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Ⅱ
後悔するクリフ
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そしてリアナが怒りだしてから三日目のことである。
いつものようにエルマとカフェテリアに行った時のことだ。何気なくエルマが俺に尋ねる。
「そう言えば今日の法学の宿題難しいね。分かる?」
「そ、それは……」
ここスターリッジ王国は歴史が深い国であり、基本的に法律は増えることはあっても減ることはないので、様々な法律がある。
そんな訳で覚えることが多い上に昔の法律は古語が多くて難しいため、法学は元々苦手だったが、最近は特に授業が専門的な内容に入ってきたためついていけなくなっていた。
昔はまだましだったのになぜだろう、と思ってそこで俺は以前はリアナに言われていやいやながら用語を覚えさせられたり、教科書を復習させられたりしていたことを思い出す。
そして分からない宿題があれば、頼み込めば彼女は写させてくれた。
そのため少し苦手ぐらいで済んでいたが、最近は今までやらされていたこともすっかりさぼってしまっていた。
もしかしてそのせいなのだろうか。
俺の脳裏をそんな考えがよぎる。
「ごめん、分からないよね」
すぐにエルマは質問を取り下げたが、その態度は「クリフは分かる訳ないのに訊いてごめん」と言っているようで、俺は内心さらに深く傷ついた。
そしてそれが間違っていないことに俺は二重に傷ついた。
エルマはそんな俺の気持ちを切り替えるように勉強会に誘ってくれるが、いつものように勉強会をしながら俺は困惑する。
今日の宿題は一体どうしよう、と。
翌朝、法学の授業が近づいた俺は困っていた。
一応家に帰って考えてはみたが宿題はさっぱり分からない。エルマはクラスの女友達に見せてもらっていたようだが、さすがにエルマに見せてもらう訳にはいかない。
仕方なく俺はクラスで唯一親しいカーティスに頼みにいく。
「なあカーティス、今日の法学の宿題なんだが……」
すると彼は首をかしげる。
「リアナはどうしたんだ? いつも勉強は彼女に教わっているだろ」
「リアナは今関係ないだろ」
その名前を出されてむっとする。こいつは俺とリアナが喧嘩していることを知らないのだろうか。周りはみんな知っているというのに。
が、カーティスは険しい表情で首を横に振った。
「だめだ。そんな態度なら教えられない。というかそもそも宿題を他人に見せてもらうのを当たり前だと思うことが間違っている。特に今日の宿題は難しかったから皆苦労してやってきているんだ」
「そ、そこを何とか……」
「だめだと言ったらだめだ」
カーティスは昔からそういう潔癖気味なところがある。
だから俺はカーティスではなくリアナに頼んでいたのだが、やはりだめだったようだ。
「席に着け、授業を始めるぞ」
そんな言い争いをしているうちに先生が教室に入ってくる。
くそ、法学のニコライ先生は他の先生よりも怒ると面倒だと言うのに。
先生は教室の前に立つと、開口一番言った。
「ではまず宿題を出してもらおうか」
「あの、すみません……」
仕方なく俺は手を挙げる。クラスの皆がやってきている中で一人手を挙げるのはとても恥ずかしいことだ。
他のクラスメイトは全員やってきたのか、クラスで俺だけが手を挙げており、晒し者にされているような気分になる。そんな俺を先生はぎろりと睨みつけた。
「何だ?」
「宿題、終わっていません……」
「何だと? 何か理由でもあったのか?」
「いえ」
さすがにいつも見せてくれる人に見せてもらえなかったからとも言えず、俺はそう答えるしかない。
クラス全員の視線が俺に突き刺さっているようで、まさに穴があったら入りたい気分だ。
そんな俺を見て先生は深くため息をついた。
「全く。いくら貴族の家に生まれたからといって宿題も出来ないようでは先が思いやられるな。法律もまともに知らん者が貴族の当主になるなんて大丈夫なのか? まあいい、この先勝手に困るがいい。やって来た者たちは提出するように」
俺は恨みをこめて隣のリアナを見るが、彼女は冷ややかな目で俺を一瞥するだけだった。
