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Ⅳ
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「えっと、私の婚約者はジャックですが、それが何か?」
クレアは突然ジュリーが話題を変えた意図がよく理解出来ていないのだろう、戸惑いながら答える。
きっと今頃、何でせっかくドレスの話題で盛り上がっていたのに話題が変わったのだろう、などと内心首をかしげているに違いない。
ジャックの名を聞くと、ジュリーはわざとらしく嘲笑してみせる。
「ああ、あのハスラー家の。所詮家は貧乏ですし、顔も中の下ぐらいといったところですわね」
「そんなことありません、それでもジャックはとてもいい人です!」
クレアは反論するが、ジュリーはそんな彼女を憐れみの目で見つめる。
「ああ、そういうのは別にいいわ。きっとあなたはジャックとしか結婚出来ないから彼がよく見えるのよ」
「いえ、そんな……」
「あ~あ、可哀想」
そう言ってジュリーは嘲笑する。
さすがのクレアもここまで露骨に馬鹿にされるとむっとした表情になる。
「何でそうやって他人の婚約者をけなすようなことを言うのですか?」
「何で? それはね、私はもう少しでアイザックとの婚約がかないそうだからですわ」
アイザックというのはレイモンド伯爵家の跡継ぎである。
眉目秀麗、文武両道で若年ながら周囲の貴族たちから噂になっていた。中には王国一の演劇俳優の名前を出してそれに匹敵する顔立ち、という者もいた。
では内面はどうかというと、時々社交場で出会うと、初対面の令嬢にも丁寧に接し、体調を崩していたとある令嬢は彼に優しく介抱されたという話もしていたのを聞いたことがある。
とはいえ、彼の真価はそういう見かけの容姿の良さや人あたりの良さにある訳ではない。
彼はジュリーと違って自分から他人に何かを自慢することもないからそんなに知られていないが、レイモンド家では百年に一度の天才と言われている。
幼いころからレイモンド家の政務に関する文書を読み、年配の家臣や父に対してこうしてはどうか、と助言をすることもあったという。
最初、アイザックの言うことに首をかしげていた者たちも、アイザックが是非にと言うので何となく従ってみたところそれで成果が出たということもあったらしい。
容姿がいい人は探せばいくらでもいるし、他人に優しく接するのはある程度の努力をすれば誰でも出来る。
しかしこの天才ぶりは誰にでも発揮できるものではないだろうし、さらに若年ながらそれを押し通す決断力も並外れている、と私は思っていた。
「わあ、あのアイザックさんと!? それはすごいですね!」
「ええ、彼がたたずめば、廃墟でさえ優雅な屋敷に見え、彼の隣にいれば平民の町娘でも高貴なご令嬢に見えるというあのアイザックですわ」
ジュリーは、今度こそクレアが感心しているのに気を良くして大声で自慢する。
これには私たちの周囲にいた野次馬たちからも羨望の声が上がった。
それを聞いてジュリーはますます気を良くする。
「いいでしょう、あなたでは絶対に手が届くことのない人物ですわ」
「一体どうやって婚約にこぎつけたのでしょうか!?」
クレアが尋ねる。
「父上がこの私にふさわしい相手を探してくださって、それで彼しかいないとなったのですわ」
そう言ってジュリーが得意げに笑う。
アイザックに、ジュリーにふさわしい要素はあるだろうか、と私は内心首をかしげる。
が、そんな時だった。
「僕の名前が聞こえたけど、誰か呼んだかい?」
そんな声とともに現れたのはアイザック本人だった。
クレアは突然ジュリーが話題を変えた意図がよく理解出来ていないのだろう、戸惑いながら答える。
きっと今頃、何でせっかくドレスの話題で盛り上がっていたのに話題が変わったのだろう、などと内心首をかしげているに違いない。
ジャックの名を聞くと、ジュリーはわざとらしく嘲笑してみせる。
「ああ、あのハスラー家の。所詮家は貧乏ですし、顔も中の下ぐらいといったところですわね」
「そんなことありません、それでもジャックはとてもいい人です!」
クレアは反論するが、ジュリーはそんな彼女を憐れみの目で見つめる。
「ああ、そういうのは別にいいわ。きっとあなたはジャックとしか結婚出来ないから彼がよく見えるのよ」
「いえ、そんな……」
「あ~あ、可哀想」
そう言ってジュリーは嘲笑する。
さすがのクレアもここまで露骨に馬鹿にされるとむっとした表情になる。
「何でそうやって他人の婚約者をけなすようなことを言うのですか?」
「何で? それはね、私はもう少しでアイザックとの婚約がかないそうだからですわ」
アイザックというのはレイモンド伯爵家の跡継ぎである。
眉目秀麗、文武両道で若年ながら周囲の貴族たちから噂になっていた。中には王国一の演劇俳優の名前を出してそれに匹敵する顔立ち、という者もいた。
では内面はどうかというと、時々社交場で出会うと、初対面の令嬢にも丁寧に接し、体調を崩していたとある令嬢は彼に優しく介抱されたという話もしていたのを聞いたことがある。
とはいえ、彼の真価はそういう見かけの容姿の良さや人あたりの良さにある訳ではない。
彼はジュリーと違って自分から他人に何かを自慢することもないからそんなに知られていないが、レイモンド家では百年に一度の天才と言われている。
幼いころからレイモンド家の政務に関する文書を読み、年配の家臣や父に対してこうしてはどうか、と助言をすることもあったという。
最初、アイザックの言うことに首をかしげていた者たちも、アイザックが是非にと言うので何となく従ってみたところそれで成果が出たということもあったらしい。
容姿がいい人は探せばいくらでもいるし、他人に優しく接するのはある程度の努力をすれば誰でも出来る。
しかしこの天才ぶりは誰にでも発揮できるものではないだろうし、さらに若年ながらそれを押し通す決断力も並外れている、と私は思っていた。
「わあ、あのアイザックさんと!? それはすごいですね!」
「ええ、彼がたたずめば、廃墟でさえ優雅な屋敷に見え、彼の隣にいれば平民の町娘でも高貴なご令嬢に見えるというあのアイザックですわ」
ジュリーは、今度こそクレアが感心しているのに気を良くして大声で自慢する。
これには私たちの周囲にいた野次馬たちからも羨望の声が上がった。
それを聞いてジュリーはますます気を良くする。
「いいでしょう、あなたでは絶対に手が届くことのない人物ですわ」
「一体どうやって婚約にこぎつけたのでしょうか!?」
クレアが尋ねる。
「父上がこの私にふさわしい相手を探してくださって、それで彼しかいないとなったのですわ」
そう言ってジュリーが得意げに笑う。
アイザックに、ジュリーにふさわしい要素はあるだろうか、と私は内心首をかしげる。
が、そんな時だった。
「僕の名前が聞こえたけど、誰か呼んだかい?」
そんな声とともに現れたのはアイザック本人だった。
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