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Ⅲ
試験返し
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そして試験が終わり、試験返しの授業がやってきた。
試験が終わったところですでに大体の生徒がある程度の結果を予測出来てしまっているためだろう、教室は試験が終わった解放感に包まれている組と落ち込んでいる組に明暗が分かれていた。
「カーティス、実技の試験の時の動きは凄まじかったな」
「お前のおかげで俺たちのクラスが勝ったからきっと俺たちの成績も上がった。礼を言う」
クラスメイトたちは口々にカーティスの活躍を褒め称える。
それに対してカーティスは少し照れながら答える。
「ありがとう。でも皆の成績が上がったかどうかは分からないぞ?」
「おいおい、そんなこと言うなよ」
「勝ったんだからさすがに上がってるだろ」
「だといいな」
元々カーティスの運動神経がいいのは知られていたが、試合では上級生に混ざっていたためそこまで目立っていなかったためか、今回の試験で一段と注目が集まったようだ。
私もふと思うことがあって彼の席に向かう。
すると私の姿を見て彼は少し驚く。
「カーティス、おめでとう」
「お? リアナが僕に声をかけてくれるなんて珍しいな」
私がお祝いの言葉をかけると彼は少し意外そうな顔をした後に笑みを浮かべる。
「クリフの件では色々アドバイスくれたし、おかげで吹っ切れたところもあったから」
「そうか? それは良かった。実はクリフの対応があんなだから落ち込んでいるんじゃないかと密かに心配していたんだ」
「うん、落ち込んだこともあったけど皆のおかげで吹っ切れたかも」
そんなことを話していると、一限の法学の先生が教室に入ってくる。
「皆席に着け」
それを見て私たちはしぶしぶ席に戻っていった。
先生は教壇に立つと、クラスをぎろりと見渡す。
「一年生の時は誰でもある程度試験は出来たかもしれないが、二年生になって真面目にやっている奴とそうでない奴で明らかに明暗が分かれている。確かに王国法は難しい授業と言われている。しかし法律を覚えることが基本である以上、馬鹿でも勉強すればそこそこの点数はとれるはずだ。ということは点数が悪い奴は真面目に勉強していないということだ。それを心しておくように」
先生の言葉に教室はしんと静まり返る。おそらく心当たりがある者が多いのだろう。
が、そこで先生は急に調子を変え、笑顔になる。
「逆に言えば、そんな中いい点数をとった者たちは皆よくやったということだ。特にリアナ」
「は、はい」
まさか名指しされるとは思わなかったので私は驚いて間抜けな声をあげてしまう。
「法学は男子の方が平均点が高い中、今回は学年で最高点だ。元々法律についての理解はあったようだが、その上真面目に勉強したのだろう。よくやった」
「ありがとうございます」
まさかこんな風に名指しで褒められるとは思わなかったので少々恐縮してしまう。
ちなみに男子の方が平均点が高いのは、将来家を継いで当主となるときに法学が必要となるからである。もちろん女子だって将来どこかに嫁げば家のことを全く知らないという訳にはいかないし、最低限の教養というのもあるだろうが、男子に比べると重要度が落ちてしまう。
そういうこともあって、私が一番だと言われると周囲から賞賛の視線が注がれる。
私はクラス全体の注目の中歩いていき、答案を受け取るのだった。
そしてその後個別に答案が返却されていく。
「ありがとうリアナ、おかげでこれまでで一番いい点がとれた!」
イヴは答案を受け取るとほっとした表情で私の元にやってきた。
確かにこれまでのイヴの点数よりも良くなっていた。今回はいつもより苦戦しているクラスメイトが多いことを考えると、よりすごい結果だろう。
とはいえイヴは元から自分で勉強していただけなので教えるのも楽だった。
「おめでとう。イヴは元からちゃんと勉強していたから私はちょっと教えただけだよ」
実際彼女は勉強を頑張っていたので、それが結果に繋がって良かったと思う。
「ううん、リアナの教え方が分かりやすかったからだよ」
「そうかな。でも、それもイヴの理解が早かったからだと思う」
「ありがとう。本当に助かったよ。でもリアナもあんな風に褒められるなんてすごいね」
「確かに感触は良かったけど、私もまさかあそこまで褒められるとは思わなかったよ」
そんな風に私とイヴがほっとしながら話していると、クリフの名前が呼ばれる。
クリフはすでに結果を予期していたのか、暗い表情で歩いていった。
彼が歩いていくと、先生は突如表情を変えて罵倒する。
「お前の成績は何と言うことだ! 宿題もろくにやってこないし、授業中も呆けたような顔をして試験も悪いとは本当に救いようがない!」
「……」
クリフはクラスメイトの前でそこまで言われても何も言えなかった。
それを見て中にはくすくすと忍び笑いを漏らすような者までいる。
が、先生はやがて諦めたように吐き捨てる。
「もういい、やる気のない奴は何を言っても無駄だ。勝手にしろ」