俺は他の生徒たちが席を立って宿題を提出するのをぼーっと眺めることしか出来なかった。
いつものようにエルマとカフェテリアに行った時のことだ。何気なくエルマが俺に尋ねる。
「そう言えば今日の法学の宿題難しいね。分かる?」
「そ、それは……」
ここスターリッジ王国は歴史が深い国であり、基本的に法律は増えることはあっても減ることはないので、様々な法律がある。
そんな訳で覚えることが多い上に昔の法律は古語が多くて難しいため、法学は元々苦手だったが、最近は特に授業が専門的な内容に入ってきたためついていけなくなっていた。
昔はまだましだったのになぜだろう、と思ってそこで俺は以前はリアナに言われていやいやながら用語を覚えさせられたり、教科書を復習させられたりしていたことを思い出す。
そして分からない宿題があれば、頼み込めば彼女は写させてくれた。
そのため少し苦手ぐらいで済んでいたが、最近は今までやらされていたこともすっかりさぼってしまっていた。
もしかしてそのせいなのだろうか。
俺の脳裏をそんな考えがよぎる。
「ごめん、分からないよね」
すぐにエルマは質問を取り下げたが、その態度は「クリフは分かる訳ないのに訊いてごめん」と言っているようで、俺は内心さらに深く傷ついた。
そしてそれが間違っていないことに俺は二重に傷ついた。
エルマはそんな俺の気持ちを切り替えるように勉強会に誘ってくれるが、いつものように勉強会をしながら俺は困惑する。
今日の宿題は一体どうしよう、と。
翌朝、法学の授業が近づいた俺は困っていた。
一応家に帰って考えてはみたが宿題はさっぱり分からない。エルマはクラスの女友達に見せてもらっていたようだが、さすがにエルマに見せてもらう訳にはいかない。
仕方なく俺はクラスで唯一親しいカーティスに頼みにいく。
「なあカーティス、今日の法学の宿題なんだが……」
すると彼は首をかしげる。
「リアナはどうしたんだ? いつも勉強は彼女に教わっているだろ」
「リアナは今関係ないだろ」
その名前を出されてむっとする。こいつは俺とリアナが喧嘩していることを知らないのだろうか。周りはみんな知っているというのに。
が、カーティスは険しい表情で首を横に振った。
「だめだ。そんな態度なら教えられない。というかそもそも宿題を他人に見せてもらうのを当たり前だと思うことが間違っている。特に今日の宿題は難しかったから皆苦労してやってきているんだ」
「そ、そこを何とか……」
「だめだと言ったらだめだ」
カーティスは昔からそういう潔癖気味なところがある。
だから俺はカーティスではなくリアナに頼んでいたのだが、やはりだめだったようだ。
「席に着け、授業を始めるぞ」
そんな言い争いをしているうちに先生が教室に入ってくる。
くそ、法学のニコライ先生は他の先生よりも怒ると面倒だと言うのに。
先生は教室の前に立つと、開口一番言った。
「ではまず宿題を出してもらおうか」
「あの、すみません……」
仕方なく俺は手を挙げる。クラスの皆がやってきている中で一人手を挙げるのはとても恥ずかしいことだ。
他のクラスメイトは全員やってきたのか、クラスで俺だけが手を挙げており、晒し者にされているような気分になる。そんな俺を先生はぎろりと睨みつけた。
「何だ?」
「宿題、終わっていません……」
「何だと? 何か理由でもあったのか?」
「いえ」
さすがにいつも見せてくれる人に見せてもらえなかったからとも言えず、俺はそう答えるしかない。
クラス全員の視線が俺に突き刺さっているようで、まさに穴があったら入りたい気分だ。
そんな俺を見て先生は深くため息をついた。
「全く。いくら貴族の家に生まれたからといって宿題も出来ないようでは先が思いやられるな。法律もまともに知らん者が貴族の当主になるなんて大丈夫なのか? まあいい、この先勝手に困るがいい。やって来た者たちは提出するように」
俺は恨みをこめて隣のリアナを見るが、彼女は冷ややかな目で俺を一瞥するだけだった。
俺は他の生徒たちが席を立って宿題を提出するのをぼーっと眺めることしか出来なかった。
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