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Ⅰ
決心
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「……という感じでエルマは絶対に下心があってクリフに近づいていたと思う!」
イヴはまるで自分の婚約者が浮気していたかのように鼻息荒く言う。
それを聞いて私は最初彼女の話を見間違えか何かと思った。思った、というよりは思おうとした、という方が正しいだろうか。もしくはイヴがそういう風に見ているからそう見えるのではないかとも思おうとした。
しかしこれまでのクリフの反応から考えるとイヴの話はむしろありえそうに思えてくる。それに元々、薄々ではあるが彼が私に隠れてエルマと仲良くしているのではないかと私も思ってはいた。
「そ、それで、クリフの反応はどうだったの?」
私は一縷の望みをこめてイヴに尋ねる。
エルマが下心があったとしてもクリフはお人よしだから勉強を教えようと思っただけかもしれない。
「確かにクリフが本当にエルマを恋愛対象として見ているのかは遠くから見ただけではよく分からなかった。もしかしたら彼はただエルマに勉強を教えて承認欲求を満たそうと思っているだけかもしれない」
「良かった……」
それならぎりぎり浮気ではないかもしれない、と思ってしまう。
が、そんな私にイヴは厳しい表情で告げた。
「何言ってるの!? もし罪の意識なしであんなことをしているんだとしたらそれはそれで問題だと思わないの!? だって婚約者であるリアナに嘘をついて他の女と二人で会ってるんだよ?」
「確かに……」
イヴの言葉に私は再び落ち込んでしまう。
「しかもエルマは頻繁にクリフに接触してるのに、注意もしないんだよ!?」
「そ、それは……」
私は何も言い返すことが出来ずに黙り込んでしまう。
「もしかしてクリフとエルマの話かい?」
そこへやってきたのはクリフの男友達であるカーティスだった。クリフと同じように彼も運動神経がよく、男子の中心的な人物であったが、クリフと違って成績もよく、どちらかというと優等生的な人物だった。
また気遣いも出来る性格であるため、クリフと女子の人気を二分していると言われている。もっとも私はクリフがいたから彼をそういう目で見たことはなかったが。
「そうだけど……」
「クリフのことで言えば僕も少し気になっていたことがあったんだ。前にクリフが僕とスポーツの試合をすると言っていた日があっただろう?」
「う、うん」
確か私がカフェに誘ったけど試合があるからと言って断られてしまった日だった。
私は嫌な予感を覚えつつカーティスの話を聞く。
「あの日、確かに僕は試合をしたけどクリフは最初からメンバーに入っていなかったんだ。当然試合には出ていなかったし、観戦していた訳でもない。何をしていたかまでは分からないけど、今の話を聞く限りそうなんだろうな」
「そんな……」
イヴの言葉だけでも絶望的だったのに、カーティスまでそう言うということは、本当にクリフは私よりもエルマの方が大事なのだろう。
私はさらに肩を落とす。
「なあ、クラスメイトという間柄でしかない僕が言うのも変な話だが、一度クリフに強く言った方がいいんじゃないか?」
「私もそう思う。多分クリフ、そこまで悪意なくやっていると思う」
カーティスの言葉にイヴも同意する。
カーティスはクリフの友人として私とクリフの関係を真剣に案じているし、イヴも私のことを心配してくれている。だからこそ私も辛かった。
脳裏には幼いころ自分を助けてくれた格好いいクリフの姿が浮かぶ。
それを思うと胸が痛くなったが、所詮それは私からクリフへの一方通行の思いということだろう。
とはいえ実際問題何が出来るだろうか。
二人の証言があればクリフを「私よりもエルマを優先していた!」と追及することは可能だ。
とはいえその後に私がクリフにエルマと会うことの問題を説明したとしても、かえって煩わしく思われてクリフの気持ちが私に戻ってくるとは思えない。最近のクリフは私が積極的にアプローチしても反応が冷たいし、そのまま離れていってしまうかもしれない。
別に私はクリフをなじりたい訳ではない。
それならば逆にクリフが私にしているように冷たい対応を彼にとればいいのではないか。もしクリフに私への愛情が残っているならばそれで分かるのではないか。
私はそう決意した。
「ありがとう、二人とも。しばらく私、クリフに対して冷たい態度をとってみる」
「それがいいと思う。協力するね」
「僕もクリフにそれとなく言ってみるよ。彼、何だかんだリアナがいないと色々困るだろうしすぐにまずいことをしたって気づくんじゃないかな」
イヴとカーティスがそう言ってくれて私は元気を得た。
