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Ⅰ
昼食
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「一緒にお昼食べよう」
「ああ、いいよ」
四限の授業が終わった後、私はいつものようにクリフを昼食に誘う。私たちは用があるとき以外は教室かカフェテリアで家から持たされたお弁当を食べることが多かった。
その日も私たちはカフェテリアにお弁当を持っていって広げる。カフェテリアでもお昼を買うことが出来るが、私やクリフの場合、家から持たされるお弁当の方が大概豪華なことが多い。
今日もクリフのお弁当は色とりどりの具材を挟んだサンドウィッチがぎっしり詰まっていた。彼はスポーツが得意な少年らしく、とにかくたくさん食べる。
そのため、いつも大きな弁当箱を持たされている。
サンドウィッチに挟んである具材は高級なローストビーフから卵サラダ、魚のマリネなど多岐に渡り、多分全てのサンドウィッチの具材が全部違っていた。
「相変わらずクリフのお弁当はすごいね」
「そうか? 確かにすごいけどいつも同じだから飽きてきたな」
確かにお弁当にしてもおいしいメニューというのは限られているから、メニューはどうしても似たりよったりになってしまう。
家で作ってからお昼に食べるとどうしても冷めてしまう。
だから家がお金持ちでもカフェテリアで出来立ての昼食を食べたいという生徒も多いらしい。
「そう? クリフのお弁当いつもおいしそうだけど」
「まあそれはそうなんだけど、どんなにおいしいものでも毎日食べていると飽きないか?」
確かにクリフの言うことも分からなくもない。それでもクリフのお弁当は同じサンドウィッチでもちゃんと全部具材を変えるなど、飽きさせないようにかなり手間がかかっている方だとは思うが。
「私はクリフのお弁当食べてみたいけどな」
交換してあげようか、と言おうかとも思ったが今日の私のお弁当はクリフが嫌いな香草で焼いた魚が入っているからそれも出来ない。
そこで私はいいことを思いつく。
「そうだ、明日私がクリフのお昼ご飯作ってくるから、クリフのお弁当と交換しようよ」
「いいのか?」
私の言葉にクリフは表情を輝かせる。
「うん、もちろん」
「いやあ、いつもと違うものが食べられるなんて楽しみだな」
私の提案にクリフは急に上機嫌になったのだった。
それからその日はずっとクリフのためにどんなものを作るかを考えた。
クリフは普段お弁当に入っているようなものは飽きたと言っていたが、お弁当に適したメニューは大体出尽くしている。お弁当で見ないようなものは冷めたり時間が経ったりするとおいしくなさそうなものばかりだ。
しかも彼は飽きたと言ってはいるが、彼の弁当はいつもすごい手が込んでいる。
あれに慣れているクリフにおいしいと思ってもらえるにはよほどの工夫をこらさなければ。
何かいい案はないものか、と思いながら私は自分の屋敷に戻ってくる。家に入るとメイドが頭を下げて出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま」
彼女はうちで主に料理をしてくれているメイドだ。
そこで私は彼女に相談してみることにする。料理のことなら自分で考えるよりもメイドに訊いた方が早いだろう。
「あの、相談なんだけど、クリフにお弁当を作ってあげたいんだけど、普段お弁当にしないもので何かいいメニューないかな?」
「そうですね……それでしたら実は今日保温石が手に入ったのです」
「本当!?」
保温石というのは炎魔法を応用して作られる魔道具で、その名の通り保温に用いられる。それを使えば普段は冷めてしまうとおいしくなくなるメニューも作ることが出来る。
魔道具は作るのにかなりの技術が必要になるため、稀少性が高くあまり流通しておらず、値段も高い。おそらくクリフの家にもないのではないか。
「明日はそれを借りてもいい?」
「もちろんでございます」
保温石が使えるなら冷めることはなくなるから作れるメニューの幅も広がる。
クリフも普段お弁当にしないような料理を作っていけば喜んでくれるだろう。
