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リリー視点 誤算
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「ははは、リリー、僕が君を助けたぞ! もう君はミアに虐められることもないんだ!」
「あの、それは大丈夫ですからせめて一度屋敷に帰してください……」
パーシーは私をお姫様だっこすると屋敷の中を失踪した。明らかに異様な光景ではあるが、一応パーシーは貴族の跡継ぎであるため使用人たちは誰も力づくで止めることは出来ない。
その結果、私はついに庭先に泊まっているテイラー伯爵家の馬車まで連れていかれてしまった。このままでは本当に連れ去られてしまう。
が、パーシーは私の話などどこ吹く風、
「いや、今のミアは僕に婚約破棄されて逆上しているから近寄らない方がいい」
と決め顔で言って私を馬車に乗せる。
別にお姉様は逆上したところで私に危害を加えるような性格ではないのに、と思いつつパーシーにそう思わせたのは自分のせいなので何も言えない。
そんな状況に私は内心の溜め息を表情に出さないようにするのが精いっぱいだった。
確かに元々パーシーは単純で騙すのに最適だとは思っていた。私がお姉様から“借りて”いた精霊の力で魔法を使うとすぐに私のことを褒めてくれた。
私の力は所詮借り物。
仮病とは言わないが、私は足の傷が完治しないよう、故意にリハビリを怠ったり、一人の時に足に負担がかかるようなことをしていた。とはいえさすがに十年も経てばほとんど治ってきてしまう。
今はどうにか押し通せていても、いずれお姉様が本気で「返せ」と言ってくるだろう。その時に万一返すことになってしまえばお姉様以外にも私の魔力が借り物であることがばれてしまう。
だからお母様以外にもいざというとき私に味方してくれる人が欲しかった。それでパーシーとは仲良くしていて、お姉様が悪い人であるということをさりげなく刷り込もうとしていたのに、まさかこんなことになるなんて。
「大丈夫、後は全部僕に任せてくれ」
どうやらパーシーは私が思っていた以上に単純すぎる人物だったようで、今ではすっかり自分を何かの主人公だと思い込んで誰の話も聞かずに私を自分の屋敷に連れていこうと思っていた。
今も(外側だけ見れば)キラキラした笑顔を私に向けてきている。
もし今精霊のことを打ち明ければどうだろうか。
彼は自分の世界観が出来ているから、私が精霊を箱に入れて部屋に保管していると言っても疑うことはないだろう。しかしお姉様はこれまではお人よしだから精霊のことを家族以外に言わないでいてくれたが、さすがにこの期に及べば全て話してしまうかもしれない。そしてもしパーシーが「目の前でこれがリリーの精霊であると示してくれ」などと言い出せば一発で私が嘘をついているとバレてしまうだろう。
そうなると、やはり今言い出すことは出来ない。
しかし馬車に揺られている私は不安だった。
何せ私はこれまで「怪我しているのに努力して魔法が使える」というのが唯一のステータスだったのだ。それがなくなればただの嘘つき女になってしまう。
そう考えるだけで私は胸がきりきりと痛む。
「大丈夫だ、君は何があっても僕が守るよ」
「あ、ありがとう」
そんな私に笑いかけてくるパーシーの言葉も今は耳障りで仕方なかった。どうせ彼は私が好きというよりは「病弱な妹を助けている自分」が好きなだけなのだろう。だがここでパーシーを敵に回せばそれはそれで事態が悪化してしまう。
そう思うと、パーシーに対しても愛想笑いを浮かべて返答せざるを得なかった。
馬車に乗りながら、私はこれが自分が今までしてきたことの報いなのか、と思った。
「あの、それは大丈夫ですからせめて一度屋敷に帰してください……」
パーシーは私をお姫様だっこすると屋敷の中を失踪した。明らかに異様な光景ではあるが、一応パーシーは貴族の跡継ぎであるため使用人たちは誰も力づくで止めることは出来ない。
その結果、私はついに庭先に泊まっているテイラー伯爵家の馬車まで連れていかれてしまった。このままでは本当に連れ去られてしまう。
が、パーシーは私の話などどこ吹く風、
「いや、今のミアは僕に婚約破棄されて逆上しているから近寄らない方がいい」
と決め顔で言って私を馬車に乗せる。
別にお姉様は逆上したところで私に危害を加えるような性格ではないのに、と思いつつパーシーにそう思わせたのは自分のせいなので何も言えない。
そんな状況に私は内心の溜め息を表情に出さないようにするのが精いっぱいだった。
確かに元々パーシーは単純で騙すのに最適だとは思っていた。私がお姉様から“借りて”いた精霊の力で魔法を使うとすぐに私のことを褒めてくれた。
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仮病とは言わないが、私は足の傷が完治しないよう、故意にリハビリを怠ったり、一人の時に足に負担がかかるようなことをしていた。とはいえさすがに十年も経てばほとんど治ってきてしまう。
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「大丈夫、後は全部僕に任せてくれ」
どうやらパーシーは私が思っていた以上に単純すぎる人物だったようで、今ではすっかり自分を何かの主人公だと思い込んで誰の話も聞かずに私を自分の屋敷に連れていこうと思っていた。
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もし今精霊のことを打ち明ければどうだろうか。
彼は自分の世界観が出来ているから、私が精霊を箱に入れて部屋に保管していると言っても疑うことはないだろう。しかしお姉様はこれまではお人よしだから精霊のことを家族以外に言わないでいてくれたが、さすがにこの期に及べば全て話してしまうかもしれない。そしてもしパーシーが「目の前でこれがリリーの精霊であると示してくれ」などと言い出せば一発で私が嘘をついているとバレてしまうだろう。
そうなると、やはり今言い出すことは出来ない。
しかし馬車に揺られている私は不安だった。
何せ私はこれまで「怪我しているのに努力して魔法が使える」というのが唯一のステータスだったのだ。それがなくなればただの嘘つき女になってしまう。
そう考えるだけで私は胸がきりきりと痛む。
「大丈夫だ、君は何があっても僕が守るよ」
「あ、ありがとう」
そんな私に笑いかけてくるパーシーの言葉も今は耳障りで仕方なかった。どうせ彼は私が好きというよりは「病弱な妹を助けている自分」が好きなだけなのだろう。だがここでパーシーを敵に回せばそれはそれで事態が悪化してしまう。
そう思うと、パーシーに対しても愛想笑いを浮かべて返答せざるを得なかった。
馬車に乗りながら、私はこれが自分が今までしてきたことの報いなのか、と思った。
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