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Ⅰ
浮気
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翌日、私は暗い気持ちで学園に向かった。
どれだけ考えないようにしてもクリフが浮気しているのではないかという疑念を振り払うことが出来ない。そのせいで昨晩もなかなか寝付けなかった。
教室に入ると、私の隣の席にいたクリフは屈託のない笑顔を向けてくる。
「おはようリアナ」
「お、おはよう」
「元気ないね。試験前だからって根を詰めすぎなんじゃないか? リアナは真面目過ぎるから気を付けた方がいい」
「そ、そうだね」
クリフのそんな何気ない気持ちにも「あなたのせいでしょ」とか「あなたはもっと根を詰めろ」と思ってしまい、しかもそんなふうにクリフを悪く思う自分が嫌になってくる。クリフは昔からこういうところがある人だったというのに。きっとクリフが浮気しているかもしれないと思うから何気ない言葉にもいちいち苛立ってしまうのだろう。
が、クリフはそれだけ言うと、トイレか何かで去っていってしまった。
そして彼と入れ替わりに私のクラスメイトであるイヴが心配そうな表情でこちらに歩いて来る。イヴは気さくな性格で、どちらかというと引っ込み思案な私と違ってどんな相手にも臆せず話すことが出来る。ポニーテールにしたライトブラウンの髪がトレードマークで、しばしばクラスの中心にいる。
学園にいる間は私はクリフと一緒にいることが多かったが、そうじゃないときは仲良くしてくれたし、私がクリフを優先して彼女の誘いを断っても「ラブラブだね」などと茶化しながらも見送ってくれた。クリフに相談出来ないようなことは彼女に相談に乗ってもらったこともある。
だが、今日のイヴはいつになく険しい表情をしていた。
いつも明るい彼女が教室でこんな顔をしているのは珍しい。
「クリフのことだけど、気づいているの?」
「気づいているって……何が?」
「昨日クリフはエルマと一緒に勉強会していたけど」
「……」
一昨日は私が用事があったから勉強会が出来ないのは仕方がなかったが、昨日はクリフの方から勉強会を辞退してきた。
それでクリフがエルマと勉強会をしたとなればもはや状況は確定的だった。
それでも私の中にはそれを認めきれない自分がいた。
「……見間違えじゃない?」
「そんな訳ないよ! クリフは同じクラスだし、エルマも学年では有名人だから、間違える訳ないわ!」
イヴは強い口調で反論する。
でも私にはあのクリフが私ではなくエルマと勉強会をしていたという事実がどうしても飲み込めなかった。
いや、飲み込めなかったというよりはただその事実を受け入れたくなかったというだけだろう。
初めて会ったときから今までクリフは彼なりの明るさでいつも私を助けてくれたし、私も彼の隣にいると落ち込むことがあっても元気になれた。
もっとも、彼が原因で落ち込むことになろうとは思わなかったけど。
でも、そんな彼が浮気だなんて、絶対にありえない…………はずだった。
「でも、クリフがそんなことするなんてありえない! きっと何か事情があるに違いないわ」
「事情なんてない! リアナがクリフにどう対応するかはリアナに任せる! クリフがどう思っているのかも分からないけど、傍から見たら浮気としか思えないことは事実だから!」
私が煮え切らない反応のせいか、イヴはさらに強い口調で言った。
が、それでも私が微妙な表情をしているのを見て大きなため息をつく。
「分かった。こんなこと話しても仕方ないと思っていたから黙っていようと思っていたけど、昨日のクリフとエルマの様子を話してあげる」
そう言ってイヴは昨日の放課後のことについて語り始めた。
どれだけ考えないようにしてもクリフが浮気しているのではないかという疑念を振り払うことが出来ない。そのせいで昨晩もなかなか寝付けなかった。
教室に入ると、私の隣の席にいたクリフは屈託のない笑顔を向けてくる。
「おはようリアナ」
「お、おはよう」
「元気ないね。試験前だからって根を詰めすぎなんじゃないか? リアナは真面目過ぎるから気を付けた方がいい」
「そ、そうだね」
クリフのそんな何気ない気持ちにも「あなたのせいでしょ」とか「あなたはもっと根を詰めろ」と思ってしまい、しかもそんなふうにクリフを悪く思う自分が嫌になってくる。クリフは昔からこういうところがある人だったというのに。きっとクリフが浮気しているかもしれないと思うから何気ない言葉にもいちいち苛立ってしまうのだろう。
が、クリフはそれだけ言うと、トイレか何かで去っていってしまった。
そして彼と入れ替わりに私のクラスメイトであるイヴが心配そうな表情でこちらに歩いて来る。イヴは気さくな性格で、どちらかというと引っ込み思案な私と違ってどんな相手にも臆せず話すことが出来る。ポニーテールにしたライトブラウンの髪がトレードマークで、しばしばクラスの中心にいる。
学園にいる間は私はクリフと一緒にいることが多かったが、そうじゃないときは仲良くしてくれたし、私がクリフを優先して彼女の誘いを断っても「ラブラブだね」などと茶化しながらも見送ってくれた。クリフに相談出来ないようなことは彼女に相談に乗ってもらったこともある。
だが、今日のイヴはいつになく険しい表情をしていた。
いつも明るい彼女が教室でこんな顔をしているのは珍しい。
「クリフのことだけど、気づいているの?」
「気づいているって……何が?」
「昨日クリフはエルマと一緒に勉強会していたけど」
「……」
一昨日は私が用事があったから勉強会が出来ないのは仕方がなかったが、昨日はクリフの方から勉強会を辞退してきた。
それでクリフがエルマと勉強会をしたとなればもはや状況は確定的だった。
それでも私の中にはそれを認めきれない自分がいた。
「……見間違えじゃない?」
「そんな訳ないよ! クリフは同じクラスだし、エルマも学年では有名人だから、間違える訳ないわ!」
イヴは強い口調で反論する。
でも私にはあのクリフが私ではなくエルマと勉強会をしていたという事実がどうしても飲み込めなかった。
いや、飲み込めなかったというよりはただその事実を受け入れたくなかったというだけだろう。
初めて会ったときから今までクリフは彼なりの明るさでいつも私を助けてくれたし、私も彼の隣にいると落ち込むことがあっても元気になれた。
もっとも、彼が原因で落ち込むことになろうとは思わなかったけど。
でも、そんな彼が浮気だなんて、絶対にありえない…………はずだった。
「でも、クリフがそんなことするなんてありえない! きっと何か事情があるに違いないわ」
「事情なんてない! リアナがクリフにどう対応するかはリアナに任せる! クリフがどう思っているのかも分からないけど、傍から見たら浮気としか思えないことは事実だから!」
私が煮え切らない反応のせいか、イヴはさらに強い口調で言った。
が、それでも私が微妙な表情をしているのを見て大きなため息をつく。
「分かった。こんなこと話しても仕方ないと思っていたから黙っていようと思っていたけど、昨日のクリフとエルマの様子を話してあげる」
そう言ってイヴは昨日の放課後のことについて語り始めた。
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