浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
28 / 65

父上との会話

しおりを挟む
 試験が終わると、私たちの学園は一週間ほどの休みに入る。 
 平民の学園の場合だと遠方から通う生徒が里帰りなどするためもっと長いところもあるらしいが、貴族はおおむね王都の学園付近に屋敷を持っているためその必要もなく、休みもあまり長くない。
 とはいえいつもは学園に通い、家に帰っても手習いや宿題などがあり慌ただしく過ぎていくので一週間とはいえ休みがあるのはありがたかった。

「リアナ、最近学園はどうだ?」

 休みに入り、いつもよりゆっくり朝食を食べていると父上が話しかけてくる。父上も父上でエイミス公爵家の当主として家全体を仕切るのはもちろんのこと、国政にも関与しているため忙しい。そのため最近は軽い挨拶以外で話すことはなかった。

 父は現在四十過ぎの働き盛りで、体格も大きく何も知らない他人だったらいかめしい近寄りがたい雰囲気を感じたかもしれない。もっとも家では多少口数が少ないものの良き父という感じだったが。

「まあ色々あるけどとりあえずそれなりにやっています」
「そうか。それは良かった」

 それを聞いてひとまず父上は安堵の表情を浮かべる。

「そう言えば最近法学の先生に褒められて、法務官の素質もあると言ってもらえたので法律の勉強を教えてもらうことにしました」
「ほお、それはすごいな」

 父上はそう言って少し驚く。が、すぐに私がそれを口にした意図を察したらしい。
 なぜならクリフと普通に結婚して嫁に行くならば、わざわざ法務官を目指す必要もないからだ。

「……クリフとはうまくいっているのか?」
「いえ、それがあまり」

 一体どこまで話すかは少し考えてしまう。基本的に貴族の結婚は政略結婚なので完全にうまくいっているところはあまりないと思う。だから多少のことは我慢しなければならない。
 それにしてもクリフは酷い方だと思うけど。

 が、そんな私の答えから父上は不穏な気配を感じ取ったらしい。
 確かに普段私はどちらかというと、忙しい父に気を遣って、何事も「大丈夫」「うまくやっている」で済ますタイプで、滅多に不安にさせるようなことは言わないできた。

「何だ? 気になっていることがあるなら話してみるがいい。ゆっくり話す機会もそんなに何度もないだろうからな」
「でしたらお話しますが……」

 そう言って私はここ最近のクリフについて話すことにする。

 やたらエルマにデレデレしていたこと、彼女と過ごすために私を避けるようになったこと、しかし自由にした挙句成績が低下したこと。しかも自分が反省するのではなく私に頼って事態を切り抜けようとしたこと。おまけにそのエルマとも仲違いしたこと。

 あまり愚痴っぽくならないように話そうと思っていたが、私もクリフのやり方に心の奥底の方で憤っていたせいだろう、次第にクリフを責めるような内容が増えていくのだった。
 そして話が終わりに向かうころにはほとんどクリフを罵倒するようなことばかり言っていた。

「……と言う訳です。すみません、愚痴っぽくなってしまって」
「気にするな。他の者がいないところではそういうことを言ってもいい」

 が、そんな私に父上は優しい言葉をかけてくれてほっとする。
 父上も少し残念そうな表情になった。

「しかしまさかクリフがそんな男だったとは。婚約を決めた時はもっといい男だと思ったのだがな」
「はい、私も最近までそう思っていたのですが……」

 私もクリフの変わりよう、いや、成長していないという点では変わっていなさについては最近までは我慢できる範囲だと思っていた。それだけに今回の件は怒りというよりも残念な気持ちの方が大きかった。

「そうか、それならわしの方でも少し彼のことを調べてみよう」
「いえ、そんな大事にしていただかなくても」

 自分の愚痴が思わぬ事件に発展しそうになったので私は慌てる。
 が、父上は首を横に振った。

「これはリアナのためというだけではない。もしもそのような幼い男と親戚づきあいすることにもなれば我が家にも累が及ぶこともあるということだ。もっともそう簡単に婚約というものはなかったことには出来ないから、そこは覚えておいて欲しいが」
「分かりました」

 そう言って父上は席を立つのだった。
 これで本当にクリフとの婚約はなくなってしまう可能性がある。

 それまでにクリフが更生してくれないかと思っていたけど今の彼を見ている限りだと……

 私はこの婚約がどうなるかを考えて、期待と寂しさが入り混ざった複雑な気持ちになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

処理中です...