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Ⅲ
【終】エピローグ Ⅱ
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その後レティシアの事件は新たな被害者が二人見つかり、幕を下ろした。
彼女の研究はあの廃屋に集積されていたらしく、私たちが戦った時に巻き添えを食って全て塵になってしまった。それがいいことなのか悪いことなのかはよく分からない。悪の種が消えたとも言えるし、正しく用いれば有効な使い道があったかもしれない。
「……被害者も全員回復した。元々シルヴィア以外は種子との結びつきが弱かったらしく、魔力が回復すれば大丈夫だった。しばらくは皆病気で療養中ということにして引きこもるんだろうけど、療養というよりは実質的な謹慎だろうな」
それから数日後、私は久し振りにカフェでアルフと話していた。そんなにたくさん来た訳ではなかったが、この店でいつものコーヒーを頼むと、日常に帰ってきたような気分になる。
一時は学園を揺るがす事件になったが、シルヴィアの時と違って学園で戦いが行われることもなく、それぞれの生徒がひっそりと闇魔術に手を染めて去っていっただけなので、他の生徒たちはさっさとそれぞれの日常を取り戻していた。
もちろん被害に遭った生徒の知り合いはぎこちない様子だし、クラスメイト欠けた教室では私も元気がでなかったが。
「それで今回は僕が功績を挙げたということで、ようやく平騎士から一つ上に昇進できそうだ」
「良かった。それはおめでとう」
「もっとも、勝手にレミリアを巻き込んだことは怒られたけどね」
そう言ってアルフは苦笑いを浮かべる。勝手に部外者を捜査に駆り出すのは良くないのだろうが、まあ昇進出来ているなら大丈夫だったのだろう。
が、ふっとアルフは真顔になってこちらを見る。
「それでレミリア、僕はこれからも功績を立ててゆくゆくは近衛騎士団長を目指すつもりだ。だからもし学園を卒業したら、その時は結婚してくれないか?」
「え?」
突然のプロポーズに私は目を白黒させてしまう。思わず手に持っていたコーヒーのカップを落としてしまいそうになる。
正直これまでアルフとの将来を全く考えなかったかと言われると嘘になる。しかしそれを実際に言葉にされると考えていただけの時とは全く違う緊張がある。心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなる。
私は一度深呼吸して気持ちを落ち着けるとどうにか言葉を口から出す。
「……うん、私もそうしたい。もちろん実家には言わないといけないけど」
「それはそうだ。それについては夏休みにでもお伺いするよ」
アルフはさらっと言うが、実家に来てくれるということはよほどの覚悟があるのだろう。
「う、うん」
照れてしまってうまく言葉にならない。私はどうせ三女だから近衛騎士と婚約したいと言えばむしろ両親は喜んでくれるだろう。ということはこの婚約が実現する確率は限りなく高い。
見ると、いつも澄ました顔しかしないアルフも今日ばかりは少しばかり頬を紅潮させていた。彼も同じように緊張しているということが分かって少しほっとする。
私はコーヒーを一口飲んで落ち着くと、意を決して口を開く。
「それで私なんだけど」
アルフが将来についての話をしてくれたということもあって、私もレティシアの事件以来数日考え続けていたことを口にする。
「レティシアの話を聞いて実は色々考えてしまって。結局、魔力がある程度遺伝するし、貴族は結婚相手を家の力で選べる以上、貴族ばかりに魔力が高い子供が生まれやすいという現状は変わらないと思う」
「確かにそうだな」
もちろん稀に下級貴族や平民に魔力が高い人物が生まれることはあるが、養子や政略結婚により貴族の血筋に取り込まれることがある。男子の場合は分家に入れてその娘と本家の跡継ぎを結婚させる、という方法すら使われることもある。
「でもやっぱりそれは良くないと思う。魔力がなくても魔法の技術が詳しい人が魔法が使えるようになった方が、国も発展していくと思う」
「それはそうだが、そんなことが出来るのか?」
「うん。レティシアは魔力を他人から奪い取ったり、闇の魔術を使ったりしたけど、そうではなくて魔力を貯めることや、受け渡しが容易になればいいなって思う」
魔力は食べて寝れば回復する以上、例えばもし自分の魔力をどこかに貯めて売ることが出来るなら魔力がある人はそうするだろう。魔力がない人はそれを買えば魔法が使えるようになる。
もちろんそれは今のところただの願望に過ぎないが。
「だから私は今後貴族の家に入るよりもそういう研究をしたいって思っていた」
貴族の家に嫁げばどうしてもやらなくてはならないことがあり、研究に時間を割くことは難しいだろう。
もちろん、そういう事情を抜きにしても私はプロポーズを受ける前からアルフ以外の相手と結ばれることは考えていなかったが。
「もちろん学園でも学年が上がればより専門的な勉強が出来るようになるから頑張ってみる」
「そうか。レミリアはちゃんと将来のことを考えていてすごいな」
アルフは感心の表情を見せるが、身一つで軍に入ってそこから実力で近衛騎士に配属されたアルフの方がすごいと思う。
「アルフだって近衛騎士に入ってそこで昇進してるんだから十分すごいって」
「そうかもしれないな。よし、それならレミリアの卒業までにお互いの目標を頑張って、その時に胸を張って結婚出来るようになりたい」
