浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃

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リアナとクリフ

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「……それでは今日の授業はここまで。今日の宿題は問題集の55ページから57ページを埋めてくることだ」

 そう言って先生が教室を出ていくと、教室の中の生徒たちは皆解放されたようにしゃべり始める。
 私リアナ・エイミスも他の生徒と同様に隣を向いて婚約者でもあるクリフに話しかけた。

「ようやく授業が終わったね」
「ああ、退屈過ぎて最後少し寝てしまっていたよ」

 そう言ってクリフは頭をかく。古典の授業は眠くなるためつい授業中に寝てしまう者も多い。ここスターリッジ王国の貴族の子女だけが集まる学園でもそれは例外ではなかった。

 そう、私リアナは実はエイミス公爵家という王国有数の貴族家の娘である。隣の席に座るクリフもこんなことを言っているが、彼もアンドリュー公爵家という、うちと同じぐらいの名家の跡継ぎなのだ。

 私たちは年も家格も近いため、学園に入る前から家同士の政略結婚により婚約させられていた。もっとも私たちは幼いころから一緒に遊ぶ仲だったため、あまり政略結婚という意識はなかったけど。むしろ彼が相手で安心したぐらいだ。

 幼いころには私が他家の年上のお嬢様方に絡まれていたのをクリフに助けてもらったことがあるし、最近はクリフが運動神経の良さを生かして体育の授業や放課後に男子たちがやっている球技では大活躍をしている姿が格好いい。私は気づくと彼に惹かれていた。

 婚約者のクリフの他にも学園で女友達も出来るなど人間関係も良好で、勉強も二年生になった今のところ好成績を維持出来ている。
 家に帰れば平穏な家庭が待っている。
 そんな訳で私は現状にとても満足していた。

「大丈夫? 今日宿題出てたけど」
「本当か!? どうしよう、今日全然聞いてなかったら多分分からないだろうな」

 私が何気なく尋ねると、クリフが急に慌て始める。
 彼は運動が出来るのと引き換えに、座学だといつもこんな調子だった。もっとも、私は逆に運動神経がからっきしだから気持ちは分かるけど。

「そっか、それなら明日私が見せようか?」
「本当か!? いやあリアナ、いつも済まないな」

 私の言葉にクリフはぱっと表情を輝かせる。
 それを見て私は若干呆れながらも言う。

「ううん、クリフのためだから大丈夫。私は勉強得意だし」
「いやあ、本当にいつも助かるよ」
「気にしないで。それより今日の放課後なんだけど、学園の近くに新しく出来たカフェがあるから一緒に行かない?」

 そう、私が話しかけた目的はそれだった。宿題を見せようと言ったのも、宿題が気になって彼が私とのデートに集中出来なくなったら嫌だったからだ。

 だが、なぜか彼は私の誘いに微妙な表情を見せる。
 そして少し間隔を空けて言う。

「済まないが、今日はカーティスたちにサッカーの試合に誘われているんだ」
「そっか。試合だったら仕方ないね」

 女友達から新しくカフェが開いたと聞いて以来ずっとクリフと行くのを楽しみにしていたけど、試合なら仕方ない。無理を言えば他のメンバーにも迷惑がかかってしまうだろう。
 何より、コートを駆けている時のクリフは輝いていた。

「どうしよう、それなら応援に行こうかな」
「あ、ああ、いや、別にそこまでしてくれなくていいよ。ほら、リアナだって忙しいだろう?」

 私の言葉になぜか慌て始めるクリフ。一体どうしたのだろうか。
 私はクリフとカフェに行くつもりだったので特に予定はない。

「いや、別に忙しくないけど……」
「ほら、今日宿題多いだろ? そ、それに今日は隣のクラスの奴らが相手だけどほら、俺とカーティスに比べれば大したことないからきっと大したことない試合だよ」

 確かに、クリフや彼の男友達のカーティスは他の同年代の男子と比べても運動神経が突出している。だったら一方的な試合になってしまうかもしれない。
 クリフとしてもそんな試合を応援されても嬉しくないのだろう、と私は納得する。

「そっか。じゃあ頑張って」
「あ、ああ、ありがとう」

 私が励ますと、彼はなぜか気まずそうに視線をそらす。
 仕方なく私は一人で屋敷に帰ることにしたのだった。
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