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Ⅱ
冷めていく関係
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「ねえ、今日の放課後空いている?」
昼休み、イヴと一緒にご飯を食べているとそう尋ねられる。
最初はクリフに反省を促すためとはいえ離れ離れになるのは寂しいかもしれないと思ったが、イヴがこうして誘ってくれることもあって私はすぐに慣れてしまっていた。
「うん、空いてるよ」
「じゃあ一緒に勉強しない? 私今度の試験ちょっと自信なくて」
「いいよ」
私が頷くと、イヴはぱっと表情を輝かせる。
「ありがとう、最近授業が難しくなってきてたから助かったんだよね!」
それを聞いて私はふと、久しぶりに「ありがとう」と言われたような気がした。クリフに何かしたときに彼は「ありがとう」ときちんと言ってくれただろうか。別に言葉尻一つをとってどうこう言うつもりはないし、一回二回忘れるぐらいならいいけど、今となっては、クリフの場合は本心からそこまで感謝してないからこそお礼の言葉もなかったのではないか。そんな風に思えてしまう。
「……どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「もしかしてクリフのこと? 私と一緒にいる時に他の男のこと考えないで!」
イヴがおどけながらそう言ってみせる。
きっと、考えても仕方ないからずっと彼のことばかりを考えすぎない方がいい、というのを言ってくれているのだろう。
「まあすぐには忘れられないというのも分かるけど」
「クリフ、反省してるかな」
そうは言ってみるものの、先ほどの法学の授業の時も宿題をやってくることが出来なくて私の逆恨みするように睨みつけてきた。あまり反省しているようには見えない。
私の言葉にイヴも首をかしげてみせた。
「うーん……ちょっと時間が必要かもしれないね」
本当はクリフのことをもうだめだと思っているのかもしれないが、私に気を使ってそう言ってくれているのかもしれない。
これまでは私がクリフに気を遣ってばかりだったが、イヴに気を遣われて私は気遣いされるありがたみを実感した。
それから午後の授業も終わり、放課後が始まる。
すると授業が終わるのを待っていたかのように隣の席からクリフが話しかけてきた。
「なあ、今日は俺に勉強教えてくれないか?」
「でもクリフはエルマとの勉強会があるんじゃないの?」
クリフからそう言ってきたのは歩み寄りなのかもしれないが、私はついそう言ってしまう。昨日断ったばかりなのに懲りていない。それとも宿題が出来ずにクラスメイトたちに白い目で見られたのがよほど屈辱だったのだろうか。それなら日頃からきちんと勉強すればいいのに。
するとクリフは一瞬顔をしかめてから答える。
「い、今はいいだろエルマのことは。エルマだってたまには勉強会休みたいときがあるんだよ」
「ふーん、じゃあ私はエルマとの勉強会が休みのときの穴埋めってこと?」
普段の言動がまともな相手ならいい間違えかもしれないと思うかもしれないが、クリフの場合本音が漏れてしまったようにしか聞こえない。
ちょっとでもクリフが反省したと思った私が馬鹿だった。
私が正論を言うとクリフは慌てて自身の口を塞ぐ。
「ち、違う、い、今のはそう、言葉の綾だ!」
「そう? 本心から私よりエルマの方がいいって思ってるんじゃないの?」
「そ、そんな訳ないだろ! 大体俺たちは婚約者じゃないか。いくらエルマが可愛くたって婚約者とは別だろ? そう、リアナは別格なんだよ!」
「やっぱりエルマのこと可愛いって思ってるじゃない」
「あ」
クリフは再び失言に気づいて自分の口に手を当てる。
そこは嘘でも「エルマのことは何とも思ってない」と言うべきではないか。嘘が下手なのはまだいいとして、そこから漏れてくる本音が最低だった。
「婚約者がいるのに、他の女子を可愛いって言うなんて最低」
そう言ったのは私ではない。私に話しかけてきたイヴだ。私と違ってイヴは本心からクリフを軽蔑しているのか、声のトーンはかなり低い。
それを聞いてクリフはすくみ上がった。
「ま、まあ気が変わったら言ってくれよ。いつでも待ってるから」
そう言ってクリフは逃げるように去っていくのだった。
