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Ⅱ
カーティスの活躍
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「なあリアナ、昨日は悪かった。だから今日は一緒に勉強しよう」
放課後、最後の授業が終わるなり、なれなれしくクリフが話しかけてくる。
私の決意が固いと見てとったのか、今日は少し私に媚びるような雰囲気が感じられた。
とはいえ、一緒に勉強と言っても私が一方的に勉強を教えるだけ。クリフからそれを頼んでくるのであればまだ分かるが、なぜか勉強を教えるのがクリフから私への償いのようになっているのはよく分からない。
そのことに気づくと余計に苛々したのでつい私も態度を硬くしてしまう。
「私も別に毎日暇って訳じゃないけど」
「そ、そうだったのか!?」
クリフは驚くが、その驚き方も失礼ではないか。
やはり彼は私が怒ったから何となく謝っているだけのように思えてしまう。
「なあ、それはもしかして昼休みに一緒に食べた男との予定なのか?」
「……」
クリフの口から続いた言葉に私は閉口する。
元々それを匂わすようなことを言った私も悪いが、クリフのために勉強を教えたりご飯を作ったりした私がすでに浮気しているかのようなことを、確かめもせずに言うのはどう考えても失礼ではないか。
本当に私に興味があるならちょっと誰かに聞けば誰と一緒にお昼を食べていたかぐらいわかるはずだ。
それとも自分がエルマといい仲になっているから私のことも怪しく思えるということなのだろうか。
いずれにせよ私からすれば気に食わない理由だ。
きちんと謝るのであれば考えても良かったが、そのような態度ではかえって私の苛立ちは深まるばかりだ。
「どうだろう。自分で考えてみたら?」
結局私は我慢できなくなり、そう言ってクリフの元を逃げるように去っていくのだった。
さて、クリフの元を離れたものの放課後特に他の予定がある訳でもない。家に帰ってもいいが、今の苛々とした気持ちのまま帰るのは何となく嫌だった。
何かいい気晴らしはないかと思って歩いていると、今日は校庭でサッカーの試合があるらしく、男子たちが集まっている。
そう言えばクリフは時々カーティスとサッカーをしていると言っていた(今となっては本当にしていたかは怪しいが)が、見にいったことはなかった。せっかく時間が出来たことだし、一度くらいは見てみてもいいかもしれない。
そう思って私は校庭に歩いていく。
サッカーコートの側にはすでに応援や見学の生徒が集まる席が出来ており、出場者の友達や恋人などが集まっていた。私のように何となく観戦に来た人は少数派だろう。しかも他の観戦者は上級生ばかりで知り合いも見当たらない。
私が隅の方で小さくなっていると、選手の一人がこちらを向いて片手をあげる。誰かと思ったらカーティスだった。
カーティスはクリフの友人でもあり、私に彼の裏切りを伝えてくれた人でもある。
「リアナが見にきてくれるなんて珍しいね」
「うん、ちょっと気晴らしに」
私が言葉少なに言うと、カーティスは私の事情を察したのか複雑な表情を見せる。
きっと教室のど真ん中で啖呵を切ったからクラス中、もしかすると他のクラスまで知れ渡っているのかもしれない。
「そうか、なかなか大変そうだね。少しでも気分が変わるように僕も頑張るよ」
そう言って彼はコートに戻っていくのだった。
それから少しして試合が始まる。
全然知らなかったが、この学園の運動をやる男子生徒は二つの組に分かれていて、片方の組に所属する生徒たちは学年を問わず同じチームになるらしい。そのため、カーティスが所属するチームも当然上級生が主戦力になるはずだったが、カーティスは二年生から唯一レギュラーに選ばれていた。
他の上級生は誰も知り合いがいないので、私は自然とカーティスばかりを目で追うようになる。
上級生の方が体格が大きく、チームでも中心的なポジションについているが、カーティスは相手の上級生たちの間を縫うように走り回り、相手のパスをカットし、味方にパスを出す。
そしてカーティスからパスを受けた上級生が相手のゴールにボールを蹴り入れ、周囲から喚声が上がる。
カーティスの活躍はあまり派手なものではなかったし、そもそも私はサッカーは基本的なルールぐらいしか知らなかったが、それでも彼がチームプレイを全うしていることを理解した。
気が付くと私は彼がボールをとるたびに手に汗を握り、うまくパスをつなげられれば喚声をあげ、ボールを相手にとられればがっかりしていたのだった。
そして試合は3-1でカーティスのチームが勝利した。
私と一緒に試合を見ていた上級生たちが上級生の生徒たちを祝福しに行く中、私はカーティスの元に向かう。
「おめでとう!」
「ありがとう、せっかく見にきてくれたのに地味な活躍しか出来なくて悪いね」
「ううん、周りが上級生ばかりの中凄く頑張っていたと思う」
「いい気晴らしになったかな?」
「うん、サッカーは初めてだったけど楽しかった」
「それは良かった」
カーティスは純粋に私が試合を楽しんでくれたことを喜んでくれたようだ。
