縁
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「大変、リアナ!」
「どうしたの?」
数日後、私が登校してくるといつになく緊迫した表情のイヴが声をかけてくる。
彼女は話すよりも見せるのが早い、と言わんばかりに私の手を引いていく。
向かった先は教室から少し離れた廊下だった。この学園は話に聞く平民の学園よりはかなり落ち着いているが、今日は珍しく廊下に人だかりが出来ていた。
私たちは人並みをかき分けて真ん中の方へと進んでいく。
すると、そこには険悪な空気で睨み合うカーティスとオスカーの姿があった。この学園ではなかなか見ることがないほど張りつめた様子で、周囲の私たちにまでそのぴりぴりした空気が伝わってくる。
そしてその脇には一人の生徒、おそらく一年生の男子が倒れていて、脅えた目でオスカーを見つめていた。
「私が来た時にはすでにこんな感じで」
イヴが強張った声で言う。
彼女も詳しいことは知らなさそうなので、私は隣にいる生徒に尋ねる。
「これは一体?」
「実は、彼がいつものようにオスカーに絡まれていて、たまたま近くを通りかかったカーティスが彼をかばって」
「なるほど」
それを聞いて私はすぐに状況を理解した。
相変わらずオスカーは会う人会う人に絡んでいるのだろう。大多数の上品に育った(?)貴族の子女と違って、オスカーにはどこか本物の柄の悪さのようなものがあった。体格や年齢の差もあって、彼に絡まれた時は私もかなりの恐怖を感じたものだ。
そしてそれは男子も女子も大差はないのだろう。
だが、カーティスだけは違った。
現在彼は真っ向からオスカーに対峙している。
「そうやっていつもいつも下級生に絡んで、恥ずかしいとは思わないのか?」
「何が恥ずかしいんだ? お前こそ、いつも関係ないのにしゃしゃりでてきて正義の味方気取りか?」
オスカーは低い声で威圧するように言う。
カーティスは額に汗をかいていたが、それでもたじろぐことなく言い返す。
「僕が正義の味方という訳ではない。ただ、お前があまりに度が過ぎた行為を繰り返しているというだけだ」
「ほう、言ってくれるじゃないか」
そして二人はばちばちと音が聞こえてきそうな勢いで睨み合う。
それを見て周囲の野次馬は息をのんだ。
ほとんどが内心はカーティスを応援しているようであったが、誰もがオスカーに目をつけられることを恐れてそれを言葉に出来ない、そんな雰囲気を感じる。
やがてオスカーが再び口を開く。
「そう言えばお前、今度またサッカーの試合をやるそうじゃねえか」
「それがどうした?」
オスカーの口からサッカーという単語が出てきたせいか、カーティスは少し驚く。
オスカーがサッカーをしているのは見たことないし、彼がちゃんとルールを守って他の選手と協力しながらボールを蹴っている光景は想像しづらい。
「今すぐ謝って今後はもう俺の目の前に現れないと言うなら許してやる」
「誰がそんなこと」
「そう言うなら、今度の試合、覚悟しておけ」
「何を言ってるんだ? そもそもお前は選手じゃないだろ?」
カーティスが少し困惑したように言う。
おそらくまともな性格をしているカーティスは自分とオスカーの因縁がチームの他のメンバーに迷惑をかけることを恐れているのだろう。
が、オスカーは鼻で笑った。
「お前たちの試合、何度か見たことがあるがあの程度なら経験のない俺でも出来る。もっとも、あんなボールけりごっこなどおかしくてやろうとすら思わなかったがな」
「何だと?」
露骨に挑発されたカーティスはさすがに声を荒げた。
直接威圧されるよりも、自分が打ち込んでいる競技を馬鹿にされることの方がカーティスにとっては嫌なのだろう。
しかしいくらオスカーの体格がいいとはいえ、何の経験もなしにサッカーが出来るとは思えない。
一体どうするつもりなのだろうか。
「まあいい、試合当日を楽しみにしておけ」
「おい待て! 俺に絡むのはまだいいが、他のメンバーは無関係だろ?」
カーティスの言葉にオスカーはあざ笑うように言った。
「お前がさっき言っただろ? 俺は普通の生徒なら度が過ぎていると思うような行為でも平気でやる人だからな」
そう言ってオスカーは後ろを向いて歩いていく。
それを見て野次馬たちからほっとしたような溜め息が漏れたのだった。
