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エピローグⅠ

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 レティシアが死んでほどなくすると近衛騎士たちがやってきた。私たちが戦っていた周辺はレティシアの魔法で吹き飛ばされ、すり鉢状の大穴が出来ていたのでその騒ぎを聞きつけたのだろう。

「大丈夫だったか!?」
「ああ」

 駆け付けた騎士たちに対してアルフはレティシアの死体を指さす。それを見た騎士たちは驚愕と安堵が混ざった表情を浮かべる。

「我らが束になっても敵わなかった相手を二人で倒したのか」
「よくやった、アルフ」
「これでもうレティシアの悪行に悩まされることもないのか」

 集まって来た騎士たちは次々と私たちに賞賛の言葉をかけてくれる。
 周囲の惨状を見た私は、改めて自分がとんでもない相手を倒したことを実感した。

「そうだな。だが、レティシアに魔力を奪われた者たちはリンダの他にもいるはずだ。まずは彼らを全員見つけ出さなくては。学園に他にも数人いそうだが、もしかしたらそれ以外にもいるかもしれない」
「分かった」

 アルフの言葉に近衛騎士たちは再び走り去っていく。
 二人きりになると、再びアルフは私を見つめる。

「さて、色々あったが事後処理は全部こちらでやっておく。とりあえず今日は帰ってゆっくり休むといい。改めてお疲れ様、そしてありがとう」
「うん、私こそ一緒に来させてくれてありがとう」
「そんなことはない。レミリアがいなければレティシアを倒すことは出来なかった」

 その後私は学園寮に戻った。レティシアとの戦いではほぼ全ての魔力を使い切ったこともあり、私は疲れ果てていた。戦いが終わって緊張から解放されたということもあり、部屋に戻った私はすぐに眠りについてしまった。



 翌日、私が目を覚ますとすでに日が高く昇っており、慌ててベッドから飛び起きる。何で誰も起こしてくれなかったのだろう、これでは遅刻だ、と思ったところでドアの隙間から差し込まれた“本日休校”の紙が眼に入る。考えてみれば、昨日あれだけのことがあったのだから当然だろう。

 続けて私はアルフからのものと思われるメッセージを見つける。そこには“学園にいた闇の種子の被害者は全員保護し、詰め所にいる”と書かれていた。

 私はいても立ってもいられず、すぐに着替えると詰め所に向かう。
 レティシアを倒したとはいえ、その影響で昏睡している人がいるのであれば事件が終わったとは言えない。リンダが闇の種子に手を出していたのは明らかだったが他にも知り合いはいるのだろうか。シルヴィアの時は昏睡で済んでいたけど今回は大丈夫なのだろうか。
 そんな思いが私の心の中をよぎる。

 詰め所に向かうと、すでに私は騎士団の中で有名人になっていたせいか、「レミリアさんですね」と言われてすぐに中に通された。
 案内された部屋にはベッドが十台ほどあり、その上に五人の人物が眠っている。そのうちの四人は学園の制服を着ているが、リンダ以外は私の知らない人だった。おそらくは先輩か後輩だろう。後輩はまだ入学したばかりだが。そして一人、生徒ではなさそうな少年がベッドに眠っていた。

 そして部屋ではアルフが座って番をしており、私を見ると声をかけてくる。

「レミリアか。現状保護出来たのはこの五人だ。もっとも、この他に被害者がいるのかどうかも分からないがな。そもそも」

 そこでアルフは苦い表情で一瞬言葉をきる。

「今回の人を被害者、と呼称するのが適切なのかも分からないが」
「……」

 レティシアがどういう誘い方で種子を渡したのかは分からないが、やっていたことは紛れもなく犯罪である。もちろん何も知らずに手を出したのであれば罪に問われるかは微妙だが、魔力が上がる魔法の物質を知らない人に急に手渡される、という状況で何も思わない人はいないだろう。

