上 下
11 / 19

クリフトンの来訪Ⅱ

しおりを挟む
 それから数日後、無事公務を果たしたクリフトンはいよいようちの屋敷へやってきました。
 うちの屋敷も出来る範囲できれいにしましたが、クリフトンの行列がやってくると、どうしても場違い感が出てしまいます。
 馬車が庭先に到着すると、私だけでなく父上自ら出迎えに向かいます。

 いくら爵位も家の豊かさも向こうの方が上とはいえそこまでせずとも、とは思いますが父上もセネット家との縁を繋ぐために本気なのかもしれません。

 馬車から降りてきたクリフトンはそんな私たちの出迎え態勢を見て少し驚きました。
 そして慌てて父上に頭を下げます。
 伯爵家出身とはいえ、クリフトンはまだ家を継いではいないので当主である父上とどちらの方が偉いかは難しいところです。

 また、人によってはここぞとばかりに偉そうにするところでもあります。

「急に来てしまった上、アストリー男爵直々のお迎え、大変恐縮です」
「いや、こちらこそうちのような辺鄙なところまで来ていただき恐縮です」

 二人とも腰の低い人物だったため結果的に、二人とも頭の下げ合いのようになってしまっていまいました。
 私も慌ててそれに倣います。

「お越しいただきありがとうございます」
「とりあえず立ち話もなんですので、中へどうぞ」

 そう言って父上はクリフトンを応接間へと案内します。
 一応頑張って綺麗にしたとはいえ、うちのような屋敷をクリフトンのような壮麗な屋敷で暮らしている人物に見られてしまうのは恥ずかしくなってしまいます。

 とはいえクリフトンは特にうちの屋敷をじろじろと見ることもなく、父上と立ち話しながら歩いていきます。
 応接間に着くと、事前に用意させておいた紅茶とお菓子が運ばれてきます。
 そしてしばらくの間父上とクリフトンは社交辞令的な挨拶から入り、お互いの家の近況について話していました。

「……そう言えばアストリー家は最近経営が苦しいと聞きますが」

 不意にクリフトンが切り出しました。
 その話題が出ると、父上は少し迷った様子ですが、正直に話すことにしたようです。

「そうだ、わしが家を継ぐ少し前に大規模な日照りが襲い、その時に大きな被害を受けましてな」
「しかしそれはかなり前のことですよね?」

 クリフトンが遠慮がちに尋ねます。
 要するにまだ復興出来ていないのか、ということを遠回しに訊いているのでしょう。

「そうなのですが、その時に農民からの税率を下げましてな。今は収穫も戻ってはいるのですが、また同じような被害が出てはかなわないので税率を戻す代わりに、その差分を蓄えさせているのです。また、領地の経営が厳しい時に家臣を召し放つ訳もいかぬと抱え続けた結果、借金がかさんでしまいまして」

 それを聞いたクリフトンは目を丸くしました。

「では災害が起こった時に家臣の給金を減らしたり、被害がなかった地域の税率を上げたりはしなかったのですか?」
「そうですな」
「逆によくそれで家が持ちましたね」
「いやあ、しかし家臣や領民に負担をかける訳にはいきませんので。それでずっと貧乏経営が続いております」
「なるほど」

 クリフトンは感心した様子でした。
 確かにクリフトンが口にしたような対応の方が一般的で、父上のようなやり方の方が珍しいと言えるでしょう。

「逆にセネット家は豊かと聞きますが、どのようなことをしているのでしょうか?」
「我が家では農民や商人の中でも力あるものに積極的に投資をしております。それにより彼らが領内を豊かにしてくれているのです」
「なるほど」

 簡単には言いますが、投資は先を間違えるとただの無駄遣いに終わります。
 結果が出ているということはその見極めがうまくいっているということでしょう。その見極めに感心してしまいます。
 それからさらにお互いの家の話などで盛り上がった後でした。

「ではわしはそろそろ」

 そう言って父上が席を立ち、私たちは二人きりになります。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!

杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。 しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。 対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年? でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか? え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!! 恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。 本編11話+番外編。 ※「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

処理中です...