婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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パーシーとリリー

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 そんな訳で今の私ではろくに魔法を使うことが出来ません。

 とはいえ、「リリーのために精霊を手ばしてしまったから魔法は使えません」などと言えば、まるでリリーを責めているように聞こえてしまうでしょう。
 リリーもそろそろ成人です。さすがにそろそろ精霊を返してくれるでしょう。魔法を使うのはそれまでの辛抱です。もっともこれまでも折に触れてそのような決意をしてきましたが。

「まあいいか。何にせよ君が元気そうで良かった。それじゃ僕はリリーに挨拶してくるよ」
「は、はい」

 パーシーは気のない声でそう言うと、席を立ってリリーの部屋へと向かっていきます。
 私はその後ろ姿を見ながら内心溜め息をつきますが、だからといって何かいい方法があるとは思えません。

 挨拶すると言いましたが、パーシーは私よりもリリーに好意を抱いているようです。
 となればもうここに戻ってくることもないでしょう、そう思った私も自室に戻るのでした。


 それからしばらくして、私はたまたまリリーの部屋の前を通りかかります。すると中からは楽しそうに談笑する声が聞こえてきました。
 言うまでもなく、リリーとパーシーの声です。
 それを聞いて私は何とも言えない嫌な気持ちになります。

 パーシーが私と話している時に楽しそうに笑ったのは聞いたことがありません。良くないと思いつつも私はつい部屋の中に聞き耳を立ててしまいます。

「それでパーシーさん、今度はこんな魔法も使えるようになりましたの」
「わあ、すごいな。リリーは努力家だな」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですわ」

 そう言ってリリーは何かの魔法を披露しています。
 それを見てパーシーは歓声をあげました。

「すごいな。そんな難しい魔法まで使えるなんて。大変だったんじゃないか?」
「はい、結構大変でした。しかし魔法が使えるようになってくると楽しいものです」
「そうか、リリーは努力家なんだな。ミアも少しはそういうところを真似してくれればいいのに」

 そう言ってパーシーはため息をつきます。
 するとそれまで楽しそうに話していたミアはふと言葉を止めます。もしかすると彼女も私に対して罪悪感のようなものがあるのかもしれません。

「いえ、お姉様はあんまり……ですからあまり言わないでいただけた方が」
「ああ、確かにミアは才能がない。だが、」
「いえ、そういうことではなく」

 どうやらパーシーはミアの配慮を、私が才能がないせいだと勘違いしたようです。まあ精霊を失っているのは才能を失っているのとほぼ同じと言えば同じですが。

「才能がないからといって最初からあきらめるのは良くないと思うけどな。リリーも昔は全然だったけど、努力してここまで来たんだろう?」
「いえ、あの……この話もう終わりにしませんか?」
「そうか、リリーは姉思いの優しい妹なんだな」

 パーシーはそんな風に誤解したらしく、それをきっかけに話題も別の方向へと変わっていったようです。
 そこまで聞いてさすがに私はリリーの部屋の前から立ち去るのでした。

 その後二人は遅くまで話し込んだ後、パーシーはリリーに見送られて自分の屋敷へと帰っていったのでした。その時のパーシーが本当に名残惜しそうだったのが私には印象的でした。
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