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Ⅱ
イヴ視点 勉強会
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「婚約者がいるのに他の女子を可愛いって言うなんて最低」
私がそう言うと、クリフは私から逃げるように去っていった。
元々軽薄な人物だとは思っていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。思うにクリフがリアナに雑な態度をとっているのは、リアナがクリフのことを好きだから何をしても嫌われることがないという無意識の甘えがあるからだろう。
そう思うと余計にクリフの態度に腹が立ってくる。
「行こう、リアナ」
だから私は気持ちを変えるようにリアナを誘う。
放課後のカフェテリアは相変わらず勉強会を行う生徒で混雑していた。
いや、試験が近づいてきたせいでより一層混雑してきている。私たちはどうにか隅の方に席をとることが出来た。
「まず何の教科からにする?」
席につくとリアナが尋ねる。
「うーん、法学かな。昨日の宿題も全然分からなかったし。王国法の時はまだ分かったんだけど、貴族法に入ってから全然ついていけなくなって」
そう言って私はノートを取り出し、ちょうど授業についていけなくなったあたりのページを開く。
今もノートはとっているけど、正直なところ内容は理解していないのにどうにか内容だけは写している、という感じになってしまっている。
そんな私を見てリアナが小さく驚く。
「どうしたの?」
「いや、ノート綺麗だなと思って」
「そんなこと初めて言われたけど」
自慢じゃないけど私は別に勉強は得意ではないし、ノートもそんなに綺麗ではないと思っていた。まあ他の人のノートを見たり見せてもらったりしたことはないから、他の人に比べてどうなのかはよく分からないけど。
「それでまずはこの貴族法第十二条の件なんだけど……」
私が質問を再開しようとすると、再びリアナが驚いたような反応をする。
「何か変なこと言った?」
「いや、そうじゃないけど……ちゃんと自分が分からないところを把握してるんだなって」
「え? 自分が分からないところを自分で分からなかったら誰が分かるの?」
むしろ私はリアナの言うことがよく分からない。
彼女は頭がいいのに何を言っているのだろうか。
するとリアナは私の言葉に苦笑した。
「いや、クリフに教えている時はクリフは全部分かるみたいに言うから、まずはクリフがどこでつまずいているかを発見するところから始めるんだけど」
リアナが当然のように言う。確かにクリフはいい恰好したがりなところがあるから分からないところを自分で素直には言い出さないような気もする。
「ん? でもそれってどうやって発見するの?」
「まずは基本的な問題をいくつかテストしてつまずいたところが多かったところを重点的に教えてたけど」
「いや、勉強会ってそう言うものじゃなくない?」
それでは勉強会というより本職の家庭教師のようである。お金を払って教えてもらうならそれでもいいが、対等な相手に要求することではないような気がする。
第一、勉強を教える前に苦手なところを発見する時間を設けるなんて、時間の無駄じゃないか。それでは実際に教えてもらう時間が減ってしまう。
するとリアナは少し困ったように言う。
「でも私、それしか勉強会したことなかったから」
「えぇ!? 他人に物を教わろうとするならまずは自分で一度やってみてそれでも分からないところを明確にして、そこを優先的に聞くべきじゃないの!?」
「いや、私に言われてもこれまでクリフとしか勉強会したことなかったから」
私の言葉になぜかリアナが申し訳なさそうに言う。
「ごめん、何か熱くなっちゃった。確かにリアナに言うことじゃなかったね。クリフがリアナが相手なのをいいことにそんな図々しい態度をとってるって知ってちょっと我慢できなくなっちゃって」
「何か悪いね……イヴはいつも私以上にクリフに怒ってくれているみたいで」
「いや、リアナはもっと怒った方がいいよ! ごめん、話そらしちゃったけど勉強会やろうか」
「うん」
こうして私はリアナに勉強を教わった訳だが、リアナはこちらが分からなくて言葉足らずになってしまった質問も意図をよく察して答えてくれるし、教え方も論理的で分かりやすい。
リアナに勉強を教えてもらえるというだけで成績が上がりそうだ。
