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Ⅲ
闇の種子
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それから数日後のこと。放課後、教室でクラスメイトとおしゃべりしていると、不意にアルフが教室に入って来て私の元に歩いて来る。それを見て周囲に女子が黄色い歓声を上げる。違うクラスや学年の男子と付き合っている女子に彼氏側がお迎えに来たときのような反応で、大分恥ずかしい。
が、アルフはそれらを一向に気にせず私に声をかけた。
「レミリア、少し話があるから来てくれないか?」
「う、うん」
周りの女子たちは口にこそ出さないが、祝福の目でこちらを見てくる。そしてにこにこと手を振って送り出してくれた。恥ずかしい。
「もうちょっと人目とか考えてよ」
教室を出ると私は小声で抗議する。
「悪い悪い。実は教会から闇の種子についての調査が進んだという報告があったから教えようと思ってな」
「本当!?」
それを聞いて先ほどまでの浮ついた気持ちはどこかに飛んでいってしまう。
あの事件以来教会に運ばれたシルヴィアはずっと昏睡しており、彼女の体内にあった闇の種子については教会の上層部や凄腕の魔術師が集まって調査を続けていたとは聞いていたが、ついに進展があったらしい。
「今から時間大丈夫か?」
「もちろん」
こうして私たちは久し振りに教会へと急ぐことになったのである。
教会に着くと、前と同じ部屋に通され、前回私たちと話した司祭とミラが待っていた。中央のテーブルには紅茶とケーキが置かれているが、手をつける気にはなれない。
「まずは闇の種子についての調査結果をお伝えしましょう」
私たちが席に座ると司祭が口を開く。
「闇の種子は簡単に言えば、体内に取り込むことで種子の中に込められていた闇の魔力を宿主が得るというものです。しかしその仕組みは複雑で、種子は取り込まれた瞬間から宿主に対して根を張るのです。根というのは例えですが、要は魔法的な繋がりだと思ってください。そしてその繋がりを通じて種子と宿主の魔力が共有されるのです。とはいえ、全く魔法の素養がない者であればそもそも種子が体に馴染む、繋がりを作るのにも時間がかかるでしょう。そして魔力が低い者が種子を取り込むと、急激な闇の魔力の増加で体調が悪くなったり、魔力が暴走したりしてしまうものです」
「そう言えば取り込んだ直後のシルヴィアもふらふらしていたな」
アルフが思い出しながら言う。
「とはいえその程度で済んだのはシルヴィアに確固たる意志があったからでしょうな。さて、シルヴィアに根を張った闇の種子ですが、彼女が倒れると急にシルヴィアの体から魔力を吸い上げたのです。もしかすると元から種子は宿主の魔力を吸い上げる性質があって、シルヴィアが意識を失い抵抗力が弱まったのがトリガーとなってそのタイミングで発動したという可能性もあります。いずれにせよそこでシルヴィアの魔力は種子に吸われ、そして種子は消滅し、彼女のほぼ全ての魔力はそのままレティシアに吸い取られていったという訳です」
「なんと」
そこで私はようやくレティシアの意図を理解した。これまではただの愉快犯か気の狂った人物だと思っていたが、どうも裏にはきちんとした目的があったらしい。もしも闇の種子を使って複数人の魔力を集めることが出来ればすごい力になるだろう。そしてその力を使って、さらに危険なことをするかもしれない。
それを聞いてアルフも表情をこわばらせる。
「それが目的だったということは、今後もレティシアは王都に留まり、魔力を吸い上げる可能性はあるな」
何せ学園に通う生徒は一般の人よりも平均的な魔力が高い。その上子供が多いからシルヴィアのように罠にも引っ掛かりやすいだろう。レティシアが魔力集めをしているのであれば最適な狩場である。
「と言う訳です。ミラにも同席してもらったのは今後再び学園が標的になる可能性がある以上、警戒していて欲しかったからです」
「わ、分かりました」
ミラが固い表情で頷く。
「ちなみにシルヴィアは?」
「特に容態の変化はありません。時間が経って魔力は回復したが、体内に急速に根を張った種子が急速に消滅し、そのショックで昏睡が続いているというところでしょう。地中深く根を張った植物を一気に引っこ抜くようなものです。もっと長い時間が経ち、完全に体に同化していれば無事では済まなかったでしょうが……。とはいえ、おそらくそのうち起きてくるはずです。治すことも出来ますが我らも処遇を決めかねていましてな」
司祭が少し困ったように言う。レティシアの件が落ち着くまでは、言い方は悪いがシルヴィアはもっとも重要な被験体と言える。眠っていてもらうのが一番ありがたいと言ったところだろう。
「今度はこちら側から聞きますが、学園では何か怪しい動きはありましたか?」
「いや、今のところはない。レミリアは?」
司祭の問いにアルフはこちらを見る。
今のところは平穏そのものだったし、これからは平和が続くのかと思っていたが今の話を聞いていつ何時レティシアの魔の手が忍び寄るのか、と緊張してしまう。
