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「あらアイザック、ごきげんよう」

 そんなアイザックの姿を見ると、ジュリーはそれまでの好戦的な表情を一転させ、相好を崩す。

「やあ、こんにちは」

 アイザックはそう言ってジュリーや私たちに手を振ってみせる。
 間近で見たアイザックはやはり他の貴族令嬢、令息とはオーラが違った。

 彼の隣に立てば平民でも貴族令嬢に見えてしまう、と言ったが逆に彼の隣に立った貴族令嬢は彼の前ではかすんで見えてしまった。

 先ほどまでジュリーに自慢されて嫌な気持ちになっていたであろうクレアも、アイザックを見て思わず見とれてしまっているようだった。
 ジュリーがクレアに言い負かされているのを見て内心あざ笑っていた者たちも、今はそんなアイザックと婚約者であると言っているジュリーを羨まし気に見つめている。

「やっぱりアイザックは今日も格好いいわ」
「おいおい、皆して何の話だ?」

 ジュリーの言葉にアイザックは苦笑して首をかしげる。

「実はさっきからアイザックはとても格好いい、という話をしていましたの」
「そうか。それはありがたいな。とはいえ、穏やかでない雰囲気を感じたが?」
「だって彼女ったら自分の婚約者がアイザックほど格好いいと勘違いしていたみたいだからちょっと現実を教えてあげようと思いまして」
「いえ、私は別に……」

 別にクレアはそんなことは一言も言っていないが、ジュリーの脳内では勝手に彼女のストーリーが出来上がっているようであった。

「残念ながらジャック程度では、容姿、武術の腕、性格どれをとってもアイザックには敵わないというのに。だってアイザックは……」

 そう言ってジュリーは得意げにアイザックとの思い出を語り始める。どうやら前のパーティーで出会った時、アイザックは特別にジュリーをエスコートしてくれたらしい。

 それを聞いている私たちは静まり返っていた。

 ジュリーに対して敗北感を感じていたから一言もしゃべれなかったから……ではない。
 ジュリーがしている話が嘘か本当か分からないからコメント出来なかったから……でもない。

 ジュリーの隣にいるアイザックの雰囲気がどんどんぴりぴりしたものに変わっていったからだ。

 最初は笑顔で現れたアイザックはジュリーが一言話すごとに少しずつ真顔になっていく。
 あの鈍感なクレアですらそれに気づいて、心なしか私の後ろに隠れようとしている。
 そんな中、ジュリーだけは恐らく全く気付いていないのだろう。

「……ということがあったのですわ」

 と、得意げに話を終える。

 そして同意を求めるようにアイザックを見て、そこでようやく異変に気付いたのか、ひっ、と短い悲鳴を上げて凍り付いた。

「僕を引き合いに出して他人の悪口を言うのは感心しないな」

 アイザックの声は静かだが、はっきりと不快の感情が込められていた。
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