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Ⅱ
決着
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床に倒れたシルヴィアの魔力は私たちが止める間もなく全て噴き出していく。私が魔力を奪い返した時はとられた分を奪い返して終わったが、今は明らかにシルヴィアが元から持っていた魔力まで吸われているように見える。
そして彼女の体はまるで数日間何も食べていなかったかのようにしぼんでしまった。
「何だこれは」
それを見てアルフは絶句するが、私も何が何だかわからなかった。シルヴィアは脈はあるようだが、ほぼ昏睡状態に見える。
もしやこれは闇の種子の副作用のような何かなのだろうか。
「どうしよう」
「とりあえず彼女を警戒しつつここで待とう。じきにレティシアを捕まえた騎士団がやってくるはずだ。その際に彼女を引き渡そう」
「そうだね」
昏睡しているとはいえ、体内に闇の種子という謎の物体が入っている以上何かの拍子に力を取り戻す可能性はある。
こうして私たちは破壊しつくされた寮で騎士団を待つことにした。
そこで私はふと思う。
「これでとりあえずシルヴィアは倒した訳だし、レティシアもじきに捕まると思うけど、そうなればアルフはどうなるの?」
私の問いにアルフも少し複雑そうな表情に変わる。
「恐らくではあるが任務が終われば学園から離れることになるだろう」
「そっか。行ってしまうのか」
「僕はそもそも学生ではないからな。とはいえレミリアも力を取り戻したし、クラスでもうまくやっている。僕がいなくても大丈夫じゃないか?」
「そんなことない!」
そう言い返したもののアルフもどことなく浮かない表情で、私たちは同じ気持ちであることが伝わってくる。仕方がないとはいえ、せっかくクラスに気ごころが通じて、しかも一緒に困難を乗り越えた相手が出来たと思ったのにすぐにいなくなってしまうのは寂しいことだ。
が、そんなしんみりしていた時だった。どたどたという足音とともに一人の騎士が駆け込んでくる。見ると鎧はぼろぼろであちこちから血を流している。まるで敗戦後のようだ。
アルフはその姿にぎょっと目を見開いて尋ねる。
「どうしたんだ!?」
「レティシアを取り逃がした」
その言葉を聞いて私たちは一気に凍り付く。
一拍置いてアルフが信じられない、という表情で反論する。
「何だと!? 騎士団は三十名ほどが出陣して彼女を包囲したと聞いているが!?」
「ああ。だが彼女が張った闇魔法の防御を誰も破ることが出来ず、囲んだ俺たちが逆に一方的にやられていったんだ」
「なぜだ。騎士団の装備は耐魔法加工を施しているはずだ」
「それでも効かなかったということだ」
「そういえば……」
そこでアルフは最初にシルヴィアを斬りつけようとして弾き飛ばされたことを思い出す。騎士団、ということはアルフの剣にも同じ加工が施されているということだろう。それでも正面から戦うと吹き飛ばされたということは、レティシアが使う闇魔術はかなり強度が高いものに違いない。そう考えると私がどうにか立ち回れたのはシルヴィアが闇魔術に不慣れだったからかもしれない。
「だが、だからといってそこまで一方的にやられることがあるか?」
「それだけではない。彼女が用いた精神操作の魔法は俺たちの心を操り、同士討ちさせた」
精神操作系の魔法に対する耐性は人によってばらつきはあるが、訓練であることはある程度上げることが出来る。当然騎士団はある程度高いはずだ。その騎士団員に精神操作をかけることが出来るというのはよほどのことだろう。そのことを考えるとどんどん恐ろしくなっていく。
「……。それでレティシアは?」
「分からない。恐らくはどこかに逃げただろうが、その間際に『この素晴らしい闇魔術をもっと広めてやる』というようなことを言っていた」
「何だと」
その言葉に私たちは思わず顔を見合わせる。シルヴィアに渡った種子一つでもここまで凄まじい結果になったのに、それが拡散すればこの国は滅茶苦茶になるかもしれない。しかもその親玉であるレティシアが騎士団三十人で囲んでも返り討ちに遭うほどの強さとなればなおさらだ。
「とりあえず我らは闇魔術に対する装備の開発と、魔術師たちへの協力を要請しようと思う。しかしその様子だとシルヴィアには勝ったんだな?」
「ああ、だが様子がおかしい」
そう言ってアルフは依然昏睡している彼女を指さす。
「おそらく闇の種子の影響だろうが、それについても調べて欲しい」
「分かった。とりあえず彼女は神殿に搬送しよう」
そう言って彼は同じく傷ついた仲間たちとともにシルヴィアを神殿に運んでいく。それを見てぽつりとアルフはつぶやく。
「大変なことになってしまったな」
「そうだね。でも、もし本気でレティシアが闇魔術をばらまくのであればまた王都、というか学園にくると思う」
「どうしてだ?」
「だって学園には魔法が使えないとか成績が悪いとかコンプレックスを抱えた生徒が多いから。それに皆ある程度裕福だから、売りつければ元もとれると思う」
それが私が一年の間に学園で知った現実だった。
「なるほど」
また、ある程度魔術の素養がある子供が多いので教わった闇魔術を開花させやすいというメリットもある。
とはいえそういう理屈よりはレティシアに対する予感めいたものがあったというのが本音だ。
「分かった。その感じだと僕はまだ学園にいなければならないかもしれないな。もっとも、もう正体がばれてしまったから生徒ではいられないが」
「それは確かに」
先ほど寮にくるときにアルフは名乗りながら突入したので一部の生徒はアルフが実は近衛騎士だったことを知ってしまっている。もはや潜入という形をとる必要もないが、どういうふうになるのだろうか。