「今のところ特には」
「まあさすがにこんなにすぐ仕掛けてくることはないということでしょうか。引き続き気を付けていただきたいです」
「分かった」
司祭の言葉に私たちは緊張した面持ちで頷いた。
が、アルフはそれらを一向に気にせず私に声をかけた。
「レミリア、少し話があるから来てくれないか?」
「う、うん」
周りの女子たちは口にこそ出さないが、祝福の目でこちらを見てくる。そしてにこにこと手を振って送り出してくれた。恥ずかしい。
「もうちょっと人目とか考えてよ」
教室を出ると私は小声で抗議する。
「悪い悪い。実は教会から闇の種子についての調査が進んだという報告があったから教えようと思ってな」
「本当!?」
それを聞いて先ほどまでの浮ついた気持ちはどこかに飛んでいってしまう。
あの事件以来教会に運ばれたシルヴィアはずっと昏睡しており、彼女の体内にあった闇の種子については教会の上層部や凄腕の魔術師が集まって調査を続けていたとは聞いていたが、ついに進展があったらしい。
「今から時間大丈夫か?」
「もちろん」
こうして私たちは久し振りに教会へと急ぐことになったのである。
教会に着くと、前と同じ部屋に通され、前回私たちと話した司祭とミラが待っていた。中央のテーブルには紅茶とケーキが置かれているが、手をつける気にはなれない。
「まずは闇の種子についての調査結果をお伝えしましょう」
私たちが席に座ると司祭が口を開く。
「闇の種子は簡単に言えば、体内に取り込むことで種子の中に込められていた闇の魔力を宿主が得るというものです。しかしその仕組みは複雑で、種子は取り込まれた瞬間から宿主に対して根を張るのです。根というのは例えですが、要は魔法的な繋がりだと思ってください。そしてその繋がりを通じて種子と宿主の魔力が共有されるのです。とはいえ、全く魔法の素養がない者であればそもそも種子が体に馴染む、繋がりを作るのにも時間がかかるでしょう。そして魔力が低い者が種子を取り込むと、急激な闇の魔力の増加で体調が悪くなったり、魔力が暴走したりしてしまうものです」
「そう言えば取り込んだ直後のシルヴィアもふらふらしていたな」
アルフが思い出しながら言う。
「とはいえその程度で済んだのはシルヴィアに確固たる意志があったからでしょうな。さて、シルヴィアに根を張った闇の種子ですが、彼女が倒れると急にシルヴィアの体から魔力を吸い上げたのです。もしかすると元から種子は宿主の魔力を吸い上げる性質があって、シルヴィアが意識を失い抵抗力が弱まったのがトリガーとなってそのタイミングで発動したという可能性もあります。いずれにせよそこでシルヴィアの魔力は種子に吸われ、そして種子は消滅し、彼女のほぼ全ての魔力はそのままレティシアに吸い取られていったという訳です」
「なんと」
そこで私はようやくレティシアの意図を理解した。これまではただの愉快犯か気の狂った人物だと思っていたが、どうも裏にはきちんとした目的があったらしい。もしも闇の種子を使って複数人の魔力を集めることが出来ればすごい力になるだろう。そしてその力を使って、さらに危険なことをするかもしれない。
それを聞いてアルフも表情をこわばらせる。
「それが目的だったということは、今後もレティシアは王都に留まり、魔力を吸い上げる可能性はあるな」
何せ学園に通う生徒は一般の人よりも平均的な魔力が高い。その上子供が多いからシルヴィアのように罠にも引っ掛かりやすいだろう。レティシアが魔力集めをしているのであれば最適な狩場である。
「と言う訳です。ミラにも同席してもらったのは今後再び学園が標的になる可能性がある以上、警戒していて欲しかったからです」
「わ、分かりました」
ミラが固い表情で頷く。
「ちなみにシルヴィアは?」
「特に容態の変化はありません。時間が経って魔力は回復したが、体内に急速に根を張った種子が急速に消滅し、そのショックで昏睡が続いているというところでしょう。地中深く根を張った植物を一気に引っこ抜くようなものです。もっと長い時間が経ち、完全に体に同化していれば無事では済まなかったでしょうが……。とはいえ、おそらくそのうち起きてくるはずです。治すことも出来ますが我らも処遇を決めかねていましてな」
司祭が少し困ったように言う。レティシアの件が落ち着くまでは、言い方は悪いがシルヴィアはもっとも重要な被験体と言える。眠っていてもらうのが一番ありがたいと言ったところだろう。
「今度はこちら側から聞きますが、学園では何か怪しい動きはありましたか?」
「いや、今のところはない。レミリアは?」
司祭の問いにアルフはこちらを見る。
今のところは平穏そのものだったし、これからは平和が続くのかと思っていたが今の話を聞いていつ何時レティシアの魔の手が忍び寄るのか、と緊張してしまう。
「今のところ特には」
「まあさすがにこんなにすぐ仕掛けてくることはないということでしょうか。引き続き気を付けていただきたいです」
「分かった」
司祭の言葉に私たちは緊張した面持ちで頷いた。
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