そして私は少しだけ満ち足りた気分で家に帰ることが出来たのだった。
放課後、最後の授業が終わるなり、なれなれしくクリフが話しかけてくる。
私の決意が固いと見てとったのか、今日は少し私に媚びるような雰囲気が感じられた。
とはいえ、一緒に勉強と言っても私が一方的に勉強を教えるだけ。クリフからそれを頼んでくるのであればまだ分かるが、なぜか勉強を教えるのがクリフから私への償いのようになっているのはよく分からない。
そのことに気づくと余計に苛々したのでつい私も態度を硬くしてしまう。
「私も別に毎日暇って訳じゃないけど」
「そ、そうだったのか!?」
クリフは驚くが、その驚き方も失礼ではないか。
やはり彼は私が怒ったから何となく謝っているだけのように思えてしまう。
「なあ、それはもしかして昼休みに一緒に食べた男との予定なのか?」
「……」
クリフの口から続いた言葉に私は閉口する。
元々それを匂わすようなことを言った私も悪いが、クリフのために勉強を教えたりご飯を作ったりした私がすでに浮気しているかのようなことを、確かめもせずに言うのはどう考えても失礼ではないか。
本当に私に興味があるならちょっと誰かに聞けば誰と一緒にお昼を食べていたかぐらいわかるはずだ。
それとも自分がエルマといい仲になっているから私のことも怪しく思えるということなのだろうか。
いずれにせよ私からすれば気に食わない理由だ。
きちんと謝るのであれば考えても良かったが、そのような態度ではかえって私の苛立ちは深まるばかりだ。
「どうだろう。自分で考えてみたら?」
結局私は我慢できなくなり、そう言ってクリフの元を逃げるように去っていくのだった。
さて、クリフの元を離れたものの放課後特に他の予定がある訳でもない。家に帰ってもいいが、今の苛々とした気持ちのまま帰るのは何となく嫌だった。
何かいい気晴らしはないかと思って歩いていると、今日は校庭でサッカーの試合があるらしく、男子たちが集まっている。
そう言えばクリフは時々カーティスとサッカーをしていると言っていた(今となっては本当にしていたかは怪しいが)が、見にいったことはなかった。せっかく時間が出来たことだし、一度くらいは見てみてもいいかもしれない。
そう思って私は校庭に歩いていく。
サッカーコートの側にはすでに応援や見学の生徒が集まる席が出来ており、出場者の友達や恋人などが集まっていた。私のように何となく観戦に来た人は少数派だろう。しかも他の観戦者は上級生ばかりで知り合いも見当たらない。
私が隅の方で小さくなっていると、選手の一人がこちらを向いて片手をあげる。誰かと思ったらカーティスだった。
カーティスはクリフの友人でもあり、私に彼の裏切りを伝えてくれた人でもある。
「リアナが見にきてくれるなんて珍しいね」
「うん、ちょっと気晴らしに」
私が言葉少なに言うと、カーティスは私の事情を察したのか複雑な表情を見せる。
きっと教室のど真ん中で啖呵を切ったからクラス中、もしかすると他のクラスまで知れ渡っているのかもしれない。
「そうか、なかなか大変そうだね。少しでも気分が変わるように僕も頑張るよ」
そう言って彼はコートに戻っていくのだった。
それから少しして試合が始まる。
全然知らなかったが、この学園の運動をやる男子生徒は二つの組に分かれていて、片方の組に所属する生徒たちは学年を問わず同じチームになるらしい。そのため、カーティスが所属するチームも当然上級生が主戦力になるはずだったが、カーティスは二年生から唯一レギュラーに選ばれていた。
他の上級生は誰も知り合いがいないので、私は自然とカーティスばかりを目で追うようになる。
上級生の方が体格が大きく、チームでも中心的なポジションについているが、カーティスは相手の上級生たちの間を縫うように走り回り、相手のパスをカットし、味方にパスを出す。
そしてカーティスからパスを受けた上級生が相手のゴールにボールを蹴り入れ、周囲から喚声が上がる。
カーティスの活躍はあまり派手なものではなかったし、そもそも私はサッカーは基本的なルールぐらいしか知らなかったが、それでも彼がチームプレイを全うしていることを理解した。
気が付くと私は彼がボールをとるたびに手に汗を握り、うまくパスをつなげられれば喚声をあげ、ボールを相手にとられればがっかりしていたのだった。
そして試合は3-1でカーティスのチームが勝利した。
私と一緒に試合を見ていた上級生たちが上級生の生徒たちを祝福しに行く中、私はカーティスの元に向かう。
「おめでとう!」
「ありがとう、せっかく見にきてくれたのに地味な活躍しか出来なくて悪いね」
「ううん、周りが上級生ばかりの中凄く頑張っていたと思う」
「いい気晴らしになったかな?」
「うん、サッカーは初めてだったけど楽しかった」
「それは良かった」
カーティスは純粋に私が試合を楽しんでくれたことを喜んでくれたようだ。
そして私は少しだけ満ち足りた気分で家に帰ることが出来たのだった。
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