「うん、分かった」
こうして事件は終わり、新たな私たちの日常が続いていくのである。
彼女の研究はあの廃屋に集積されていたらしく、私たちが戦った時に巻き添えを食って全て塵になってしまった。それがいいことなのか悪いことなのかはよく分からない。悪の種が消えたとも言えるし、正しく用いれば有効な使い道があったかもしれない。
「……被害者も全員回復した。元々シルヴィア以外は種子との結びつきが弱かったらしく、魔力が回復すれば大丈夫だった。しばらくは皆病気で療養中ということにして引きこもるんだろうけど、療養というよりは実質的な謹慎だろうな」
それから数日後、私は久し振りにカフェでアルフと話していた。そんなにたくさん来た訳ではなかったが、この店でいつものコーヒーを頼むと、日常に帰ってきたような気分になる。
一時は学園を揺るがす事件になったが、シルヴィアの時と違って学園で戦いが行われることもなく、それぞれの生徒がひっそりと闇魔術に手を染めて去っていっただけなので、他の生徒たちはさっさとそれぞれの日常を取り戻していた。
もちろん被害に遭った生徒の知り合いはぎこちない様子だし、クラスメイト欠けた教室では私も元気がでなかったが。
「それで今回は僕が功績を挙げたということで、ようやく平騎士から一つ上に昇進できそうだ」
「良かった。それはおめでとう」
「もっとも、勝手にレミリアを巻き込んだことは怒られたけどね」
そう言ってアルフは苦笑いを浮かべる。勝手に部外者を捜査に駆り出すのは良くないのだろうが、まあ昇進出来ているなら大丈夫だったのだろう。
が、ふっとアルフは真顔になってこちらを見る。
「それでレミリア、僕はこれからも功績を立ててゆくゆくは近衛騎士団長を目指すつもりだ。だからもし学園を卒業したら、その時は結婚してくれないか?」
「え?」
突然のプロポーズに私は目を白黒させてしまう。思わず手に持っていたコーヒーのカップを落としてしまいそうになる。
正直これまでアルフとの将来を全く考えなかったかと言われると嘘になる。しかしそれを実際に言葉にされると考えていただけの時とは全く違う緊張がある。心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなる。
私は一度深呼吸して気持ちを落ち着けるとどうにか言葉を口から出す。
「……うん、私もそうしたい。もちろん実家には言わないといけないけど」
「それはそうだ。それについては夏休みにでもお伺いするよ」
アルフはさらっと言うが、実家に来てくれるということはよほどの覚悟があるのだろう。
「う、うん」
照れてしまってうまく言葉にならない。私はどうせ三女だから近衛騎士と婚約したいと言えばむしろ両親は喜んでくれるだろう。ということはこの婚約が実現する確率は限りなく高い。
見ると、いつも澄ました顔しかしないアルフも今日ばかりは少しばかり頬を紅潮させていた。彼も同じように緊張しているということが分かって少しほっとする。
私はコーヒーを一口飲んで落ち着くと、意を決して口を開く。
「それで私なんだけど」
アルフが将来についての話をしてくれたということもあって、私もレティシアの事件以来数日考え続けていたことを口にする。
「レティシアの話を聞いて実は色々考えてしまって。結局、魔力がある程度遺伝するし、貴族は結婚相手を家の力で選べる以上、貴族ばかりに魔力が高い子供が生まれやすいという現状は変わらないと思う」
「確かにそうだな」
もちろん稀に下級貴族や平民に魔力が高い人物が生まれることはあるが、養子や政略結婚により貴族の血筋に取り込まれることがある。男子の場合は分家に入れてその娘と本家の跡継ぎを結婚させる、という方法すら使われることもある。
「でもやっぱりそれは良くないと思う。魔力がなくても魔法の技術が詳しい人が魔法が使えるようになった方が、国も発展していくと思う」
「それはそうだが、そんなことが出来るのか?」
「うん。レティシアは魔力を他人から奪い取ったり、闇の魔術を使ったりしたけど、そうではなくて魔力を貯めることや、受け渡しが容易になればいいなって思う」
魔力は食べて寝れば回復する以上、例えばもし自分の魔力をどこかに貯めて売ることが出来るなら魔力がある人はそうするだろう。魔力がない人はそれを買えば魔法が使えるようになる。
もちろんそれは今のところただの願望に過ぎないが。
「だから私は今後貴族の家に入るよりもそういう研究をしたいって思っていた」
貴族の家に嫁げばどうしてもやらなくてはならないことがあり、研究に時間を割くことは難しいだろう。
もちろん、そういう事情を抜きにしても私はプロポーズを受ける前からアルフ以外の相手と結ばれることは考えていなかったが。
「もちろん学園でも学年が上がればより専門的な勉強が出来るようになるから頑張ってみる」
「そうか。レミリアはちゃんと将来のことを考えていてすごいな」
アルフは感心の表情を見せるが、身一つで軍に入ってそこから実力で近衛騎士に配属されたアルフの方がすごいと思う。
「アルフだって近衛騎士に入ってそこで昇進してるんだから十分すごいって」
「そうかもしれないな。よし、それならレミリアの卒業までにお互いの目標を頑張って、その時に胸を張って結婚出来るようになりたい」
「うん、分かった」
こうして事件は終わり、新たな私たちの日常が続いていくのである。
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