学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃

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VSレティシア Ⅱ

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「今すぐ両手を上げてその場に膝を突け!」

 が、アルフの声をレティシアは一笑に付した。

「使い魔であなた方の動きは見ていたから本当は逃げても良かったんだけど、いい加減追いかけっこも面倒になったからここで決着をつけてあげる。ここにある物はある程度まとめて持ち出さないと研究も続けられないし」

 彼女は私たちが二人であることを見て勝てると思ったのか、余裕を崩さなかった。

 このまま戦いが始まりそうな雰囲気になったが、私はレティシアのことが許せなかった。シルヴィアはともかく、リンダのような無垢な生徒に闇の力を使うよう唆したことに私は強い怒りを覚えていた。
 だから戦いの前にどうしてもそのことを問い詰めておきたかった。

「レティシア! あなたのやっていることはシルヴィアのような邪悪な心を持つ人をそそのかして悪事を働かせたり、リンダのように悩んでいる人を破滅の道に引きずり込んだりしていること。一体何でそんなことをするの?」

 私の言葉にこれまで冷笑を浮かべていたレティシアもすっと真顔になる。

「あなたも腕のある魔術師だから知っているでしょう? 魔法というのは生まれ持った魔力の差でおおむね限界が決まってしまう。例えば、あなたのように才能ある人物と、シルヴィアのように才能のない人間が同じだけ努力しても、使える魔力には圧倒的な差が出てしまう。つまり不平等な世界なの」
「……」

 残念ながら、レティシアの言葉は紛れもない事実であった。

「私はそれを覆したかった。そのためにはどんな方法を用いてもね」
「でもそのために闇魔術を用いるなんて間違っている。そんなことをしてもその差は埋まらないし、破滅するだけ!」
「あなたも知っていると思うけど、魔力というのはある程度遺伝で持つ量が決まる。名門貴族であればあるほど、魔力をたくさん持って生まれてくる確率は高い。そして貴族は貴族同士で婚姻する。あなたも身を持って知っているでしょう? 有力貴族は皆魔力の高い伴侶を求めるって」

 そう言われて私はオルクのことを思い出す。オルク、というよりは彼の家は私とオルクの間に魔力をたくさん持った世継ぎが生まれることを期待したのだろう。
 私はそれを当たり前のことだと思っていたし、自分がそれで得をしているとも思わなかったし、むしろ政略結婚の被害者だとすら思っていたが、確かに見方を変えれば魔力を持っているだけましな方だとも言える。そして当たり前だと思っていたことは見方を変えれば歪んでいるようにも思えてくる。

「つまりこの魔力の不平等というのは、貴族制度が続く限りずっと固定されていくものなのよ。魔力のあるなしが偶然で決まるならまだしも、こんなこと納得できるかしら?」

 レティシアの言葉に私は唾を飲み込む。私は魔力に恵まれていたから考えてこなかったことだ。

「とはいえさすがの私も革命を起こして貴族制度を壊すことは出来ない。だから別の方法でこの魔力格差を打開しようと考えた」
「あなたも生まれつきの魔力が少ないの?」

 この質問は話の流れで尋ねたというのもあるし、相手の戦力を把握したかったから、というのもある。

「そうよ、そもそも私は貴族じゃないし。私は自分で言うのもなんだけど、頭が良かったから理論を組み立てることは得意だった。でも自分で試すことが出来ない以上、それは魔力がある人に託すしかない。でもそれは自分の手柄を他人に譲ることになってしまう。別に手柄が欲しい訳ではないけど、私が発明した技術を貴族に独占されるのでは意味がない。そこで私は足りない魔力を補う方法を考えた。それが闇魔術だった」
「そこでもっと他の手段をとればもう少し共感出来たんだけどね」
「他の手段なんてある訳ないわ」

 レティシアは私の言葉を一笑した。私も今すぐ他の手段を思いつく訳でもないが、あのようなものを完成させる能力があるのであればもっと別な手段もあったのではないか、と思わざるを得ない。

「それに破滅っていうのも闇魔術が違法だから破滅しているだけ。合法化してくれればいいだけよ。今回だって、別に彼女をそっとしておいてもらえれば私もあんな回収はしなかったわ。どうせ闇魔術が横行すると魔力がない者でも魔法が使えるようになるから、既得権益を維持したい貴族たちがきれいごとの理由を並べて禁止しているだけでしょう?」
「違う、闇魔術は魔術の中でも特に危険だったり、人間の死体を使っていたりするから!」

 レティシアの言うことが一部とはいえ当たっているのが不快になり、私は必死で反論する。こんな悲惨なことを巻き起こしているというのに、彼女の言うことが正しいだなんてことは我慢がならなかった。
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