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返事
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それから数日して、うちに再びクリフトンがやってくることになった。
先日父上はクリフトンと私が婚約出来ないかセネット伯爵に掛け合ってみると言っていた。そうは言ってもなかなか叶うことではないと諦めていたことではあるが、実は内心もしかしたらその縁談が成立してしまうのではないかと気が気ではありませんでした。
そのタイミングでクリフトンがやってくるということはそれに対する答えなのではないでしょうか。しかも断るのであればわざわざ本人がやってくることはないはずだ。そう考えると嫌でも期待が膨らんでくるのを感じます。
「クリフトン様、ただいま参りました」
「は、はい」
執事から報告を受けて私は思わず上ずった声をあげてしまいます。
それを聞いた父上も私と同じことを考えていたのでしょう、緊張した面持ちで頷きます。
こうして私たちは緊張した面持ちで応接室で待つのでした。
「失礼します」
そこへクリフトンがやってきます。
この前うちに来た時よりも心なしかきっちりした服を着ているように見え、私はごくりと唾をのみ込みました。
「本日は遠路はるばるお越しいただき申し訳ない」
「いえいえ、こちらこそ大事なお話をいただいたので、是非僕自身の口から返事させていただきたいと思いまして」
その言葉に私と父上は思わず黙ってしまいます。
ついに婚約の返事が聞かされるのです。
「先日提案いただいた僕とリッタの婚約ですが、受けさせていただくことになりました」
「ありがとうございます!」
「本当か!?」
それを聞いた瞬間、私は父上とともに歓喜の声をあげました。
まさか本当に男爵令嬢に過ぎない私と伯爵家の嫡男であるクリフトンとの縁談が叶うなんて、まるで夢のようです。
「はい、本当です。僕も話を聞いた時は驚いたのですが、実は父上が昔アストリー男爵に恩義があるとのことで」
「ん? セネット伯爵と仲は良かったが特段恩に思われるようなことはしていないが……」
なぜか父上が首をかしげます。
「お忘れですか? 父上は昔冤罪を着せられかけた時、アストリー男爵だけは最初から最後までずっと無罪を確信してくれていて、おかげで立ち向かう気力が湧いた、と言っていましたが」
「ああ、そんなこともあったな」
それを聞いて父上が懐かしむように言した。
「一体何があったんです?」
「実は昔、王宮でとある貴族が刺されるという事件があり、刺した人物はすぐに斬り合いになって死んでしまったのだが、それが伯爵の屋敷で働いていたことがある使用人で、伯爵の差し金ではないかと思われたらしい。言われてみればその時わしは伯爵を信じていたが、別に何か冤罪を晴らす手伝いが出来た訳でもないからなあ」
「とんでもない! 父上はどんな時でも自分を信じてくれる方がいたからこそ諦めずに頑張れたと言っていました」
なるほど、昔そんなことがあったとは。
確かにそういう間柄であれば身分は関係ないのかもしれません。
「それに現在家が困窮しているのも、領民のことを気にかけていると聞いています。縁談が成った暁には我が家から支援して産業を発展させるのもやぶさかでないと」
「本当か!? 確かに資金さえあれば支援したい産業はいくつか目星をつけているのだが、そのあてがなくて困っていたところだ」
「はい、困窮してはいるものの、家にお金がないだけで領地の活力や人材は失われてはいません。そのため、ただの男爵家とは違って将来性もある、と」
「良かった……」
それを聞いて父上はほっと胸をなでおろします。
が、その時でした。
「ご主人様!」
そこへ一人の執事が血相を変えて駆け込んできました。
当然ですが父上の会談中に執事が部屋に乱入してくるなどただ事ではありません。
「馬鹿者! 今は大事な会談中であることが分からぬのか!?」
当然父上は声をあらげます。
しかし執事は驚くべきことを言いました。
「それが、突然バート様が屋敷にやってきて……」
「何だと? バートが?」
父上の表情が変わります。