正直これ以上クリフと話していても気分が悪くなるだけだと思われたので、私は彼女が間に入ってくれたことにほっとした。
昼休み、イヴと一緒にご飯を食べているとそう尋ねられる。
最初はクリフに反省を促すためとはいえ離れ離れになるのは寂しいかもしれないと思ったが、イヴがこうして誘ってくれることもあって私はすぐに慣れてしまっていた。
「うん、空いてるよ」
「じゃあ一緒に勉強しない? 私今度の試験ちょっと自信なくて」
「いいよ」
私が頷くと、イヴはぱっと表情を輝かせる。
「ありがとう、最近授業が難しくなってきてたから助かったんだよね!」
それを聞いて私はふと、久しぶりに「ありがとう」と言われたような気がした。クリフに何かしたときに彼は「ありがとう」ときちんと言ってくれただろうか。別に言葉尻一つをとってどうこう言うつもりはないし、一回二回忘れるぐらいならいいけど、今となっては、クリフの場合は本心からそこまで感謝してないからこそお礼の言葉もなかったのではないか。そんな風に思えてしまう。
「……どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「もしかしてクリフのこと? 私と一緒にいる時に他の男のこと考えないで!」
イヴがおどけながらそう言ってみせる。
きっと、考えても仕方ないからずっと彼のことばかりを考えすぎない方がいい、というのを言ってくれているのだろう。
「まあすぐには忘れられないというのも分かるけど」
「クリフ、反省してるかな」
そうは言ってみるものの、先ほどの法学の授業の時も宿題をやってくることが出来なくて私の逆恨みするように睨みつけてきた。あまり反省しているようには見えない。
私の言葉にイヴも首をかしげてみせた。
「うーん……ちょっと時間が必要かもしれないね」
本当はクリフのことをもうだめだと思っているのかもしれないが、私に気を使ってそう言ってくれているのかもしれない。
これまでは私がクリフに気を遣ってばかりだったが、イヴに気を遣われて私は気遣いされるありがたみを実感した。
それから午後の授業も終わり、放課後が始まる。
すると授業が終わるのを待っていたかのように隣の席からクリフが話しかけてきた。
「なあ、今日は俺に勉強教えてくれないか?」
「でもクリフはエルマとの勉強会があるんじゃないの?」
クリフからそう言ってきたのは歩み寄りなのかもしれないが、私はついそう言ってしまう。昨日断ったばかりなのに懲りていない。それとも宿題が出来ずにクラスメイトたちに白い目で見られたのがよほど屈辱だったのだろうか。それなら日頃からきちんと勉強すればいいのに。
するとクリフは一瞬顔をしかめてから答える。
「い、今はいいだろエルマのことは。エルマだってたまには勉強会休みたいときがあるんだよ」
「ふーん、じゃあ私はエルマとの勉強会が休みのときの穴埋めってこと?」
普段の言動がまともな相手ならいい間違えかもしれないと思うかもしれないが、クリフの場合本音が漏れてしまったようにしか聞こえない。
ちょっとでもクリフが反省したと思った私が馬鹿だった。
私が正論を言うとクリフは慌てて自身の口を塞ぐ。
「ち、違う、い、今のはそう、言葉の綾だ!」
「そう? 本心から私よりエルマの方がいいって思ってるんじゃないの?」
「そ、そんな訳ないだろ! 大体俺たちは婚約者じゃないか。いくらエルマが可愛くたって婚約者とは別だろ? そう、リアナは別格なんだよ!」
「やっぱりエルマのこと可愛いって思ってるじゃない」
「あ」
クリフは再び失言に気づいて自分の口に手を当てる。
そこは嘘でも「エルマのことは何とも思ってない」と言うべきではないか。嘘が下手なのはまだいいとして、そこから漏れてくる本音が最低だった。
「婚約者がいるのに、他の女子を可愛いって言うなんて最低」
そう言ったのは私ではない。私に話しかけてきたイヴだ。私と違ってイヴは本心からクリフを軽蔑しているのか、声のトーンはかなり低い。
それを聞いてクリフはすくみ上がった。
「ま、まあ気が変わったら言ってくれよ。いつでも待ってるから」
そう言ってクリフは逃げるように去っていくのだった。
正直これ以上クリフと話していても気分が悪くなるだけだと思われたので、私は彼女が間に入ってくれたことにほっとした。
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