これまでずっと思い続けてきたクリフに冷たい態度をとるというのは勇気がいるが、彼に自分のしたことを自覚させるならこれしかない。
イヴはまるで自分の婚約者が浮気していたかのように鼻息荒く言う。
それを聞いて私は最初彼女の話を見間違えか何かと思った。思った、というよりは思おうとした、という方が正しいだろうか。もしくはイヴがそういう風に見ているからそう見えるのではないかとも思おうとした。
しかしこれまでのクリフの反応から考えるとイヴの話はむしろありえそうに思えてくる。それに元々、薄々ではあるが彼が私に隠れてエルマと仲良くしているのではないかと私も思ってはいた。
「そ、それで、クリフの反応はどうだったの?」
私は一縷の望みをこめてイヴに尋ねる。
エルマが下心があったとしてもクリフはお人よしだから勉強を教えようと思っただけかもしれない。
「確かにクリフが本当にエルマを恋愛対象として見ているのかは遠くから見ただけではよく分からなかった。もしかしたら彼はただエルマに勉強を教えて承認欲求を満たそうと思っているだけかもしれない」
「良かった……」
それならぎりぎり浮気ではないかもしれない、と思ってしまう。
が、そんな私にイヴは厳しい表情で告げた。
「何言ってるの!? もし罪の意識なしであんなことをしているんだとしたらそれはそれで問題だと思わないの!? だって婚約者であるリアナに嘘をついて他の女と二人で会ってるんだよ?」
「確かに……」
イヴの言葉に私は再び落ち込んでしまう。
「しかもエルマは頻繁にクリフに接触してるのに、注意もしないんだよ!?」
「そ、それは……」
私は何も言い返すことが出来ずに黙り込んでしまう。
「もしかしてクリフとエルマの話かい?」
そこへやってきたのはクリフの男友達であるカーティスだった。クリフと同じように彼も運動神経がよく、男子の中心的な人物であったが、クリフと違って成績もよく、どちらかというと優等生的な人物だった。
また気遣いも出来る性格であるため、クリフと女子の人気を二分していると言われている。もっとも私はクリフがいたから彼をそういう目で見たことはなかったが。
「そうだけど……」
「クリフのことで言えば僕も少し気になっていたことがあったんだ。前にクリフが僕とスポーツの試合をすると言っていた日があっただろう?」
「う、うん」
確か私がカフェに誘ったけど試合があるからと言って断られてしまった日だった。
私は嫌な予感を覚えつつカーティスの話を聞く。
「あの日、確かに僕は試合をしたけどクリフは最初からメンバーに入っていなかったんだ。当然試合には出ていなかったし、観戦していた訳でもない。何をしていたかまでは分からないけど、今の話を聞く限りそうなんだろうな」
「そんな……」
イヴの言葉だけでも絶望的だったのに、カーティスまでそう言うということは、本当にクリフは私よりもエルマの方が大事なのだろう。
私はさらに肩を落とす。
「なあ、クラスメイトという間柄でしかない僕が言うのも変な話だが、一度クリフに強く言った方がいいんじゃないか?」
「私もそう思う。多分クリフ、そこまで悪意なくやっていると思う」
カーティスの言葉にイヴも同意する。
カーティスはクリフの友人として私とクリフの関係を真剣に案じているし、イヴも私のことを心配してくれている。だからこそ私も辛かった。
脳裏には幼いころ自分を助けてくれた格好いいクリフの姿が浮かぶ。
それを思うと胸が痛くなったが、所詮それは私からクリフへの一方通行の思いということだろう。
とはいえ実際問題何が出来るだろうか。
二人の証言があればクリフを「私よりもエルマを優先していた!」と追及することは可能だ。
とはいえその後に私がクリフにエルマと会うことの問題を説明したとしても、かえって煩わしく思われてクリフの気持ちが私に戻ってくるとは思えない。最近のクリフは私が積極的にアプローチしても反応が冷たいし、そのまま離れていってしまうかもしれない。
別に私はクリフをなじりたい訳ではない。
それならば逆にクリフが私にしているように冷たい対応を彼にとればいいのではないか。もしクリフに私への愛情が残っているならばそれで分かるのではないか。
私はそう決意した。
「ありがとう、二人とも。しばらく私、クリフに対して冷たい態度をとってみる」
「それがいいと思う。協力するね」
「僕もクリフにそれとなく言ってみるよ。彼、何だかんだリアナがいないと色々困るだろうしすぐにまずいことをしたって気づくんじゃないかな」
イヴとカーティスがそう言ってくれて私は元気を得た。
これまでずっと思い続けてきたクリフに冷たい態度をとるというのは勇気がいるが、彼に自分のしたことを自覚させるならこれしかない。
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