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幼馴染
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「あれ、カバンの中に筆箱を入れ忘れちゃったかも」
屋敷に帰ろうとしていた私、カーラ・アルフォードはふと気づいた。幸い学園の門から出てまだ少ししか歩いていないので、私は小走りで門に向かって走る。
ここアルデーラ貴族学園はその名の通り、貴族の子女が通う学園だ。我が国の国中の貴族の子女が十二になると集められ、貴族として基本的な学問や教養、マナーを教わりつつお互いの関係性を築いていく。最初は強制的に子供を学園に通わせられることに反発する貴族もいたらしいが、領地が離れていても顔見知り同士の貴族が増え、家同士の交流は深まったらしい。
ちなみに我がアルフォード家は子爵家というまあまあの家柄だ。王国の政治に関わるほどでもないし、かといって日々の生活に困るほど貧乏という訳でもない。そのおかげで、私は比較的のびのび育ったと思う。
それはさておき、私は自分の教室に戻っていく。放課後ということもあって校舎から出ていくと他の生徒たちとすれ違い、変な目で見られているような気がしてくる。
そして私が何気なく空き教室の前を通った時だった。
放課後の喧噪に混ざってふと聞き馴染んだ声が聞こえてくる。
「キャシー、実は俺……好きなんだ」
その声の主は私の幼馴染のブライアン・ファース。ファース家も同じく子爵家で、ブライアンは私と年が近いこともあって幼いころからよくパーティーやお茶会で会い、仲が良かった。
その彼が深刻なトーンで愛を告白しているのが聞こえて来て、私は胸の鼓動が早くなるのを感じる。
「私の方がもっと好きですわ」
そう答えたのがもう一人の幼馴染、キャシー・マクニール。こちらは伯爵家という少し上の家の生まれだが、年が同じため、ブライアンと私の幼馴染であった。
そう答えたキャシーの声にもたっぷりの好意が含まれている。
「もしかして、私聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない!」
二人のやりとりを聞いてとっさにこれは聞いてはいけないやりとりだ、と感じた私は教室から離れた。
その後も何事か二人の会話が聞こえてくるが、続きを聞く勇気は私にはなかった。
「でもまさかあの二人がそんな関係だったなんて……。私たちは常に三人で一組みたいな仲だと思っていたのに」
そう言えば今日はブライアンと一緒に帰ろうと誘ったら彼は「ちょっと用が」と気まずそうに断られてしまった。その時は別に気にしていなかったけど、今こうして空き教室にキャシーと二人きりでいるということはそういうことだったのだろう。
状況を理解してしまうと、私は何てタイミングでブライアンに声を掛けてしまったのだろう、と自分の間の悪さを呪いたくなる。
「でも、二人が愛し合っているというなら応援しないといけないかな」
ブライアンは今はそうでもないが、昔はかなりやんちゃな性格だった。前にお茶会で私が年上のお嬢様にからかわれた時は割って入って年上相手に反撃してくれた。私が習い事がうまくいかなくて落ち込んでいた時は私を近くの山に連れ出していい景色を見せてくれた。もちろん好意とはいってもただの幼馴染に対するものだし……と思っていた私だが、いざこうして二人が結ばれているのを見ると少しだけ胸が痛む。
「ううん、せっかく二人が結ばれたんだから応援しないと」
キャシーは私たちよりも家格が上で家も裕福なことを少し鼻にかけているところがあったが、よく私たちを屋敷に招いておいしいご飯やお菓子を振る舞ったり、きれいなお庭を見せてくれたりした。
二人とも私にとって大事な幼馴染だ。
貴族の子供は基本的に自分で結婚相手を決めることは出来ない。やがて家の都合で誰かと婚約相手をさせられるだろう。
でも、そうなってしまう前までは出来るだけ二人の恋を応援してあげよう。
私はそう決意すると、改めて教室に筆箱をとりに戻るのだった。
屋敷に帰ろうとしていた私、カーラ・アルフォードはふと気づいた。幸い学園の門から出てまだ少ししか歩いていないので、私は小走りで門に向かって走る。
ここアルデーラ貴族学園はその名の通り、貴族の子女が通う学園だ。我が国の国中の貴族の子女が十二になると集められ、貴族として基本的な学問や教養、マナーを教わりつつお互いの関係性を築いていく。最初は強制的に子供を学園に通わせられることに反発する貴族もいたらしいが、領地が離れていても顔見知り同士の貴族が増え、家同士の交流は深まったらしい。
ちなみに我がアルフォード家は子爵家というまあまあの家柄だ。王国の政治に関わるほどでもないし、かといって日々の生活に困るほど貧乏という訳でもない。そのおかげで、私は比較的のびのび育ったと思う。
それはさておき、私は自分の教室に戻っていく。放課後ということもあって校舎から出ていくと他の生徒たちとすれ違い、変な目で見られているような気がしてくる。
そして私が何気なく空き教室の前を通った時だった。
放課後の喧噪に混ざってふと聞き馴染んだ声が聞こえてくる。
「キャシー、実は俺……好きなんだ」
その声の主は私の幼馴染のブライアン・ファース。ファース家も同じく子爵家で、ブライアンは私と年が近いこともあって幼いころからよくパーティーやお茶会で会い、仲が良かった。
その彼が深刻なトーンで愛を告白しているのが聞こえて来て、私は胸の鼓動が早くなるのを感じる。
「私の方がもっと好きですわ」
そう答えたのがもう一人の幼馴染、キャシー・マクニール。こちらは伯爵家という少し上の家の生まれだが、年が同じため、ブライアンと私の幼馴染であった。
そう答えたキャシーの声にもたっぷりの好意が含まれている。
「もしかして、私聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない!」
二人のやりとりを聞いてとっさにこれは聞いてはいけないやりとりだ、と感じた私は教室から離れた。
その後も何事か二人の会話が聞こえてくるが、続きを聞く勇気は私にはなかった。
「でもまさかあの二人がそんな関係だったなんて……。私たちは常に三人で一組みたいな仲だと思っていたのに」
そう言えば今日はブライアンと一緒に帰ろうと誘ったら彼は「ちょっと用が」と気まずそうに断られてしまった。その時は別に気にしていなかったけど、今こうして空き教室にキャシーと二人きりでいるということはそういうことだったのだろう。
状況を理解してしまうと、私は何てタイミングでブライアンに声を掛けてしまったのだろう、と自分の間の悪さを呪いたくなる。
「でも、二人が愛し合っているというなら応援しないといけないかな」
ブライアンは今はそうでもないが、昔はかなりやんちゃな性格だった。前にお茶会で私が年上のお嬢様にからかわれた時は割って入って年上相手に反撃してくれた。私が習い事がうまくいかなくて落ち込んでいた時は私を近くの山に連れ出していい景色を見せてくれた。もちろん好意とはいってもただの幼馴染に対するものだし……と思っていた私だが、いざこうして二人が結ばれているのを見ると少しだけ胸が痛む。
「ううん、せっかく二人が結ばれたんだから応援しないと」
キャシーは私たちよりも家格が上で家も裕福なことを少し鼻にかけているところがあったが、よく私たちを屋敷に招いておいしいご飯やお菓子を振る舞ったり、きれいなお庭を見せてくれたりした。
二人とも私にとって大事な幼馴染だ。
貴族の子供は基本的に自分で結婚相手を決めることは出来ない。やがて家の都合で誰かと婚約相手をさせられるだろう。
でも、そうなってしまう前までは出来るだけ二人の恋を応援してあげよう。
私はそう決意すると、改めて教室に筆箱をとりに戻るのだった。
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