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Ⅲ
勉強会
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その日の放課後、私たちはカフェテリアに集まった。
試験前はあんなに混んでいたカフェテリアも試験が終わったせいかすっかりがらがらになっていて、簡単にテーブルを一つとることが出来た。
ところどころのテーブルにいる生徒も雑談や他のことをしているようで、勉強会をしているのは私たちだけかもしれない。
「それでカーティスは特に何が苦手っていうのはある?」
「僕は特に覚えるのが苦手だな。結局のところ法律も歴史も概要さえ理解すれば後はどれだけ細かいことを覚えられるかっていう話になってくるだろう?」
確かにカーティスは地頭は悪くなさそうだから概要は授業を聞けば理解出来るのだろう。そうなれば後はひたすら法律の条文や、歴史の人名などを暗記していかなければならないのだが、実際のところそれはかなり大変だ。
他の生徒もそれでつまづいた者が多かったのだろう、試験直後はこれまでの試験よりもどんよりとしている者が多かった気がする。
「いいな、私は概要もリアナに教えてもらうまでよく分からなかった」
「それはイヴがちゃんと授業を聞いてなかったからでしょ」
「あはは……」
図星を突かれたためか、イヴは苦笑する。
まあ授業を聞いていると眠くなるという気持ちは分からなくもないけど。
「でも私も暗記のコツとかあれば知りたいな」
「うーん、ただ覚えるだけなら覚えたいことを全部黒塗りした紙と、答えを書いた紙を作ってひらすら見比べていると覚えられはするけど、それすると一晩で忘れるんだよね」
「そうなんだ! 前々回の試験はそれでどうにか切り抜けたつもりになっていたんだが、全然記憶に残っていなくて前回は成績が下がったんだ!」
カーティスが熱心に頷く。
「どうやったら長い期間覚えて置けるんだろう?」
「最終的には何回も復習するしかないんだけど、私の場合は単語だけで覚えるよりも文章で覚える方が覚えやすいかな。だからひたすら教科書を声に出して読むとか」
「結局地道に努力しないといけないのか……」
「それはまあ」
イヴが落胆したように言うけど、裏技みたいなものがあるなら真っ先に授業で教わっていると思う。
一応試験を乗り切るためだけの技みたいなものはなくもないけど、そういうのは結局すぐに忘れちゃうし。
とはいえ、それだけではさすがに寂しいので一応ポジティブなことも口にする。
「ただ、何かと関連付けすると記憶に残りやすいとは言うから、こうやって勉強会をすれば思い出しやすくなるかもしれない」
「なるほど」
「じゃあどこから始める?」
そんな訳でその日はカーティスがつまずいているという貴族法のくだりから勉強会をした。
二人とも授業でやっていることをざっくりとは理解しているので、極論を言えば一人で暗記をすれば勉強会をする必要はないが、記憶に残りやすいように条文の意味とか、習ったときに思った感想とかそんな話をしながら勉強会を進めていく。
クリフと勉強会をしたときは基本的に私が一方的にしゃべるだけで、時折質問しても微妙な返事がくるだけだったし、挙句に退屈そうな顔をされるのが常だった。しかしこの二人との勉強会では何か尋ねればまともな答えが返ってくるし、熱心に私の話を聞いてくれるため私としても楽しい時間を過ごすことが出来た。
私としても一人で勉強しているとどうしても単調になってしまって、その結果忘れることも多くなってしまうので助かったと思う。
「そろそろ終わろうか」
二時間ほどしたところで私は終わりを切り出す。
イヴもカーティスも若干集中力が落ちているように見えた。
「ありがとう、一人だったら絶対こんなに勉強出来なかったと思う」
「僕も助かった。これからも週一か二ぐらいでやってくれると助かる」
「それくらいなら全然構わないよ」
こうして私たちは和やかな雰囲気で解散したのだった。