その次の瞬間でした。
ばたばたという足音ともにバートが部屋に駆け込んできたのです。
先日父上はクリフトンと私が婚約出来ないかセネット伯爵に掛け合ってみると言っていた。そうは言ってもなかなか叶うことではないと諦めていたことではあるが、実は内心もしかしたらその縁談が成立してしまうのではないかと気が気ではありませんでした。
そのタイミングでクリフトンがやってくるということはそれに対する答えなのではないでしょうか。しかも断るのであればわざわざ本人がやってくることはないはずだ。そう考えると嫌でも期待が膨らんでくるのを感じます。
「クリフトン様、ただいま参りました」
「は、はい」
執事から報告を受けて私は思わず上ずった声をあげてしまいます。
それを聞いた父上も私と同じことを考えていたのでしょう、緊張した面持ちで頷きます。
こうして私たちは緊張した面持ちで応接室で待つのでした。
「失礼します」
そこへクリフトンがやってきます。
この前うちに来た時よりも心なしかきっちりした服を着ているように見え、私はごくりと唾をのみ込みました。
「本日は遠路はるばるお越しいただき申し訳ない」
「いえいえ、こちらこそ大事なお話をいただいたので、是非僕自身の口から返事させていただきたいと思いまして」
その言葉に私と父上は思わず黙ってしまいます。
ついに婚約の返事が聞かされるのです。
「先日提案いただいた僕とリッタの婚約ですが、受けさせていただくことになりました」
「ありがとうございます!」
「本当か!?」
それを聞いた瞬間、私は父上とともに歓喜の声をあげました。
まさか本当に男爵令嬢に過ぎない私と伯爵家の嫡男であるクリフトンとの縁談が叶うなんて、まるで夢のようです。
「はい、本当です。僕も話を聞いた時は驚いたのですが、実は父上が昔アストリー男爵に恩義があるとのことで」
「ん? セネット伯爵と仲は良かったが特段恩に思われるようなことはしていないが……」
なぜか父上が首をかしげます。
「お忘れですか? 父上は昔冤罪を着せられかけた時、アストリー男爵だけは最初から最後までずっと無罪を確信してくれていて、おかげで立ち向かう気力が湧いた、と言っていましたが」
「ああ、そんなこともあったな」
それを聞いて父上が懐かしむように言した。
「一体何があったんです?」
「実は昔、王宮でとある貴族が刺されるという事件があり、刺した人物はすぐに斬り合いになって死んでしまったのだが、それが伯爵の屋敷で働いていたことがある使用人で、伯爵の差し金ではないかと思われたらしい。言われてみればその時わしは伯爵を信じていたが、別に何か冤罪を晴らす手伝いが出来た訳でもないからなあ」
「とんでもない! 父上はどんな時でも自分を信じてくれる方がいたからこそ諦めずに頑張れたと言っていました」
なるほど、昔そんなことがあったとは。
確かにそういう間柄であれば身分は関係ないのかもしれません。
「それに現在家が困窮しているのも、領民のことを気にかけていると聞いています。縁談が成った暁には我が家から支援して産業を発展させるのもやぶさかでないと」
「本当か!? 確かに資金さえあれば支援したい産業はいくつか目星をつけているのだが、そのあてがなくて困っていたところだ」
「はい、困窮してはいるものの、家にお金がないだけで領地の活力や人材は失われてはいません。そのため、ただの男爵家とは違って将来性もある、と」
「良かった……」
それを聞いて父上はほっと胸をなでおろします。
が、その時でした。
「ご主人様!」
そこへ一人の執事が血相を変えて駆け込んできました。
当然ですが父上の会談中に執事が部屋に乱入してくるなどただ事ではありません。
「馬鹿者! 今は大事な会談中であることが分からぬのか!?」
当然父上は声をあらげます。
しかし執事は驚くべきことを言いました。
「それが、突然バート様が屋敷にやってきて……」
「何だと? バートが?」
父上の表情が変わります。
その次の瞬間でした。
ばたばたという足音ともにバートが部屋に駆け込んできたのです。
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