どういう形であれ、彼が学園に居続けてくれると嬉しいのだが。
こうしてレティシア事件は第一幕が終わり、次へと進むことになったのである。
そして彼女の体はまるで数日間何も食べていなかったかのようにしぼんでしまった。
「何だこれは」
それを見てアルフは絶句するが、私も何が何だかわからなかった。シルヴィアは脈はあるようだが、ほぼ昏睡状態に見える。
もしやこれは闇の種子の副作用のような何かなのだろうか。
「どうしよう」
「とりあえず彼女を警戒しつつここで待とう。じきにレティシアを捕まえた騎士団がやってくるはずだ。その際に彼女を引き渡そう」
「そうだね」
昏睡しているとはいえ、体内に闇の種子という謎の物体が入っている以上何かの拍子に力を取り戻す可能性はある。
こうして私たちは破壊しつくされた寮で騎士団を待つことにした。
そこで私はふと思う。
「これでとりあえずシルヴィアは倒した訳だし、レティシアもじきに捕まると思うけど、そうなればアルフはどうなるの?」
私の問いにアルフも少し複雑そうな表情に変わる。
「恐らくではあるが任務が終われば学園から離れることになるだろう」
「そっか。行ってしまうのか」
「僕はそもそも学生ではないからな。とはいえレミリアも力を取り戻したし、クラスでもうまくやっている。僕がいなくても大丈夫じゃないか?」
「そんなことない!」
そう言い返したもののアルフもどことなく浮かない表情で、私たちは同じ気持ちであることが伝わってくる。仕方がないとはいえ、せっかくクラスに気ごころが通じて、しかも一緒に困難を乗り越えた相手が出来たと思ったのにすぐにいなくなってしまうのは寂しいことだ。
が、そんなしんみりしていた時だった。どたどたという足音とともに一人の騎士が駆け込んでくる。見ると鎧はぼろぼろであちこちから血を流している。まるで敗戦後のようだ。
アルフはその姿にぎょっと目を見開いて尋ねる。
「どうしたんだ!?」
「レティシアを取り逃がした」
その言葉を聞いて私たちは一気に凍り付く。
一拍置いてアルフが信じられない、という表情で反論する。
「何だと!? 騎士団は三十名ほどが出陣して彼女を包囲したと聞いているが!?」
「ああ。だが彼女が張った闇魔法の防御を誰も破ることが出来ず、囲んだ俺たちが逆に一方的にやられていったんだ」
「なぜだ。騎士団の装備は耐魔法加工を施しているはずだ」
「それでも効かなかったということだ」
「そういえば……」
そこでアルフは最初にシルヴィアを斬りつけようとして弾き飛ばされたことを思い出す。騎士団、ということはアルフの剣にも同じ加工が施されているということだろう。それでも正面から戦うと吹き飛ばされたということは、レティシアが使う闇魔術はかなり強度が高いものに違いない。そう考えると私がどうにか立ち回れたのはシルヴィアが闇魔術に不慣れだったからかもしれない。
「だが、だからといってそこまで一方的にやられることがあるか?」
「それだけではない。彼女が用いた精神操作の魔法は俺たちの心を操り、同士討ちさせた」
精神操作系の魔法に対する耐性は人によってばらつきはあるが、訓練であることはある程度上げることが出来る。当然騎士団はある程度高いはずだ。その騎士団員に精神操作をかけることが出来るというのはよほどのことだろう。そのことを考えるとどんどん恐ろしくなっていく。
「……。それでレティシアは?」
「分からない。恐らくはどこかに逃げただろうが、その間際に『この素晴らしい闇魔術をもっと広めてやる』というようなことを言っていた」
「何だと」
その言葉に私たちは思わず顔を見合わせる。シルヴィアに渡った種子一つでもここまで凄まじい結果になったのに、それが拡散すればこの国は滅茶苦茶になるかもしれない。しかもその親玉であるレティシアが騎士団三十人で囲んでも返り討ちに遭うほどの強さとなればなおさらだ。
「とりあえず我らは闇魔術に対する装備の開発と、魔術師たちへの協力を要請しようと思う。しかしその様子だとシルヴィアには勝ったんだな?」
「ああ、だが様子がおかしい」
そう言ってアルフは依然昏睡している彼女を指さす。
「おそらく闇の種子の影響だろうが、それについても調べて欲しい」
「分かった。とりあえず彼女は神殿に搬送しよう」
そう言って彼は同じく傷ついた仲間たちとともにシルヴィアを神殿に運んでいく。それを見てぽつりとアルフはつぶやく。
「大変なことになってしまったな」
「そうだね。でも、もし本気でレティシアが闇魔術をばらまくのであればまた王都、というか学園にくると思う」
「どうしてだ?」
「だって学園には魔法が使えないとか成績が悪いとかコンプレックスを抱えた生徒が多いから。それに皆ある程度裕福だから、売りつければ元もとれると思う」
それが私が一年の間に学園で知った現実だった。
「なるほど」
また、ある程度魔術の素養がある子供が多いので教わった闇魔術を開花させやすいというメリットもある。
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「分かった。その感じだと僕はまだ学園にいなければならないかもしれないな。もっとも、もう正体がばれてしまったから生徒ではいられないが」
「それは確かに」
先ほど寮にくるときにアルフは名乗りながら突入したので一部の生徒はアルフが実は近衛騎士だったことを知ってしまっている。もはや潜入という形をとる必要もないが、どういうふうになるのだろうか。
どういう形であれ、彼が学園に居続けてくれると嬉しいのだが。
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