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Ⅲ
エルマ視点 オスカーとの出会い
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クリフと別れた後、エルマは久し振りに男のことを考えずに気楽に学園生活を送っていた。最初はカフェテリアで昼食に好きなものを食べたり、放課後にあちこちで寄り道をしていたりと好きに過ごしていたが、やがて一人であることが寂しくなってくる。
エルマは学園に入ってから男に媚を振りまくような態度をとっていたため、女子からの人気はなかった。リアナのようなまともな女子からは嫌われているし、そうじゃない女子からは容姿や男受けの良さへの嫉みを受けている。
男子も婚約者が決まっているような者はエルマを警戒して近づかない。まだ婚約者が決まっていなくて軽薄な男子であればほいほいエルマについてくるのかもしれないが、エルマにとってそれはそれで嫌だった。
要するに自分が誰かを誘惑しても、それで釣られるのはクリフのように自分の理想ではない相手ばかりということになってしまう。
父に言われたことを守ろうとするあまり、気が付くと自分の周りからは人がいなくなってしまっていた。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと前から三人の男子が歩いて来る。いかにも軽薄そうなチャラチャラした身なりをしているし、家格も低そうだ。
彼らはエルマの前で立ち止まると口々に言う。
「なあエルマ、暇なんだろ? 今日の放課後一緒に遊びに行こうぜ」
「聞いたろ、クリフと喧嘩したんだってな」
「俺たちはクリフと違ってエルマちゃんを楽しませられる自信があるぜ?」
エルマはクリフに対する態度から男好きと思われているが、それはあくまで仕方なくやっていたことであり、本心はそんなことはない。
「いや、そういうのはちょっと」
エルマは断るが、彼らはエルマをぐるりと取り囲む。
これまでは常にクリフやその他の男が近くにいたからこんなことはなかったが、一人で絡まれると怖い。
「おいおい、これまで散々男をたぶらかしておいて今更それか?」
「所詮男のことなんて家柄でしか見てないってことだろ」
「そ、そう言う訳では……」
否定しようとするものの、図星を突かれて言葉に勢いが宿らない。
「じゃあ俺たちのような下賤の男たちとも遊んでくれよ」
そう言って彼らはエルマを囲んで脅すように言ってくる。学園のほとんどの男は将来家を継いだり何等かの役職についたりする可能性があるためあまり下品なことはしないものだが、稀に彼らのようにすでに出世が望めない男たちは不良まがいのことをしている。
これは面倒だ、とエルマが思った時だった。
「そうだ、お前らのような下賤な男どもがこんな可愛い女子と遊ぼうなどとするな! 身の程をわきまえろ!」
突然一人の目つきの悪い上級生が現れて三人を一喝する。
特別声が大きい訳ではないが、そのドスの利いた声に三人は震えあがった。
「分かったらとっとと失せろ、雑魚どもが」
「す、すいませんでした!」
上級生の一喝で男たちは逃げていく。
それを見てエルマはほっとした。改めて見ると、目の前に立っている男は目つきが悪いが、がっしりとした体格に野性味あふれる雰囲気があり、格好いい。
これまでエルマが絡んできたのはクリフのようにどちらかというとなよっとした相手が多かったこともあり、エルマは彼にどきどきしてしまう。
「あ、ありがとうございます助けていただいて」
「俺はオスカー・メイナードだ。お前の名は?」
オスカーの名を聞いてエルマは彼の評判を思い出すが、評判に反して思ったよりも格好いい人物だと思ってしまう。
「私はエルマ・オルドナです。ありがとうございました」
「お前、二年の中ではなかなかましな顔してるじゃねえか。せっかくだし俺に付き合えよ」
「は、はい」
今不良まがいの男子たちから助けられたこともあってエルマはすぐに頷く。これまでどちらかというと男には自分から近づくことが多かったエルマにとってこういう相手は新鮮だった。
もっとも、オスカーは自分の誘いが断られるとは露ほども思っていなかったようだったが。
「さっきの男たちが言っていたが、お前今婚約者とか恋人とかはいないんだよな?」
「そ、そうです」
「ちょうどいい。じゃあこれからは俺以外の男とは関わるな。いいな?」
