上 下
34 / 38

互いの事情

しおりを挟む
 アルフの気持ちを知った私はそれまでが嘘のように心が軽くなりました。
 もうこれまでのように何事も一人で解決しようとしなくても良いのです。
 そこでふと私は先ほどまで話していたためか、喉が渇いているのを感じます。きっとアルフも同じでしょう。

「そうだ、何か来てもらってからずっとばたばたしてたからお茶でも淹れるね」
「ありがとう」

 そう言って私はキッチンに向かうと、紅茶とありあわせではありますが、焼き菓子を持って部屋に戻りました。
 温かい紅茶を淹れてお菓子が軽くお腹に入ると、先ほどの疲れが少しとれたような気がします。

「そう言えば母上はなぜあそこまでリリーばかり可愛がっていたんだ?」
「どうだろう。正直なところはよく分からないけど、多分私よりリリーの方が母上に似ているからじゃない?」
「ああ、言われてみればそうかもしれないな」

 アルフは少し驚きます。

「でも、そんなことで? それにリリーが可愛いとしてもミアにそこまで辛く当たるだろうか?」
「前に精霊の話をした時、リリーが私をかばって怪我したって言ったでしょう? それまでは母上も私のことをそこまで嫌ってはいなかったんだけど、私のせいで自分の好きなリリーが傷ついたと思って今みたいな極端な考えになったんじゃないかって思ってる」

 そんな私の言葉を聞いてアルフは首をかしげます。

「……なるほど。でもリリーのしていたことを考えるとあまりミアをかばって自分が怪我するタイプには見えないけど」
「だから、多分だけどリリーはただ怪我したのを母上に気に入られるために私をかばったことにしたんじゃないのかな」
「確かにリリーならそんなこともやりかねないな」

 私の言葉にアルフは納得したように頷いたのでした。

「そう言えばずっと私の話ばかりだけど、アルフはどうなの?」
「僕か? そんな他人に話すほど特別の話もないけど、僕の家、ノーランド侯爵家は侯爵家とは名ばかりの貧乏貴族なんだ」
「え、そうだったの!?」

 これまであまり深い付き合いはなかったけど、とてもそうは見えませんでした。

「ああ、そうだ。ここ最近領内の産業がうまくいかなくて、急に税収が減ってしまって。もちろん体面に関わるから気づかれないように気をつけてはいたからね。多分僕がリリーの相手にされそうになっていたのは家柄がいいからなんだけど、本来なら僕は同じ侯爵家の令嬢と婚約するのが普通だろう? でもそれとなくうちが貧乏であることを気づかれて避けられていたらしい」
「そうだったのね」

 最初はアルフはどこか自信なさげな様子でした。あれはリリーとうまくいってないからだと思っていましたが、実際は家の窮状が原因だったのかもしれません。

「そんな時たまたまこの家から声がかかって、失礼ながら父上は格下の家でもいいと思ったらしい。しかも君がパーシーと婚約していたからテイラー伯爵の事も密かにあてにしていたようだ」
「なるほど……」

 アルフはアルフで色々と苦労していたようです。私は助けられるばかりで全然気がつきませんでした。これから恩返しが出来るといいのですが。
 そんなことを話していると、ドアがノックされます。

「誰でしょうか?」
「わしだ。馬車の用意が出来たが、最後に二人の見送りをするか?したくないならそれでもいいが」

 そんな父上の声が聞こえてきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈 
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

【完結】仕方がないので結婚しましょう

七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』 アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。 そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。 アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。 そして、その度に正論で打ちのめされてきた。 本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。 果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!? *高低差がかなりあるお話です *小説家になろうでも掲載しています

処理中です...