「どうしたの?」
数日後、私が登校してくるといつになく緊迫した表情のイヴが声をかけてくる。
彼女は話すよりも見せるのが早い、と言わんばかりに私の手を引いていく。
向かった先は教室から少し離れた廊下だった。この学園は話に聞く平民の学園よりはかなり落ち着いているが、今日は珍しく廊下に人だかりが出来ていた。
私たちは人並みをかき分けて真ん中の方へと進んでいく。
すると、そこには険悪な空気で睨み合うカーティスとオスカーの姿があった。この学園ではなかなか見ることがないほど張りつめた様子で、周囲の私たちにまでそのぴりぴりした空気が伝わってくる。
そしてその脇には一人の生徒、おそらく一年生の男子が倒れていて、脅えた目でオスカーを見つめていた。
「私が来た時にはすでにこんな感じで」
イヴが強張った声で言う。
彼女も詳しいことは知らなさそうなので、私は隣にいる生徒に尋ねる。
「これは一体?」
「実は、彼がいつものようにオスカーに絡まれていて、たまたま近くを通りかかったカーティスが彼をかばって」
「なるほど」
それを聞いて私はすぐに状況を理解した。
相変わらずオスカーは会う人会う人に絡んでいるのだろう。大多数の上品に育った(?)貴族の子女と違って、オスカーにはどこか本物の柄の悪さのようなものがあった。体格や年齢の差もあって、彼に絡まれた時は私もかなりの恐怖を感じたものだ。
そしてそれは男子も女子も大差はないのだろう。
だが、カーティスだけは違った。
現在彼は真っ向からオスカーに対峙している。
「そうやっていつもいつも下級生に絡んで、恥ずかしいとは思わないのか?」
「何が恥ずかしいんだ? お前こそ、いつも関係ないのにしゃしゃりでてきて正義の味方気取りか?」
オスカーは低い声で威圧するように言う。
カーティスは額に汗をかいていたが、それでもたじろぐことなく言い返す。
「僕が正義の味方という訳ではない。ただ、お前があまりに度が過ぎた行為を繰り返しているというだけだ」
「ほう、言ってくれるじゃないか」
そして二人はばちばちと音が聞こえてきそうな勢いで睨み合う。
それを見て周囲の野次馬は息をのんだ。
ほとんどが内心はカーティスを応援しているようであったが、誰もがオスカーに目をつけられることを恐れてそれを言葉に出来ない、そんな雰囲気を感じる。
やがてオスカーが再び口を開く。
「そう言えばお前、今度またサッカーの試合をやるそうじゃねえか」
「それがどうした?」
オスカーの口からサッカーという単語が出てきたせいか、カーティスは少し驚く。
オスカーがサッカーをしているのは見たことないし、彼がちゃんとルールを守って他の選手と協力しながらボールを蹴っている光景は想像しづらい。
「今すぐ謝って今後はもう俺の目の前に現れないと言うなら許してやる」
「誰がそんなこと」
「そう言うなら、今度の試合、覚悟しておけ」
「何を言ってるんだ? そもそもお前は選手じゃないだろ?」
カーティスが少し困惑したように言う。
おそらくまともな性格をしているカーティスは自分とオスカーの因縁がチームの他のメンバーに迷惑をかけることを恐れているのだろう。
が、オスカーは鼻で笑った。
「お前たちの試合、何度か見たことがあるがあの程度なら経験のない俺でも出来る。もっとも、あんなボールけりごっこなどおかしくてやろうとすら思わなかったがな」
「何だと?」
露骨に挑発されたカーティスはさすがに声を荒げた。
直接威圧されるよりも、自分が打ち込んでいる競技を馬鹿にされることの方がカーティスにとっては嫌なのだろう。
しかしいくらオスカーの体格がいいとはいえ、何の経験もなしにサッカーが出来るとは思えない。
一体どうするつもりなのだろうか。
「まあいい、試合当日を楽しみにしておけ」
「おい待て! 俺に絡むのはまだいいが、他のメンバーは無関係だろ?」
カーティスの言葉にオスカーはあざ笑うように言った。
「お前がさっき言っただろ? 俺は普通の生徒なら度が過ぎていると思うような行為でも平気でやる人だからな」
そう言ってオスカーは後ろを向いて歩いていく。
それを見て野次馬たちからほっとしたような溜め息が漏れたのだった。
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