「やっぱり皆罪に問われるのかな」
「どうだろうな。貴族の出身であれば、家が自主的に何かの措置をしてそれで終わるような気もするが」

 いいことなのか悪いことなのかはさておき、貴族の子女は多少の悪事を働いても家の中や貴族社会での地位は下がるが、罪に問われることは少ない。男であれば継承順位が下がり、女であれば嫁ぎ先のランクが下がる。
 とはいえ、別にリンダたちが無実になって欲しいかと言われるとそれももやもやする。

 そんなことを考えていると、不意に近くのベッドで寝ていたリンダが、んん、と身じろぎする。

「リンダ!?」

 思わず私は声をあげてしまう。

「あれ、ここは……」

 リンダはゆっくりと目を開いて周囲を見回す。

「大丈夫?」
「うん、何か頭がくらくらするけど大丈夫。それより私……」

 そこでリンダは何があったのか思い出したようで、一気に暗い表情になる。私の姿を見ると、しゅんとうなだれた。
 私はあまり答えを聞きたくはなかったが、それでもリンダに尋ねる。

「リンダは本当にレティシアに何かをもらったの?」
「うん。私、せっかくレミリアさんに魔法を教えてもらっているのに全然上達できなくて、それでミラばかりが上達していくのが辛くて……でも結果的にこんなことして、一番迷惑だよね」

 リンダの目から涙がこぼれる。
 そんな彼女に対して私はどんな言葉をかけていいか分からなかった。とはいえ今の彼女は心底申し訳なさそうにしている。それなら私からこれ以上責める必要はないだろう、と思った。

「とりあえず無事で良かった」
「ありがとう」

 やがてリンダはまだ体調が本快していなかったからか、すぐに目を閉じてしまった。

「そう言えばシルヴィアはずっと昏睡していたけどリンダはすぐに目を覚ましたけど、どうしてなんだろう」
「神官に訊いたところ、シルヴィアの場合は闇の種子と彼女の結びつきが強固だったからダメージも大きかったかららしい。種子をもらってから回収されるまでの時間と、何よりシルヴィアは闇の種子と相性が良かったんだろうな」
「なるほど」

 何となくそれは分かる気がした。どうしても力に執着したシルヴィアはただ、「ちょっと魔法がうまくなりたい」と思っただけのリンダよりも深く種子と結びついてしまったのだろう。

 そこへ部屋に足音が近づいて来て、数人の騎士が入ってくる。そのうちの一人は他の騎士たちよりも階級が上そうだ。年齢は四十ほどで、いかつい顔つきをしている。そんな男が私に話しかけてくる。

「あなたがレミリアさんか」
「は、はい」
「我が名は王国近衛騎士団長のガルド。このたびは我らでさえ手を焼いていた重要指名手配犯であるレティシアの討伐に協力していただき誠に感謝する。いずれ正式に金褒章を授与させていただこうと思うが、取り急ぎ礼を述べさせてもらう」
「あ、ありがとうございます」

 驚いて声が裏返りそうになってしまう。まさか近衛騎士団長直々に礼を言われるとも思わなかったが、金褒章をもらうというのはもっと予想外だった。

 褒章というのは特別に功績があった人物に与えられるものであるが、その中にも金・銀・銅の三つのランクがある。言うまでもなく金褒章は一番ランクが高く、年に一人か二人ほどにしか授与されない。これまで授与されてきたのは強い魔物を倒した冒険者や、過去に王宮の建設を指揮した大工の棟梁などであり、平民でも金褒章を持っていれば貴族にひけをとらない名誉があると言われている。
 これまで無縁だと思っていたものを急に授与されると決まり、私は一気に緊張した。

「おめでとう」

 隣からアルフが穏やかな声色で言ってくれて、それでようやく私は心が少しほぐれた。

「これからも自分の道を信じて進み、活躍することを願う」

 そう言ってガルドは一礼するとその場を離れた。
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