浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
19 / 65

カーティス視点 イヴからの相談

しおりを挟む
 クリフのやつ、一向に反省する気配がないな。
 僕の最近の気がかりはそれだった。

 元々クリフはリアナという婚約者がいる癖にやたらエルマという女子に懐かれて彼自身もデレデレしているところがあった。
 また、極めつけはリアナの誘いを僕をダシにして断ったことだ。その日の試合に一緒に出ようと誘ってはいたが、僕もクリフに断られていた。そのことを人づてに聞いた時はさすがに友達ながら僕もクリフに対しては本心から改めた方がいいと感じた。

 そして翌日、クリフと会うなり僕は彼に対して話しかける。
 もちろん、リアナが近くにいないことを確認して。

「クリフ、昨日は僕と試合に出るってリアナに言ったらしいね」
「そ、それは……」

 僕が口にするとクリフは途端にしどろもどろになる。
 前から彼は自分に都合が悪い話になるとしどろもどろになるところがあった。

「一体何でそんなことをしたんだ?」
「済まないカーティス、せっかく誘ってもらったのに」
「僕のことはいいんだ!」

 相変わらずリアナに対しては何にも思っていなさそうなクリフの態度に僕はつい苛立ってしまう。
 やはり彼は無意識のうちにリアナのことを何でもしてくれる便利な”友人”と思い込んでいる節がある。

「いいか? 僕は断られただけで別に嘘をつかれた訳ではないからいい。だが、君はリアナの誘いを僕の名前を伝わって断ったんだ。悪いとは思わないのか?」
「まあ、確かに悪かったが……」

 クリフは罰が悪そうに頭をかく。

「それで一体何をしてたんだ?」
「実はエルマに行きたいところがあると誘われて……」

 クリフは言いづらそうに言う。それを聞いて僕はため息をついた。

「クリフ、それはつまりエルマをリアナより優先したということだな?」
「それは違う、リアナは婚約者だからこの先いくらでも一緒にいることはある。だがエルマとは所詮今だけの関係だろ? だから多少は仕方ないじゃないか」

 さすがにクリフの言葉を聞いて唖然としてしまった。
 しかも彼はそれを本気で言っていそうなのだ。

「クリフ、本当にそう思っているならそれはエルマにも失礼だ。人間関係というのはそういう簡単に切ったりつないだりできるものじゃないし、特に婚約者がいる場合はそうだろう?」
「わ、分かった。悪かったよカーティス。でもこのことはリアナに秘密にしてくれ。過ぎたことをあれこれ言っても仕方ないだろ?」

 過ぎたことをあれこれ言っても仕方ない、と本人に言われるのは苛々する。本来それは第三者が仲裁とかする時に言うことではないか。
 とはいえ、元々リアナに言うつもりはなかったので僕は頷く。

「分かった。その代わり今後はちゃんとリアナを優先するんだぞ」
「あ、ああ」

 僕はクリフの態度に不信感を抱いたが、もしもクリフが反省してリアナときちんと向き合うのであれば余計な告げ口をして二人の仲を裂かない方がいい。



 そう思っていったんはそのことを黙っておこうと思ったのだが、数日後リアナとイヴが話しているのを聞いてしまった。イヴによるとクリフはリアナとの勉強会の誘いを断ってエルマと勉強会をしていたという。

 それを聞いて僕はクリフにさらに失望した。

 この分だとクリフは更生する見込みはないが、その時のリアナはまだクリフがまともなやつだと思っていた、というよりは思い込もうとしていてイヴも説得に難航しているようだった。このままだとリアナを不幸にし続けるだけだ、そう思った僕は意を決してそのことをリアナに言うことにした。

 その後、決意したリアナはクリフへの思いを残しつつもこれまでの彼女が嘘のようにクリフに冷たく当たるようになった。

 それを見てクリフが改心してくれないかと願っていたが、残念ながらクリフにその兆しは見られなかった。
 彼女はクリフにも勉強を教えたり、料理を作ってきたりと尽くしていたし、一度僕の試合を見にきてくれた時もあったが、とてもいい娘だと思う。
 それでもクリフが彼女を大事にしないのは常軌を逸しているようにしか思えなかった。

 もちろんどんなに性格が良くても恋愛対象として見れないことはあるだろう。
 だが、それでもせめて対等な人間として接するべきではないか。

「あの、ちょっと話してもいい?」

 そんなことを考えていた時だった。イヴが僕に話しかけてきたのは。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...