婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
3 / 38

パーシーとリリー

しおりを挟む
 そんな訳で今の私ではろくに魔法を使うことが出来ません。

 とはいえ、「リリーのために精霊を手ばしてしまったから魔法は使えません」などと言えば、まるでリリーを責めているように聞こえてしまうでしょう。
 リリーもそろそろ成人です。さすがにそろそろ精霊を返してくれるでしょう。魔法を使うのはそれまでの辛抱です。もっともこれまでも折に触れてそのような決意をしてきましたが。

「まあいいか。何にせよ君が元気そうで良かった。それじゃ僕はリリーに挨拶してくるよ」
「は、はい」

 パーシーは気のない声でそう言うと、席を立ってリリーの部屋へと向かっていきます。
 私はその後ろ姿を見ながら内心溜め息をつきますが、だからといって何かいい方法があるとは思えません。

 挨拶すると言いましたが、パーシーは私よりもリリーに好意を抱いているようです。
 となればもうここに戻ってくることもないでしょう、そう思った私も自室に戻るのでした。


 それからしばらくして、私はたまたまリリーの部屋の前を通りかかります。すると中からは楽しそうに談笑する声が聞こえてきました。
 言うまでもなく、リリーとパーシーの声です。
 それを聞いて私は何とも言えない嫌な気持ちになります。

 パーシーが私と話している時に楽しそうに笑ったのは聞いたことがありません。良くないと思いつつも私はつい部屋の中に聞き耳を立ててしまいます。

「それでパーシーさん、今度はこんな魔法も使えるようになりましたの」
「わあ、すごいな。リリーは努力家だな」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですわ」

 そう言ってリリーは何かの魔法を披露しています。
 それを見てパーシーは歓声をあげました。

「すごいな。そんな難しい魔法まで使えるなんて。大変だったんじゃないか?」
「はい、結構大変でした。しかし魔法が使えるようになってくると楽しいものです」
「そうか、リリーは努力家なんだな。ミアも少しはそういうところを真似してくれればいいのに」

 そう言ってパーシーはため息をつきます。
 するとそれまで楽しそうに話していたミアはふと言葉を止めます。もしかすると彼女も私に対して罪悪感のようなものがあるのかもしれません。

「いえ、お姉様はあんまり……ですからあまり言わないでいただけた方が」
「ああ、確かにミアは才能がない。だが、」
「いえ、そういうことではなく」

 どうやらパーシーはミアの配慮を、私が才能がないせいだと勘違いしたようです。まあ精霊を失っているのは才能を失っているのとほぼ同じと言えば同じですが。

「才能がないからといって最初からあきらめるのは良くないと思うけどな。リリーも昔は全然だったけど、努力してここまで来たんだろう?」
「いえ、あの……この話もう終わりにしませんか?」
「そうか、リリーは姉思いの優しい妹なんだな」

 パーシーはそんな風に誤解したらしく、それをきっかけに話題も別の方向へと変わっていったようです。
 そこまで聞いてさすがに私はリリーの部屋の前から立ち去るのでした。

 その後二人は遅くまで話し込んだ後、パーシーはリリーに見送られて自分の屋敷へと帰っていったのでした。その時のパーシーが本当に名残惜しそうだったのが私には印象的でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……

もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

甘やかされすぎた妹には興味ないそうです

もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。

【完結】妹が私の婚約者から好意を抱かれていると言いましたけど、それだけは絶対にあり得ませんから

白草まる
恋愛
シルビアとセリアの姉妹はルーファスと幼馴染であり、家族ぐるみの付き合いが続いていた。 やがてルーファスとシルビアは婚約を結び、それでも変わらない関係が続いていた。 しかし、セリアが急に言い出したのだ。 「私、よく考えてみたのですけど……ルーファス様、私のことが好きですよね?」

処理中です...