浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
6 / 65

不穏

しおりを挟む
 翌日の授業が終わり、今日もクリフと勉強をしなければと思ったところで私はふと思い出す。そう言えば今日は祖父の一周忌の法事があるから帰らなければならないのだった。

 私は申し訳ない気持ちになりながらクリフの席に向かう。直前まで予定を忘れているなんて普段はあまりないけど、試験が近づいていてしかもクリフの成績が結構やばくて焦ってしまったのがいけなかったのかもしれない。

 昨日もクリフに教えるために自分の復習もしていたら、いつの間にか夜遅くなってしまっていた。

「ごめんクリフ、そう言えば今日法事があるから勉強教えられないんだった。本当にごめん」
「いや、別にいいよ、気にするな」

 が、私の申し訳なさに反してクリフの反応はあっさりしたものだった。
 もちろん悪いのは私だしそれを気にするなと言ってもらってこちらから不満に思うのはおかしいのだが、それにしてもあっさりすぎやしないだろうか。

 大体、勉強は大丈夫なのだろうか。
 私が見る限り全く大丈夫ではないけど。

「本当にごめん。勉強大丈夫?」

 が、クリフはあっけらかんとした笑顔で言う。

「俺も昨日結構頑張って疲れちゃってたから、今日も休みでちょうど良かったし」

 それを聞いて私は困惑した。
 昨日の感じだとクリフの成績はかなりまずいし、私としてはそれを結構指摘したつもりなのにまるで伝わっていない。

「いや、クリフの成績だと今日も家でやった方がいいと思うけど」
「ええ……」

 私の言葉にクリフは露骨に嫌そうな表情を見せる。
 不安にはなるが、私にはどうすることも出来ない。ドタキャンしてしまった罪悪感もあってそれ以上強く言えずに帰り支度を始める。

 が、そこへ隣のクラスからエルマが歩いて来るのが見えた。
 最近エルマとクリフは仲がいい……気がする。単に同じ学園に通っているから話す、というのを上回る頻度で話しているように感じる。
 そしてそれを見るといつも私は胸騒ぎがしてしまう。

 そして今日もエマはクリフに話しかけた。

「ねえクリフ、そろそろ試験も近いし一緒に勉強しない?」
「いや、でも俺勉強苦手だしな」

 そう言ってクリフはちらちらと私を見る。
 が、それでもエルマは引き下がらない。

「そんなことないわ。クリフ頭いいから私教えて欲しいなあ」

 そう言ってエルマは媚びるような上目遣いで彼を見つめる。エルマは本気でそう思っているのだろうか。私はそんな二人を見ていて嫌な気持ちになってきたので、逃げるように帰り支度を終わらせてその場を離れる。

 去り際、クリフが「そこまで言うなら仕方ないな」と言うのが聞こえてきたような気がした。



 翌日の放課後。
 私は勉強会を一日空けてしまったことを申し訳なく思いながらもクリフに誘いかける。

「昨日は急な用事でごめん、今日は大丈夫だからカフェテリア行こうか」

 が、私の言葉にクリフは微妙な顔をする。

「その件なんだけど、やっぱいいや」
「え?」

 私はクリフの言葉に耳を疑う。
 元々頼んできたのはクリフだというのに。

 すると彼は私と目を合わさずに答える。

「ほら、何というか俺とリアナじゃ全然勉強のレベル違うし? それなのにずっと教えてもらうんだとほら、何というかリアナには悪いっていうか」

 彼の言葉は歯切れが悪いし、クリフの目は泳いでいる。

「いや、そんなの気にしている場合じゃないでしょ? 大体私が教えなかったらクリフはどうするの!?」
「まあそこは何とかするよ」

 そもそも自分で何とか出来るのならばこんなことにはなっていない。

 私は嫌な予感がした。いや、予感を通り越してすでに心の奥底では何が起こっているのかを理解していたのだろう。

 それでも私はその事実を認めたくはなかった。だから懸命に見ない振りをしていただけかもしれない。

「そう……じゃあ……頑張ってね」

 私は現実逃避するように教室を後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...