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Ⅲ
父上との会話
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試験が終わると、私たちの学園は一週間ほどの休みに入る。
平民の学園の場合だと遠方から通う生徒が里帰りなどするためもっと長いところもあるらしいが、貴族はおおむね王都の学園付近に屋敷を持っているためその必要もなく、休みもあまり長くない。
とはいえいつもは学園に通い、家に帰っても手習いや宿題などがあり慌ただしく過ぎていくので一週間とはいえ休みがあるのはありがたかった。
「リアナ、最近学園はどうだ?」
休みに入り、いつもよりゆっくり朝食を食べていると父上が話しかけてくる。父上も父上でエイミス公爵家の当主として家全体を仕切るのはもちろんのこと、国政にも関与しているため忙しい。そのため最近は軽い挨拶以外で話すことはなかった。
父は現在四十過ぎの働き盛りで、体格も大きく何も知らない他人だったらいかめしい近寄りがたい雰囲気を感じたかもしれない。もっとも家では多少口数が少ないものの良き父という感じだったが。
「まあ色々あるけどとりあえずそれなりにやっています」
「そうか。それは良かった」
それを聞いてひとまず父上は安堵の表情を浮かべる。
「そう言えば最近法学の先生に褒められて、法務官の素質もあると言ってもらえたので法律の勉強を教えてもらうことにしました」
「ほお、それはすごいな」
父上はそう言って少し驚く。が、すぐに私がそれを口にした意図を察したらしい。
なぜならクリフと普通に結婚して嫁に行くならば、わざわざ法務官を目指す必要もないからだ。
「……クリフとはうまくいっているのか?」
「いえ、それがあまり」
一体どこまで話すかは少し考えてしまう。基本的に貴族の結婚は政略結婚なので完全にうまくいっているところはあまりないと思う。だから多少のことは我慢しなければならない。
それにしてもクリフは酷い方だと思うけど。
が、そんな私の答えから父上は不穏な気配を感じ取ったらしい。
確かに普段私はどちらかというと、忙しい父に気を遣って、何事も「大丈夫」「うまくやっている」で済ますタイプで、滅多に不安にさせるようなことは言わないできた。
「何だ? 気になっていることがあるなら話してみるがいい。ゆっくり話す機会もそんなに何度もないだろうからな」
「でしたらお話しますが……」
そう言って私はここ最近のクリフについて話すことにする。
やたらエルマにデレデレしていたこと、彼女と過ごすために私を避けるようになったこと、しかし自由にした挙句成績が低下したこと。しかも自分が反省するのではなく私に頼って事態を切り抜けようとしたこと。おまけにそのエルマとも仲違いしたこと。
あまり愚痴っぽくならないように話そうと思っていたが、私もクリフのやり方に心の奥底の方で憤っていたせいだろう、次第にクリフを責めるような内容が増えていくのだった。
そして話が終わりに向かうころにはほとんどクリフを罵倒するようなことばかり言っていた。
「……と言う訳です。すみません、愚痴っぽくなってしまって」
「気にするな。他の者がいないところではそういうことを言ってもいい」
が、そんな私に父上は優しい言葉をかけてくれてほっとする。
父上も少し残念そうな表情になった。
「しかしまさかクリフがそんな男だったとは。婚約を決めた時はもっといい男だと思ったのだがな」
「はい、私も最近までそう思っていたのですが……」
私もクリフの変わりよう、いや、成長していないという点では変わっていなさについては最近までは我慢できる範囲だと思っていた。それだけに今回の件は怒りというよりも残念な気持ちの方が大きかった。
「そうか、それならわしの方でも少し彼のことを調べてみよう」
「いえ、そんな大事にしていただかなくても」
自分の愚痴が思わぬ事件に発展しそうになったので私は慌てる。
が、父上は首を横に振った。
「これはリアナのためというだけではない。もしもそのような幼い男と親戚づきあいすることにもなれば我が家にも累が及ぶこともあるということだ。もっともそう簡単に婚約というものはなかったことには出来ないから、そこは覚えておいて欲しいが」
「分かりました」
そう言って父上は席を立つのだった。
これで本当にクリフとの婚約はなくなってしまう可能性がある。
それまでにクリフが更生してくれないかと思っていたけど今の彼を見ている限りだと……