クリフとの勉強会ではいつも彼が耐え切れなくなって終わるか、私が小言を言って彼が不貞腐れて終わっていたような気がするので大違いだ。
試験前はあんなに混んでいたカフェテリアも試験が終わったせいかすっかりがらがらになっていて、簡単にテーブルを一つとることが出来た。
ところどころのテーブルにいる生徒も雑談や他のことをしているようで、勉強会をしているのは私たちだけかもしれない。
「それでカーティスは特に何が苦手っていうのはある?」
「僕は特に覚えるのが苦手だな。結局のところ法律も歴史も概要さえ理解すれば後はどれだけ細かいことを覚えられるかっていう話になってくるだろう?」
確かにカーティスは地頭は悪くなさそうだから概要は授業を聞けば理解出来るのだろう。そうなれば後はひたすら法律の条文や、歴史の人名などを暗記していかなければならないのだが、実際のところそれはかなり大変だ。
他の生徒もそれでつまづいた者が多かったのだろう、試験直後はこれまでの試験よりもどんよりとしている者が多かった気がする。
「いいな、私は概要もリアナに教えてもらうまでよく分からなかった」
「それはイヴがちゃんと授業を聞いてなかったからでしょ」
「あはは……」
図星を突かれたためか、イヴは苦笑する。
まあ授業を聞いていると眠くなるという気持ちは分からなくもないけど。
「でも私も暗記のコツとかあれば知りたいな」
「うーん、ただ覚えるだけなら覚えたいことを全部黒塗りした紙と、答えを書いた紙を作ってひらすら見比べていると覚えられはするけど、それすると一晩で忘れるんだよね」
「そうなんだ! 前々回の試験はそれでどうにか切り抜けたつもりになっていたんだが、全然記憶に残っていなくて前回は成績が下がったんだ!」
カーティスが熱心に頷く。
「どうやったら長い期間覚えて置けるんだろう?」
「最終的には何回も復習するしかないんだけど、私の場合は単語だけで覚えるよりも文章で覚える方が覚えやすいかな。だからひたすら教科書を声に出して読むとか」
「結局地道に努力しないといけないのか……」
「それはまあ」
イヴが落胆したように言うけど、裏技みたいなものがあるなら真っ先に授業で教わっていると思う。
一応試験を乗り切るためだけの技みたいなものはなくもないけど、そういうのは結局すぐに忘れちゃうし。
とはいえ、それだけではさすがに寂しいので一応ポジティブなことも口にする。
「ただ、何かと関連付けすると記憶に残りやすいとは言うから、こうやって勉強会をすれば思い出しやすくなるかもしれない」
「なるほど」
「じゃあどこから始める?」
そんな訳でその日はカーティスがつまずいているという貴族法のくだりから勉強会をした。
二人とも授業でやっていることをざっくりとは理解しているので、極論を言えば一人で暗記をすれば勉強会をする必要はないが、記憶に残りやすいように条文の意味とか、習ったときに思った感想とかそんな話をしながら勉強会を進めていく。
クリフと勉強会をしたときは基本的に私が一方的にしゃべるだけで、時折質問しても微妙な返事がくるだけだったし、挙句に退屈そうな顔をされるのが常だった。しかしこの二人との勉強会では何か尋ねればまともな答えが返ってくるし、熱心に私の話を聞いてくれるため私としても楽しい時間を過ごすことが出来た。
私としても一人で勉強しているとどうしても単調になってしまって、その結果忘れることも多くなってしまうので助かったと思う。
「そろそろ終わろうか」
二時間ほどしたところで私は終わりを切り出す。
イヴもカーティスも若干集中力が落ちているように見えた。
「ありがとう、一人だったら絶対こんなに勉強出来なかったと思う」
「僕も助かった。これからも週一か二ぐらいでやってくれると助かる」
「それくらいなら全然構わないよ」
こうして私たちは和やかな雰囲気で解散したのだった。
クリフとの勉強会ではいつも彼が耐え切れなくなって終わるか、私が小言を言って彼が不貞腐れて終わっていたような気がするので大違いだ。
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