上 下
13 / 65

カーティスの活躍

しおりを挟む
「なあリアナ、昨日は悪かった。だから今日は一緒に勉強しよう」

 放課後、最後の授業が終わるなり、なれなれしくクリフが話しかけてくる。
 私の決意が固いと見てとったのか、今日は少し私に媚びるような雰囲気が感じられた。

 とはいえ、一緒に勉強と言っても私が一方的に勉強を教えるだけ。クリフからそれを頼んでくるのであればまだ分かるが、なぜか勉強を教えるのがクリフから私への償いのようになっているのはよく分からない。

 そのことに気づくと余計に苛々したのでつい私も態度を硬くしてしまう。

「私も別に毎日暇って訳じゃないけど」
「そ、そうだったのか!?」

 クリフは驚くが、その驚き方も失礼ではないか。
 やはり彼は私が怒ったから何となく謝っているだけのように思えてしまう。

「なあ、それはもしかして昼休みに一緒に食べた男との予定なのか?」
「……」

 クリフの口から続いた言葉に私は閉口する。
 元々それを匂わすようなことを言った私も悪いが、クリフのために勉強を教えたりご飯を作ったりした私がすでに浮気しているかのようなことを、確かめもせずに言うのはどう考えても失礼ではないか。

 本当に私に興味があるならちょっと誰かに聞けば誰と一緒にお昼を食べていたかぐらいわかるはずだ。
 それとも自分がエルマといい仲になっているから私のことも怪しく思えるということなのだろうか。

 いずれにせよ私からすれば気に食わない理由だ。
 きちんと謝るのであれば考えても良かったが、そのような態度ではかえって私の苛立ちは深まるばかりだ。

「どうだろう。自分で考えてみたら?」

 結局私は我慢できなくなり、そう言ってクリフの元を逃げるように去っていくのだった。



 さて、クリフの元を離れたものの放課後特に他の予定がある訳でもない。家に帰ってもいいが、今の苛々とした気持ちのまま帰るのは何となく嫌だった。
 何かいい気晴らしはないかと思って歩いていると、今日は校庭でサッカーの試合があるらしく、男子たちが集まっている。
 そう言えばクリフは時々カーティスとサッカーをしていると言っていた(今となっては本当にしていたかは怪しいが)が、見にいったことはなかった。せっかく時間が出来たことだし、一度くらいは見てみてもいいかもしれない。
 そう思って私は校庭に歩いていく。
 サッカーコートの側にはすでに応援や見学の生徒が集まる席が出来ており、出場者の友達や恋人などが集まっていた。私のように何となく観戦に来た人は少数派だろう。しかも他の観戦者は上級生ばかりで知り合いも見当たらない。

 私が隅の方で小さくなっていると、選手の一人がこちらを向いて片手をあげる。誰かと思ったらカーティスだった。
 カーティスはクリフの友人でもあり、私に彼の裏切りを伝えてくれた人でもある。

「リアナが見にきてくれるなんて珍しいね」
「うん、ちょっと気晴らしに」

 私が言葉少なに言うと、カーティスは私の事情を察したのか複雑な表情を見せる。
 きっと教室のど真ん中で啖呵を切ったからクラス中、もしかすると他のクラスまで知れ渡っているのかもしれない。

「そうか、なかなか大変そうだね。少しでも気分が変わるように僕も頑張るよ」

 そう言って彼はコートに戻っていくのだった。



 それから少しして試合が始まる。
 全然知らなかったが、この学園の運動をやる男子生徒は二つの組に分かれていて、片方の組に所属する生徒たちは学年を問わず同じチームになるらしい。そのため、カーティスが所属するチームも当然上級生が主戦力になるはずだったが、カーティスは二年生から唯一レギュラーに選ばれていた。

 他の上級生は誰も知り合いがいないので、私は自然とカーティスばかりを目で追うようになる。
 上級生の方が体格が大きく、チームでも中心的なポジションについているが、カーティスは相手の上級生たちの間を縫うように走り回り、相手のパスをカットし、味方にパスを出す。

 そしてカーティスからパスを受けた上級生が相手のゴールにボールを蹴り入れ、周囲から喚声が上がる。
 カーティスの活躍はあまり派手なものではなかったし、そもそも私はサッカーは基本的なルールぐらいしか知らなかったが、それでも彼がチームプレイを全うしていることを理解した。

 気が付くと私は彼がボールをとるたびに手に汗を握り、うまくパスをつなげられれば喚声をあげ、ボールを相手にとられればがっかりしていたのだった。

 そして試合は3-1でカーティスのチームが勝利した。
 私と一緒に試合を見ていた上級生たちが上級生の生徒たちを祝福しに行く中、私はカーティスの元に向かう。

「おめでとう!」
「ありがとう、せっかく見にきてくれたのに地味な活躍しか出来なくて悪いね」
「ううん、周りが上級生ばかりの中凄く頑張っていたと思う」
「いい気晴らしになったかな?」
「うん、サッカーは初めてだったけど楽しかった」
「それは良かった」

 カーティスは純粋に私が試合を楽しんでくれたことを喜んでくれたようだ。
 そして私は少しだけ満ち足りた気分で家に帰ることが出来たのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...