幼馴染同士が両想いらしいので応援することにしたのに、なぜか彼の様子がおかしい

今川幸乃

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 その夜、私は夢を見た。
 夢、と言ってもほぼ実際に起こったことを思い出しただけだが。
 最近ブライアンとキャシーの仲を取り持つことばかりを考えていたから思い出したのだろう。
 確か数年前のことだったが、私たちはその日はブライアンの屋敷に集まって遊んでいた。

「どうした? キャシーは今日も元気がないように見えるけど」
「それが、今日も先生に怒られてしまって……」

 そう言ってキャシーはため息をつく。彼女は勉強が苦手でよくそのことについての愚痴をこぼしていた。ブライアンも勉強よりは体を動かす方が好きだったので、よく「俺もそうだ」などと慰めていた。

 が、その日のキャシーはあからさまにいつもよりも落ち込んでいた。
 もしかしたらいつもよりもこっぴどく怒られたのかもしれない。そんな彼女を見てブライアンは思い切った表情で言う。

「よし、それならその先生に俺からガツンと言ってやろう」
「え?」

 多分キャシーは優しい言葉の一つでもかけて欲しかったのだろう、思いもしなかったブライアンの言葉に一瞬困惑する。

 が、ブライアンは乗り気だった。
 彼は目をきらきらさせて言う。

「大体、俺は先生って何かいけ好かなくて嫌いなんだ。次の授業はいつだ?」
「う~ん、確か明後日だったと思う」
「よし。それなら俺に任せとけ!」

 そして私たちはどうやって先生をぎゃふんと言わせるかの計画を練り始めた。
 その時の私はただブライアンがやんちゃ心を出しただけかと思って無邪気に一緒になって先生をぎゃふんと言わせる計画を考えていたんだが、よく考えてみるとその時からブライアンはキャシーのことが好きだったのかもしれない。

 そして二日後。
 これはキャシーの部屋でのことだから、私はその場に居合わせなかったはずだが、事前に練った計画やその後に聞いた話から私の中でイメージが膨らみ、まるでその場にいたかのようにリアルな夢を見たのだろう。

 その日、ブライアンはキャシーの部屋のベッドの下に潜んでいた。
 キャシーはいつも通りに机に向かって宿題をしている振りをしながら先生を待つ。そこにやってきたのは眼鏡をかけた四十ほどの女性だった。

「さて、今日も授業を始めますが、まずちゃんと宿題をやってきましたか?」
「は、はい」 

 そう言ってキャシーは宿題のノートを見せる。
 が、それを見る先生の表情がどんどん険しくなっていく。そしてこれみよがしに溜め息をついた。

「はあ。全く、この程度の問題も出来ないなんて。この前の授業をちゃんと聞いていたの?」

 その時だった。突然ベッドの下から棒が伸びて来て先生の背中をつつき、すぐに戻っていく。
 先生は慌てて振り向いたが、その時にはすでにブライアンは棒を引っ込めていた。

「こほん、全く、あなたはいつもいつも前に習ったことを……」

 すると次はベッドの下から棒きれで作った釣り竿のようなものが出てくる。棒の先には糸がついているのだが、その先にぶら下がっているのはブライアンが捕まえてきたバッタだった。

 彼は慎重に狙いを定めると、先生の首元に糸を垂らし、棒をゆする。 
 するとバッタから糸が外れてバッタが落下した。
 バッタが彼女の肌に触れた瞬間、先生は突如甲高い悲鳴をあげた。

「きゃああああっ!?」 

 後ろから棒が伸びているのを見ていたキャシーは思わずクスリと笑う。

「何!? 何!? 今何が入ってきたの!?」

 が、先生はそれどころではない。
 それまでの教育者らしい態度はどこへやら、しばらくの間部屋をばたばたと跳び回り、服をぱたぱたした。

 やがて、背中から入れられたバッタがぽとりと落ちてくる。それを見てもう一度「きゃあっ!」と悲鳴が上がる。
 そんな先生の様子を見てキャシーはたまらず腹を抱えて笑っていた。

 ちなみにブライアンはベッドの下で必死に笑いをこらえていた。
 やがてバッタを窓の外に投げ捨てた先生は顔を真っ赤にして咳払いする。もはやキャシーにとって彼女は”怖い先生”ではなくなっていた。

「……今日はここまでにします。次に迄に宿題を今度こそ完璧にやっておくように!」

 そう言ってすたすたを部屋を出ていくのだった。


 先生が出ていったのを見るとブライアンがもぞもぞとベッドの下から這い出して来る。

「ありがとう、ブライアン。授業がこんなに楽しかったのは初めてですわ」
「良かった、キャシーがこんなに笑ってくれて。多分初めてだな」
「そうですわね。これから先生に嫌なことを言われても今日のことを思い出せば我慢できそうな気がしますわ」

 そう言って二人は改めて笑いあったのだった。

「ああ、これからも何かあったら何でも言ってくれ。キャシーのためなら何でもやるよ」
「頼もしいですわ」



 そして私は目を覚ます。

 そっか、本人たちも自覚していなかったかもだけどそんなに昔から両想いだったなら絶対にくっつけてあげないと。
 私は改めてそう決意するのだった。
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