婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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錯乱するパーシー

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「理解出来ないというならもう一度言ってやる、僕は他人に隠れて妹を虐めるような人と結婚する気はない。ただいまをもって君との婚約を破棄させてもらう!」
「いきなりそんなことを言われても……大体、ご両親の許可はとったの!?」
「両親? そんなものはどうでもいい、僕は自分の意志で君に憤り、自分の意志で君との婚約を破棄しようとしているんだ!」
「いや、そう言う問題では……」

 しかしパーシーはどうやら完全に自分に酔っている様子で、私の言葉を聞くつもりはないようです。きっと意地悪な家族からリリーを救う主人公になっているつもりなのでしょう。
 そもそも両親がどうでも良かったら私たちは婚約することもなかったと思うのですが。

 そしてパーシーはうっとりとした目でリリーの方を見つめます。

「これでもう大丈夫だ、リリー。僕は君のことを救うよ」
「あの、それは一体どういう?」

 あまりに自己陶酔に浸りきったパーシーの言葉にリリーでさえついていけなくなっている様子で、それだけは少し滑稽です。
 もはやパーシーはリリーが好きなのか、リリーを助けている自分が好きなのかよく分からない状況です。

「決まっているだろう? 僕がこんなことを言ったらきっとミアは逆上してリリーにさらに酷い嫌がらせをするに決まっている。そうなる前に君を屋敷に連れていくんだ!」
「あの、お気持ちは嬉しいですが、それはちょっと……」

 当然ですが、リリーは私に虐められている訳でもないので急に連れていくと言われても戸惑うばかりです。
 しかし今のパーシーの耳にはもはやリリーの言葉すら入って来ませんでした。

「大丈夫、僕に任せて」
「いえ、そういうことではなく……」
「大丈夫、全部僕が何とかするよ」

 そう言って彼は突然リリーの体に腕を伸ばすと、すっと抱きあげます。いわゆるお姫様だっこという体勢です。こんなことが平然と出来るということはやはり彼は自分自身の世界に入り浸ってしまっているのでしょう。

「あの、パーシーさん、私持っていかないといけないものが色々……」
「そんなことよりも僕は君の身が心配だ。それに物ならいくらでも買ってあげよう」
「いえ、ですから……」
「僕はこんなところから一刻も早く君を助けたいんだ!」

 どうもリリーの足が悪いのは本当のようで、パーシーに抱き上げられても本気で抵抗することは出来ません。彼女はこれまで作って来た健気な妹キャラが邪魔をしてこの状況でも戸惑うばかりでまともな対応が出来ないようです。
 私は私であまりにぶっ飛んだ状況にどうするか困惑しましたが、パーシーがリリーを連れていくというのであれば止める理由はありません。

「僕はリリーを助けるんだ!」

 呆然としている私の前を、パーシーはそんな風に叫びながらリリーをお姫様だっこしながら駆け抜けていくのでした。
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