私はこの婚約がどうなるかを考えて、期待と寂しさが入り混ざった複雑な気持ちになるのだった。
平民の学園の場合だと遠方から通う生徒が里帰りなどするためもっと長いところもあるらしいが、貴族はおおむね王都の学園付近に屋敷を持っているためその必要もなく、休みもあまり長くない。
とはいえいつもは学園に通い、家に帰っても手習いや宿題などがあり慌ただしく過ぎていくので一週間とはいえ休みがあるのはありがたかった。
「リアナ、最近学園はどうだ?」
休みに入り、いつもよりゆっくり朝食を食べていると父上が話しかけてくる。父上も父上でエイミス公爵家の当主として家全体を仕切るのはもちろんのこと、国政にも関与しているため忙しい。そのため最近は軽い挨拶以外で話すことはなかった。
父は現在四十過ぎの働き盛りで、体格も大きく何も知らない他人だったらいかめしい近寄りがたい雰囲気を感じたかもしれない。もっとも家では多少口数が少ないものの良き父という感じだったが。
「まあ色々あるけどとりあえずそれなりにやっています」
「そうか。それは良かった」
それを聞いてひとまず父上は安堵の表情を浮かべる。
「そう言えば最近法学の先生に褒められて、法務官の素質もあると言ってもらえたので法律の勉強を教えてもらうことにしました」
「ほお、それはすごいな」
父上はそう言って少し驚く。が、すぐに私がそれを口にした意図を察したらしい。
なぜならクリフと普通に結婚して嫁に行くならば、わざわざ法務官を目指す必要もないからだ。
「……クリフとはうまくいっているのか?」
「いえ、それがあまり」
一体どこまで話すかは少し考えてしまう。基本的に貴族の結婚は政略結婚なので完全にうまくいっているところはあまりないと思う。だから多少のことは我慢しなければならない。
それにしてもクリフは酷い方だと思うけど。
が、そんな私の答えから父上は不穏な気配を感じ取ったらしい。
確かに普段私はどちらかというと、忙しい父に気を遣って、何事も「大丈夫」「うまくやっている」で済ますタイプで、滅多に不安にさせるようなことは言わないできた。
「何だ? 気になっていることがあるなら話してみるがいい。ゆっくり話す機会もそんなに何度もないだろうからな」
「でしたらお話しますが……」
そう言って私はここ最近のクリフについて話すことにする。
やたらエルマにデレデレしていたこと、彼女と過ごすために私を避けるようになったこと、しかし自由にした挙句成績が低下したこと。しかも自分が反省するのではなく私に頼って事態を切り抜けようとしたこと。おまけにそのエルマとも仲違いしたこと。
あまり愚痴っぽくならないように話そうと思っていたが、私もクリフのやり方に心の奥底の方で憤っていたせいだろう、次第にクリフを責めるような内容が増えていくのだった。
そして話が終わりに向かうころにはほとんどクリフを罵倒するようなことばかり言っていた。
「……と言う訳です。すみません、愚痴っぽくなってしまって」
「気にするな。他の者がいないところではそういうことを言ってもいい」
が、そんな私に父上は優しい言葉をかけてくれてほっとする。
父上も少し残念そうな表情になった。
「しかしまさかクリフがそんな男だったとは。婚約を決めた時はもっといい男だと思ったのだがな」
「はい、私も最近までそう思っていたのですが……」
私もクリフの変わりよう、いや、成長していないという点では変わっていなさについては最近までは我慢できる範囲だと思っていた。それだけに今回の件は怒りというよりも残念な気持ちの方が大きかった。
「そうか、それならわしの方でも少し彼のことを調べてみよう」
「いえ、そんな大事にしていただかなくても」
自分の愚痴が思わぬ事件に発展しそうになったので私は慌てる。
が、父上は首を横に振った。
「これはリアナのためというだけではない。もしもそのような幼い男と親戚づきあいすることにもなれば我が家にも累が及ぶこともあるということだ。もっともそう簡単に婚約というものはなかったことには出来ないから、そこは覚えておいて欲しいが」
「分かりました」
そう言って父上は席を立つのだった。
これで本当にクリフとの婚約はなくなってしまう可能性がある。
それまでにクリフが更生してくれないかと思っていたけど今の彼を見ている限りだと……
私はこの婚約がどうなるかを考えて、期待と寂しさが入り混ざった複雑な気持ちになるのだった。
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