クリフは無言で答案を受け取ると、とぼとぼと席に戻っていくのだった。
試験が終わったところですでに大体の生徒がある程度の結果を予測出来てしまっているためだろう、教室は試験が終わった解放感に包まれている組と落ち込んでいる組に明暗が分かれていた。
「カーティス、実技の試験の時の動きは凄まじかったな」
「お前のおかげで俺たちのクラスが勝ったからきっと俺たちの成績も上がった。礼を言う」
クラスメイトたちは口々にカーティスの活躍を褒め称える。
それに対してカーティスは少し照れながら答える。
「ありがとう。でも皆の成績が上がったかどうかは分からないぞ?」
「おいおい、そんなこと言うなよ」
「勝ったんだからさすがに上がってるだろ」
「だといいな」
元々カーティスの運動神経がいいのは知られていたが、試合では上級生に混ざっていたためそこまで目立っていなかったためか、今回の試験で一段と注目が集まったようだ。
私もふと思うことがあって彼の席に向かう。
すると私の姿を見て彼は少し驚く。
「カーティス、おめでとう」
「お? リアナが僕に声をかけてくれるなんて珍しいな」
私がお祝いの言葉をかけると彼は少し意外そうな顔をした後に笑みを浮かべる。
「クリフの件では色々アドバイスくれたし、おかげで吹っ切れたところもあったから」
「そうか? それは良かった。実はクリフの対応があんなだから落ち込んでいるんじゃないかと密かに心配していたんだ」
「うん、落ち込んだこともあったけど皆のおかげで吹っ切れたかも」
そんなことを話していると、一限の法学の先生が教室に入ってくる。
「皆席に着け」
それを見て私たちはしぶしぶ席に戻っていった。
先生は教壇に立つと、クラスをぎろりと見渡す。
「一年生の時は誰でもある程度試験は出来たかもしれないが、二年生になって真面目にやっている奴とそうでない奴で明らかに明暗が分かれている。確かに王国法は難しい授業と言われている。しかし法律を覚えることが基本である以上、馬鹿でも勉強すればそこそこの点数はとれるはずだ。ということは点数が悪い奴は真面目に勉強していないということだ。それを心しておくように」
先生の言葉に教室はしんと静まり返る。おそらく心当たりがある者が多いのだろう。
が、そこで先生は急に調子を変え、笑顔になる。
「逆に言えば、そんな中いい点数をとった者たちは皆よくやったということだ。特にリアナ」
「は、はい」
まさか名指しされるとは思わなかったので私は驚いて間抜けな声をあげてしまう。
「法学は男子の方が平均点が高い中、今回は学年で最高点だ。元々法律についての理解はあったようだが、その上真面目に勉強したのだろう。よくやった」
「ありがとうございます」
まさかこんな風に名指しで褒められるとは思わなかったので少々恐縮してしまう。
ちなみに男子の方が平均点が高いのは、将来家を継いで当主となるときに法学が必要となるからである。もちろん女子だって将来どこかに嫁げば家のことを全く知らないという訳にはいかないし、最低限の教養というのもあるだろうが、男子に比べると重要度が落ちてしまう。
そういうこともあって、私が一番だと言われると周囲から賞賛の視線が注がれる。
私はクラス全体の注目の中歩いていき、答案を受け取るのだった。
そしてその後個別に答案が返却されていく。
「ありがとうリアナ、おかげでこれまでで一番いい点がとれた!」
イヴは答案を受け取るとほっとした表情で私の元にやってきた。
確かにこれまでのイヴの点数よりも良くなっていた。今回はいつもより苦戦しているクラスメイトが多いことを考えると、よりすごい結果だろう。
とはいえイヴは元から自分で勉強していただけなので教えるのも楽だった。
「おめでとう。イヴは元からちゃんと勉強していたから私はちょっと教えただけだよ」
実際彼女は勉強を頑張っていたので、それが結果に繋がって良かったと思う。
「ううん、リアナの教え方が分かりやすかったからだよ」
「そうかな。でも、それもイヴの理解が早かったからだと思う」
「ありがとう。本当に助かったよ。でもリアナもあんな風に褒められるなんてすごいね」
「確かに感触は良かったけど、私もまさかあそこまで褒められるとは思わなかったよ」
そんな風に私とイヴがほっとしながら話していると、クリフの名前が呼ばれる。
クリフはすでに結果を予期していたのか、暗い表情で歩いていった。
彼が歩いていくと、先生は突如表情を変えて罵倒する。
「お前の成績は何と言うことだ! 宿題もろくにやってこないし、授業中も呆けたような顔をして試験も悪いとは本当に救いようがない!」
「……」
クリフはクラスメイトの前でそこまで言われても何も言えなかった。
それを見て中にはくすくすと忍び笑いを漏らすような者までいる。
が、先生はやがて諦めたように吐き捨てる。
「もういい、やる気のない奴は何を言っても無駄だ。勝手にしろ」
クリフは無言で答案を受け取ると、とぼとぼと席に戻っていくのだった。
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