「は、はい」
こうしてこれまでに出会ったことのないようなオスカーの態度にエルマはころっとまいってしまったのだった。
もはやエルマの中からはクリフのことなどきれいさっぱり消えてしまっていた。
エルマは学園に入ってから男に媚を振りまくような態度をとっていたため、女子からの人気はなかった。リアナのようなまともな女子からは嫌われているし、そうじゃない女子からは容姿や男受けの良さへの嫉みを受けている。
男子も婚約者が決まっているような者はエルマを警戒して近づかない。まだ婚約者が決まっていなくて軽薄な男子であればほいほいエルマについてくるのかもしれないが、エルマにとってそれはそれで嫌だった。
要するに自分が誰かを誘惑しても、それで釣られるのはクリフのように自分の理想ではない相手ばかりということになってしまう。
父に言われたことを守ろうとするあまり、気が付くと自分の周りからは人がいなくなってしまっていた。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと前から三人の男子が歩いて来る。いかにも軽薄そうなチャラチャラした身なりをしているし、家格も低そうだ。
彼らはエルマの前で立ち止まると口々に言う。
「なあエルマ、暇なんだろ? 今日の放課後一緒に遊びに行こうぜ」
「聞いたろ、クリフと喧嘩したんだってな」
「俺たちはクリフと違ってエルマちゃんを楽しませられる自信があるぜ?」
エルマはクリフに対する態度から男好きと思われているが、それはあくまで仕方なくやっていたことであり、本心はそんなことはない。
「いや、そういうのはちょっと」
エルマは断るが、彼らはエルマをぐるりと取り囲む。
これまでは常にクリフやその他の男が近くにいたからこんなことはなかったが、一人で絡まれると怖い。
「おいおい、これまで散々男をたぶらかしておいて今更それか?」
「所詮男のことなんて家柄でしか見てないってことだろ」
「そ、そう言う訳では……」
否定しようとするものの、図星を突かれて言葉に勢いが宿らない。
「じゃあ俺たちのような下賤の男たちとも遊んでくれよ」
そう言って彼らはエルマを囲んで脅すように言ってくる。学園のほとんどの男は将来家を継いだり何等かの役職についたりする可能性があるためあまり下品なことはしないものだが、稀に彼らのようにすでに出世が望めない男たちは不良まがいのことをしている。
これは面倒だ、とエルマが思った時だった。
「そうだ、お前らのような下賤な男どもがこんな可愛い女子と遊ぼうなどとするな! 身の程をわきまえろ!」
突然一人の目つきの悪い上級生が現れて三人を一喝する。
特別声が大きい訳ではないが、そのドスの利いた声に三人は震えあがった。
「分かったらとっとと失せろ、雑魚どもが」
「す、すいませんでした!」
上級生の一喝で男たちは逃げていく。
それを見てエルマはほっとした。改めて見ると、目の前に立っている男は目つきが悪いが、がっしりとした体格に野性味あふれる雰囲気があり、格好いい。
これまでエルマが絡んできたのはクリフのようにどちらかというとなよっとした相手が多かったこともあり、エルマは彼にどきどきしてしまう。
「あ、ありがとうございます助けていただいて」
「俺はオスカー・メイナードだ。お前の名は?」
オスカーの名を聞いてエルマは彼の評判を思い出すが、評判に反して思ったよりも格好いい人物だと思ってしまう。
「私はエルマ・オルドナです。ありがとうございました」
「お前、二年の中ではなかなかましな顔してるじゃねえか。せっかくだし俺に付き合えよ」
「は、はい」
今不良まがいの男子たちから助けられたこともあってエルマはすぐに頷く。これまでどちらかというと男には自分から近づくことが多かったエルマにとってこういう相手は新鮮だった。
もっとも、オスカーは自分の誘いが断られるとは露ほども思っていなかったようだったが。
「さっきの男たちが言っていたが、お前今婚約者とか恋人とかはいないんだよな?」
「そ、そうです」
「ちょうどいい。じゃあこれからは俺以外の男とは関わるな。いいな?」
「は、はい」
こうしてこれまでに出会ったことのないようなオスカーの態度にエルマはころっとまいってしまったのだった。
もはやエルマの中からはクリフのことなどきれいさっぱり消えてしまっていた。
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