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「いや、僕は君と婚約した覚えはないけど」

 アイザックの言葉に辺りはしんと静まり返る。
 今までジュリーは自分の婚約者で他人にマウントをとる嫌な女だと思われていたが、それが婚約者ですらないことが明らかになると、嫌悪を通り越して呆れしかならなかった。
 そんなアイザックに向かってジュリーは取り乱しながらも訴えかける。

「そ、そんな! だって父上が言ってましたわ、今アイザックとの婚約の話を進めていると!」
「ああ、確かにそういう話はあったね。でもその話はなくなったはずだけど……」
「そんな……聞いてませんわ!」

 ジュリーは叫ぶが、アイザックは淡々と答える。

「教えたら君がそうやって取り乱すだろうから、父上も言いづらいんじゃないか?」
「そ、そんな……これは嘘ですわ、そう、何かの間違いに決まっています、大体私との婚約でなければ誰と婚約するんですの!?」

 ジュリーの逆ギレにアイザックも若干面倒くさそうに眉をひそめる。
 が、そんなアイザックになぜかジュリーは強気に詰め寄っている。

「そうですわ、私以上にアイザックにふさわしい人がいるとは思えませんわ!」

 聞いているこっちにはどこからそんな自信が湧いてくるのか全く分からない。アイザックも最初は不快そうだったが、だんだん困惑に変わっていく。さすがの彼も事実を受け入れない相手には何を言えばいいのか分からないのだろう。

「そんなことを言われても、政略結婚というのは色々な事情があって決まるんだ。事実は変えられないんだから素直に受け入れてくれ」
「分かりましたわ、では私とアイザックが婚約してないのはいいとして、アイザックが婚約者を選べるとしたら当然私ですよね?」
「そんな仮定の話に意味はないし、こんな人前でする話じゃない」
「ですが誰と婚約するのか分からないと引き下がれませんわ!」
「そんなこと言われてもな。大体さっきから一言ごとに話題が変わっているんだが……」

 アイザックはすっかり困惑してしまっていた。
 とはいえ、野次馬たちもジュリーの言葉に少しだけ興味をそそられる。確かに人気があるアイザックが誰と婚約するのかは彼女らも興味があった。

「お相手の方はもう決まっているのですか!?」
「私たちの知っている方でしょうか!?」

 周囲にいた令嬢たちがアイザックに問いかける。

「もしもアイザックが自由に選べるのであれば私ですよね!?」

 どさくさに紛れてジュリーも勝手に一縷の望みを捨てずにいる。一体どこからそういう風に思っているのかは私には全く理解出来ない。
 そんな周囲の女性陣を見てアイザックはため息をついた。

「仕方ない、ここまでの騒ぎになってしまった以上言った方がいいか。まだ正式決定ではないし、本当はもっとちゃんとした形で発表したかったんだが」

 彼が言うと、あれほどうるさかった周囲の女性たちは一瞬で静まり返った。

「実は僕の婚約者はもうすぐ決まりそうで、その相手は……」
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