つくづくクリフは勿体ないことをしているな、と私は思うのだった。
私がそう言うと、クリフは私から逃げるように去っていった。
元々軽薄な人物だとは思っていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。思うにクリフがリアナに雑な態度をとっているのは、リアナがクリフのことを好きだから何をしても嫌われることがないという無意識の甘えがあるからだろう。
そう思うと余計にクリフの態度に腹が立ってくる。
「行こう、リアナ」
だから私は気持ちを変えるようにリアナを誘う。
放課後のカフェテリアは相変わらず勉強会を行う生徒で混雑していた。
いや、試験が近づいてきたせいでより一層混雑してきている。私たちはどうにか隅の方に席をとることが出来た。
「まず何の教科からにする?」
席につくとリアナが尋ねる。
「うーん、法学かな。昨日の宿題も全然分からなかったし。王国法の時はまだ分かったんだけど、貴族法に入ってから全然ついていけなくなって」
そう言って私はノートを取り出し、ちょうど授業についていけなくなったあたりのページを開く。
今もノートはとっているけど、正直なところ内容は理解していないのにどうにか内容だけは写している、という感じになってしまっている。
そんな私を見てリアナが小さく驚く。
「どうしたの?」
「いや、ノート綺麗だなと思って」
「そんなこと初めて言われたけど」
自慢じゃないけど私は別に勉強は得意ではないし、ノートもそんなに綺麗ではないと思っていた。まあ他の人のノートを見たり見せてもらったりしたことはないから、他の人に比べてどうなのかはよく分からないけど。
「それでまずはこの貴族法第十二条の件なんだけど……」
私が質問を再開しようとすると、再びリアナが驚いたような反応をする。
「何か変なこと言った?」
「いや、そうじゃないけど……ちゃんと自分が分からないところを把握してるんだなって」
「え? 自分が分からないところを自分で分からなかったら誰が分かるの?」
むしろ私はリアナの言うことがよく分からない。
彼女は頭がいいのに何を言っているのだろうか。
するとリアナは私の言葉に苦笑した。
「いや、クリフに教えている時はクリフは全部分かるみたいに言うから、まずはクリフがどこでつまずいているかを発見するところから始めるんだけど」
リアナが当然のように言う。確かにクリフはいい恰好したがりなところがあるから分からないところを自分で素直には言い出さないような気もする。
「ん? でもそれってどうやって発見するの?」
「まずは基本的な問題をいくつかテストしてつまずいたところが多かったところを重点的に教えてたけど」
「いや、勉強会ってそう言うものじゃなくない?」
それでは勉強会というより本職の家庭教師のようである。お金を払って教えてもらうならそれでもいいが、対等な相手に要求することではないような気がする。
第一、勉強を教える前に苦手なところを発見する時間を設けるなんて、時間の無駄じゃないか。それでは実際に教えてもらう時間が減ってしまう。
するとリアナは少し困ったように言う。
「でも私、それしか勉強会したことなかったから」
「えぇ!? 他人に物を教わろうとするならまずは自分で一度やってみてそれでも分からないところを明確にして、そこを優先的に聞くべきじゃないの!?」
「いや、私に言われてもこれまでクリフとしか勉強会したことなかったから」
私の言葉になぜかリアナが申し訳なさそうに言う。
「ごめん、何か熱くなっちゃった。確かにリアナに言うことじゃなかったね。クリフがリアナが相手なのをいいことにそんな図々しい態度をとってるって知ってちょっと我慢できなくなっちゃって」
「何か悪いね……イヴはいつも私以上にクリフに怒ってくれているみたいで」
「いや、リアナはもっと怒った方がいいよ! ごめん、話そらしちゃったけど勉強会やろうか」
「うん」
こうして私はリアナに勉強を教わった訳だが、リアナはこちらが分からなくて言葉足らずになってしまった質問も意図をよく察して答えてくれるし、教え方も論理的で分かりやすい。
リアナに勉強を教えてもらえるというだけで成績が上がりそうだ。
つくづくクリフは勿体ないことをしているな、と私は思うのだった。
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