私はうきうきした気分で料理の本をめくり始めるのだった。
「ああ、いいよ」
四限の授業が終わった後、私はいつものようにクリフを昼食に誘う。私たちは用があるとき以外は教室かカフェテリアで家から持たされたお弁当を食べることが多かった。
その日も私たちはカフェテリアにお弁当を持っていって広げる。カフェテリアでもお昼を買うことが出来るが、私やクリフの場合、家から持たされるお弁当の方が大概豪華なことが多い。
今日もクリフのお弁当は色とりどりの具材を挟んだサンドウィッチがぎっしり詰まっていた。彼はスポーツが得意な少年らしく、とにかくたくさん食べる。
そのため、いつも大きな弁当箱を持たされている。
サンドウィッチに挟んである具材は高級なローストビーフから卵サラダ、魚のマリネなど多岐に渡り、多分全てのサンドウィッチの具材が全部違っていた。
「相変わらずクリフのお弁当はすごいね」
「そうか? 確かにすごいけどいつも同じだから飽きてきたな」
確かにお弁当にしてもおいしいメニューというのは限られているから、メニューはどうしても似たりよったりになってしまう。
家で作ってからお昼に食べるとどうしても冷めてしまう。
だから家がお金持ちでもカフェテリアで出来立ての昼食を食べたいという生徒も多いらしい。
「そう? クリフのお弁当いつもおいしそうだけど」
「まあそれはそうなんだけど、どんなにおいしいものでも毎日食べていると飽きないか?」
確かにクリフの言うことも分からなくもない。それでもクリフのお弁当は同じサンドウィッチでもちゃんと全部具材を変えるなど、飽きさせないようにかなり手間がかかっている方だとは思うが。
「私はクリフのお弁当食べてみたいけどな」
交換してあげようか、と言おうかとも思ったが今日の私のお弁当はクリフが嫌いな香草で焼いた魚が入っているからそれも出来ない。
そこで私はいいことを思いつく。
「そうだ、明日私がクリフのお昼ご飯作ってくるから、クリフのお弁当と交換しようよ」
「いいのか?」
私の言葉にクリフは表情を輝かせる。
「うん、もちろん」
「いやあ、いつもと違うものが食べられるなんて楽しみだな」
私の提案にクリフは急に上機嫌になったのだった。
それからその日はずっとクリフのためにどんなものを作るかを考えた。
クリフは普段お弁当に入っているようなものは飽きたと言っていたが、お弁当に適したメニューは大体出尽くしている。お弁当で見ないようなものは冷めたり時間が経ったりするとおいしくなさそうなものばかりだ。
しかも彼は飽きたと言ってはいるが、彼の弁当はいつもすごい手が込んでいる。
あれに慣れているクリフにおいしいと思ってもらえるにはよほどの工夫をこらさなければ。
何かいい案はないものか、と思いながら私は自分の屋敷に戻ってくる。家に入るとメイドが頭を下げて出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま」
彼女はうちで主に料理をしてくれているメイドだ。
そこで私は彼女に相談してみることにする。料理のことなら自分で考えるよりもメイドに訊いた方が早いだろう。
「あの、相談なんだけど、クリフにお弁当を作ってあげたいんだけど、普段お弁当にしないもので何かいいメニューないかな?」
「そうですね……それでしたら実は今日保温石が手に入ったのです」
「本当!?」
保温石というのは炎魔法を応用して作られる魔道具で、その名の通り保温に用いられる。それを使えば普段は冷めてしまうとおいしくなくなるメニューも作ることが出来る。
魔道具は作るのにかなりの技術が必要になるため、稀少性が高くあまり流通しておらず、値段も高い。おそらくクリフの家にもないのではないか。
「明日はそれを借りてもいい?」
「もちろんでございます」
保温石が使えるなら冷めることはなくなるから作れるメニューの幅も広がる。
クリフも普段お弁当にしないような料理を作っていけば喜んでくれるだろう。
私はうきうきした気分で料理の本をめくり始めるのだった。
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