浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
24 / 65

試験

しおりを挟む
 クリフとの間にそんな事件はあったものの、そんなことは特に関係なく私たちは試験を迎えた。
 平民の学園であれば試験とはいってもそこまで雰囲気が変わらない者も多いと聞くが、この学園では皆貴族の子女であるため、そういう訳にはいかない。
 その人が悪い点数をとるだけで、まるで実家全員が頭が悪い家であるかのような印象が生まれてしまうため、試験の点数にぴりぴりしている家も多いと聞く。
 そのためクリフのような例外を除いて教室の中は皆ぴりぴりしていた。

 そんな中、クリフは一人試験とは関係なくどんよりしていた。カーティスによると彼はあんなにデレデレしていたエルマと突如仲違いしたらしい。エルマの方からクリフに喧嘩を仕掛けるとは思えないから、クリフの彼女に対する気持ちが変わったのだろうか。
 慰めてあげた方がいいかもしれないとも思ったが、カーティスに止められた。彼がしっかり反省して性格が直るまで甘やかさない方がいいらしい。
 そんな訳でむしろ私は今までになく試験に集中していた。

 基本的にこの学園の試験は歴史・古典関係と政治・法律関係の二つに分かれている。
 他にも男子だと体育や武術、女子であれば楽器や舞踏など芸術から好きな科目を選んでの試験があるが、そちらはあまり厳密なものではないので最低限のことをしていればそこまで酷い点数はつかず、一部の真面目にやっている人が「すごい」と言われるための試験だ。

 初日は歴史関係の試験が多く、王国史や文化史、古典などの科目が続いた。
 今まで通り危なげない点数、むしろクリフに教える時間が減ったせいか今までよりもいい点数をとることすら出来たかもしれない。

「ふう、こんなものかな」

 一日目が終わった私は試験の手ごたえに満足する。
 試験の日は午前中で終わるため早く帰れるが、私は隣で死んだ目をしているクリフの姿が目に入った。

「もう、終わりだ!」

 私の視線に気づくとクリフはうわごとのように言った。
 そしてこちらを見てすがるように言う。

「助けてくれリアナ! 今日の科目は全敗だ!」
「だからあれほど勉強した方がいいって言ったのに」
「ああ、やろうと思ったさ! だから昨日は久し振りに真面目にやろうと思ったが、教科書を開いても全然内容が頭に入ってこないんだ!」

 そう言ってクリフは哀願するような視線でこちらを見てくる。
 彼はプライドが高いからあまりこういう目を見たことはなかったので、よほど本気なのだろう。

「どの道今日頑張っても明日の試験には間に合わないと思うけど」
「そ、それでも何もしないよりはましだろう?」
「じゃあ試験が終わってもこれから放課後毎日勉強する気はある?」
「そ、それは……」

 クリフは言葉に詰まる。それを見て私は内心うんざりした。
 最初はクリフの更生に期待していた私も、いい加減彼の思考回路が分かって来た。

 おそらく彼は今試験の成績が壊滅してから私に頼んでいるけど、だからといって普段から心を入れ替えて勉強するつもりはないのだろう。
 私が怒ったから謝るけど、自分の性格を根本から直す気がないのと同じだ。

「そういうところだと思うけど」
「リアナ、今日の放課後空いてる?」

 そこにタイミングを見計らったのか、イヴが話しかけてくれる。
 ちょうどクリフはやっぱりだめだと思っていたところなので助かった。

「うん、大丈夫」
「じゃあまた勉強会しよう?」
「いいよ」

 私が快諾すると隣でクリフが力なくうなだれるのが見えた。



 翌日は法律や政治の試験が並んでいた。実は政治は学園で勉強しなくても、男であれば貴族の跡取りとして日頃から大きな事件やニュースに耳を研ぎ澄ませていればそれなりに分かる問題も多い。

 問題は法律であった。この国は歴史が深いせいで様々な法律があり、中には現代ではほぼ機能していないものまである。また、貴族にのみ適用される法や平民だけに適用される法など様々な分類の法が雑然と入り組んでおり、授業からも脱落している生徒が多かった。

 私は元からそういう込み入った仕組みを整理するのが嫌いではなかったし、クリフと接する時間が減った分を勉強にあてたおかげで、今回の試験ではこれまでになくいい点を取ることが出来たと思う。


 三日目に、最後に実技の試験があった。
 私は料理を選択し、まあまあの成績だった。隣のクラスではエルマが楽器の演奏で素晴らしい成績をとったらしいが、もはやそれを聞いても何とも思わない。

 一方、普段は運動が得意なクリフは座学での失敗が心に響いたせいか、実技でも振るわなかった。
 そんな中、カーティスは球技を選択し同じく球技を選択したクラスメイトたちとともにチームを組み、隣のクラスと試合をした。
 私はそれを教室の窓から見ていたが、普段上級生に混ざって試合をしているだけあってカーティスの動きは他のクラスメイトたちとは段違いだった。相手のコートを縦横無尽に走り回って相手チームからボールを奪い、一試合で三得点も挙げていた。
 サッカーの詳しいことはよく分からないが、コートを駆けまわるカーティスの姿は素人目に見ても格好いい、と思うのだった。

 こうして試験はそれぞれの明暗が分かれる形で終了した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...