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「僕を引き合いに出して他人の悪口を言うのは感心しないな」

 アイザックがそう言った瞬間、はっきりと周囲の空気が凍り付くのを感じた。
 先ほどまで温和な笑みを浮かべていたアイザックはジュリーに向かってははっきりと不快の色を見せていた。
 特にそれまで得意げに話していたジュリーの表情がまるで、幽霊でも見たかのように青ざめる。

「あ、あの、それはどういう……」
「僕の言っていることが理解出来ないか? 僕の名前を使って他人を貶めるのはやめて欲しい、と言っただけなのだが。もっとも僕の名前を使っていないとしても他人の悪口を言うのは良くないと思うのだが」
「そ、そういうことではなく……」

 ジュリーは震える声で反論を言うが、それは言葉にならない。

「じゃあ何だって言うんだ?」
「わ、私はただクレアが自分の婚約者がアイザックより素晴らしいと言っているので、訂正したかっただけで……」
「そうなのか?」

 アイザックはクレアの方を見る。
 心なしか、今までジュリーに向けていた険しい表情から一転、優し気な表情になっている気がした。

「いえ、私はただジャックはいい人だと言っただけで、他の方と比べてどうとは……」

 クレアが答えるとアイザックが私を見たので、私も頷く。
 それを見てアイザックは一転して険しい表情に戻ってジュリーの方を向く。

「ということらしいが、要するに君はただ他人に向かって僕の名前を勝手に使って婚約者を貶めるようなことを言ったのか?」
「そ、それは……」

 今度こそジュリーは言葉に詰まった。

 少しの間何か言いたげに口をもごもごと動かしていたが、やがていかにも苦し紛れにといった様子で口を開く。

「そ、そもそも勝手にと言いますが、アイザックは私の婚約者ではありませんか! おsれならもう少し私の味方をしてくださってもいいはずです!」
「……え?」

 ジュリーの言葉にそれまで険しい表情をしていたアイザックが急にぽかんとした表情で固まった。

 それを見て再び周囲がざわざわする。
 ジュリーがアイザックと婚約している、みたいなことを言っていたので皆何となく信じていたのだろうが、言われてみれば先ほどから彼女が言っていることはかなり嘘と思い込みが混ざっている。
 そんなアイザックの反応に不安になったジュリーは祈るように尋ねる。

「あの、アイザック?」
「いや、僕は君と婚約した覚えはないけど」

 アイザックははっきりとそう言い放つのだった。
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