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Ⅱ
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「そこのお二方、ごきげんよう」
突然人垣をかき分けて現れた女を見て私は内心溜め息をついた。
高い生地をふんだんに使った派手な赤色のドレス。これでもかと巻かれた長い髪。そして周囲の人物、特に私たち二人を見下すような高慢な眼差し。
実際に会うのは初めてだったが、おそらく名前は聞いたことがある。
ジュリー・パウエル。パウエル伯爵家という裕福な貴族家のご令嬢なのだが、大規模なパーティーで会うと爵位が下の家の令嬢に絡んでくる、平たく言えばマウントをとってくる厄介令嬢として噂になっている。幸運なことに私は今まで会ったことはなかったが、ついに遭遇してしまったか。
「ご機嫌よう」
一方のクレアは恐らくそんな噂も知らないのだろう、普通の初対面の相手だと思って普通に挨拶を返している。
いくら相手が厄介令嬢だからとはいえ、目の前でクレアに「この人は厄介令嬢なのでさっさと逃げた方がいいですよ」と耳打ちする訳にもいかない。
「ご機嫌よう」
仕方なく私も挨拶を返す。
「初めましてお二方、私はパウエル伯爵家のジュリーと言いますわ。以後お見知りおきを」
そう言って彼女は私たちを見て笑みを浮かべる。純粋なクレアはただの初対面の笑みと思っているのかもしれないが、私には分かる。
これは自分の家の方が爵位が高いと知っている人の目だ。
彼女は私たちが子爵家の生まれだと知って声をかけているのだろう。
「私はダグラス子爵家のクレアと言います!」
「私はローラ・ケレットです」
クレアが無邪気に自己紹介しているので、やむなく私もそれに追従する。
「まあ、お二人とも子爵家の方だったのですね」
ジュリーはさも今知ったかのように言う。
「見てください、わたくしのこのドレス。お抱えの職人に頼んで特注で作っていただいたのですわ」
「わあ、すごいですね」
明らかに自慢されているというのにクレアは無邪気に感心している。
なんだかなあ、と思いつつもクレアが相槌してくれているおかげで私は何も言わなくても良さそうだったので、助かったと思いつつ私は黙っていることにした。
「特にこの部分は先代の王妃様が愛用していたドレスの意匠を参考にしたもので……」
「確かに、あ、もしかしてこの部分はバロニア時代の流行を参考にしています?」
「さすが、よく分かってらっしゃいますね」
「そんな昔の流行も取り入れているのはさすがですね」
「そうでしょう、何せこの私が特注で作らせたものですから」
クレアの無邪気な感心にジュリーはどんどん気をよくしていく。
うーん、しゃべらなくて済むのは楽だけどこのやりとりいつまで続くんだろう。
私はあまり服飾に興味はないので二人が何を話しているのかさっぱり分からない。クレアに適当に話を打ち切るなんてことは出来ないだろうし……
そう思った時だった。
「でも先代の王妃様が愛用していたのはどちらかというとセレニア文化の意匠ですよね? バロニア文化の意匠と同居しているのは不自然じゃないですか?」
「え?」
先ほどまでの無邪気な賞賛と全く同じテンションで発せられたクレアの言葉に、ジュリーの表情が凍り付いたのだった。
突然人垣をかき分けて現れた女を見て私は内心溜め息をついた。
高い生地をふんだんに使った派手な赤色のドレス。これでもかと巻かれた長い髪。そして周囲の人物、特に私たち二人を見下すような高慢な眼差し。
実際に会うのは初めてだったが、おそらく名前は聞いたことがある。
ジュリー・パウエル。パウエル伯爵家という裕福な貴族家のご令嬢なのだが、大規模なパーティーで会うと爵位が下の家の令嬢に絡んでくる、平たく言えばマウントをとってくる厄介令嬢として噂になっている。幸運なことに私は今まで会ったことはなかったが、ついに遭遇してしまったか。
「ご機嫌よう」
一方のクレアは恐らくそんな噂も知らないのだろう、普通の初対面の相手だと思って普通に挨拶を返している。
いくら相手が厄介令嬢だからとはいえ、目の前でクレアに「この人は厄介令嬢なのでさっさと逃げた方がいいですよ」と耳打ちする訳にもいかない。
「ご機嫌よう」
仕方なく私も挨拶を返す。
「初めましてお二方、私はパウエル伯爵家のジュリーと言いますわ。以後お見知りおきを」
そう言って彼女は私たちを見て笑みを浮かべる。純粋なクレアはただの初対面の笑みと思っているのかもしれないが、私には分かる。
これは自分の家の方が爵位が高いと知っている人の目だ。
彼女は私たちが子爵家の生まれだと知って声をかけているのだろう。
「私はダグラス子爵家のクレアと言います!」
「私はローラ・ケレットです」
クレアが無邪気に自己紹介しているので、やむなく私もそれに追従する。
「まあ、お二人とも子爵家の方だったのですね」
ジュリーはさも今知ったかのように言う。
「見てください、わたくしのこのドレス。お抱えの職人に頼んで特注で作っていただいたのですわ」
「わあ、すごいですね」
明らかに自慢されているというのにクレアは無邪気に感心している。
なんだかなあ、と思いつつもクレアが相槌してくれているおかげで私は何も言わなくても良さそうだったので、助かったと思いつつ私は黙っていることにした。
「特にこの部分は先代の王妃様が愛用していたドレスの意匠を参考にしたもので……」
「確かに、あ、もしかしてこの部分はバロニア時代の流行を参考にしています?」
「さすが、よく分かってらっしゃいますね」
「そんな昔の流行も取り入れているのはさすがですね」
「そうでしょう、何せこの私が特注で作らせたものですから」
クレアの無邪気な感心にジュリーはどんどん気をよくしていく。
うーん、しゃべらなくて済むのは楽だけどこのやりとりいつまで続くんだろう。
私はあまり服飾に興味はないので二人が何を話しているのかさっぱり分からない。クレアに適当に話を打ち切るなんてことは出来ないだろうし……
そう思った時だった。
「でも先代の王妃様が愛用していたのはどちらかというとセレニア文化の意匠ですよね? バロニア文化の意匠と同居しているのは不自然じゃないですか?」
「え?」
先ほどまでの無邪気な賞賛と全く同じテンションで発せられたクレアの言葉に、ジュリーの表情が凍り付いたのだった。
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