学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃

文字の大きさ
上 下
22 / 41

シルヴィアと闇の種子

しおりを挟む
 それからもエマによるシルヴィアへのいじめは継続的に続いた。
 どうも彼女は常に誰かを標的にしていないと気が済まない性格のようで、レミリアという獲物を失った今、シルヴィアが完全にその代わりとなっていた。
 とはいえあまり大っぴらにやるとレミリアの心証が良くないということを感じているのだろう、彼女の嫌がらせはより陰湿になっていった。

「嘘」

 その日もシルヴィアが授業のために教科書を取り出そうと鞄を開けると、中は何かの動物のフンでまみれていた。しかも鞄を開けると臭いがあふれ出してしまうため、シルヴィアは慌てて閉め直す。

 とはいえそんなことがあっても授業は普通に始まる。
 教科書を取り出せないシルヴィアは仕方なく何もなしで授業を受ける。当然貸してくれる相手もいない。

「……それでは教科書のこの部分について説明してみてください、シルヴィアさん」

 やがてシルヴィアは先生に当てられる。

「すみません、教科書を忘れたので答えられません」
「教科書を忘れるなんて気が緩んでいますよ。もっとまじめに授業に取り組んでください」

 先生の言葉に、教室内から失笑が広がる。
 特にエマやその一派は露骨にシルヴィアを見て嘲笑した。
 それでも彼女は言い返すこともやり返すことも出来ない。

 そしてこんな嫌がらせは毎日のように続いた。

 何であんな奴なんかにこんなことをされなければいけないのか。どうにかしてまた力を手に入れ、すっかりクラスに溶け込んでいるレミリアや偉そうにいじめをしてくるエマを見返したい。

 そう思ったシルヴィアは気が付くと再び例の裏路地に足を運ぶのだった。
 一日目では再会出来なかったが、それでも彼女は毎日寮の門限いっぱいまで裏路地をふらふらした。
 足を運び続けてから数日後、ようやく彼女の前に再び黒ローブの人影が現れる。

「可哀想なお嬢ちゃん、もう私には連絡しないよう言ったと思うけど」
「……もう一回私に力をください!」

 シルヴィアは万感をこめて頼み込む。もはや彼女にとって今の状況を好転させるにはそれしかなかった。
 が、謎の女レティシアの答えは少し意外なものだった。

「それはいいけどお嬢ちゃん、気づいている? つけられているけど」
「え?」

 レティシアの指摘にシルヴィアは驚く。すぐに後ろを振り返ってみるが、残念ながら素人のシルヴィアには尾行者の気配は分からなかった。

「だから本当はもう会うつもりはなかったけど、あまりにしつこいから危険を覚悟で応じてしまったわ」
「それは……ありがとう?」
「このまま私があなたに何かを渡すと、すぐに見つかってしまう。それでもいい?」
「そんなこと、もうどうでもいい!」

 すでに今の状況は最悪だし、レミリアから魔力を奪った件だってそのうち露見するかもしれない。
 そんなシルヴィアの言葉にレティシアは苦笑する。

「ふうん、私はあなたのことずっと見ていたからその気持ちも分からなくはないけどね。それにこちらとしても新作を試してみたいし」

 そう言ってレティシアは新しい小箱を取り出す。開くと、そこには禍々しい瘴気を放つ黒い種子のようなものが入っていた。

「これは……何?」
「いわゆるヤドリギみたいなもの。所有者に根を張り、宿主と一体化して育つ。代わりに溢れんばかりの闇の魔力を発してくれる。体に異常はあるかもしれないけど、これで望んだ力が手に入るわ」
「ありがとう」

 そう言ってシルヴィアはためらいなく種子を指で掴むと、口の中に入れる。

「なかなか勇気があるじゃない」
「うっ」

 種子を口に含んだ瞬間、身体の奥からむせ返るような瘴気が噴き出し、あまりの気持ち悪さにシルヴィアはその場にしゃがみこむ。さらに身体の奥から強烈な異物感が込み上げてくる。思わずその場に吐いてしまうが、吐いたものはどす黒く染まっていた。
 それを見てシルヴィアは自分が口に入れたものがそういう類のものであることをはっきりと実感する。もちろん、だからといって後悔はなかったが。

「はい」

 レティシアが渡してくれた水筒の水を飲むと、幾分か落ち着いて来る。お腹の中の何かが自分に馴染んでくるようだ。

「じゃあ、帰り道は気を付けてね」
「うん」

 そう言ってシルヴィアはよろよろと帰路につくのだった。
 その後ろ姿を見送りながらレティシアはため息をつく。

「あの子は闇の種子と相性は良さそうだけど、これではきっとすぐ捕まってしまいそうね。返り討ちにしてくれたら嬉しいけど、どうかしら。さて、これで所在がばれてしまった以上、私も面倒な犬たちの相手をする準備を始めないといけないわね」

 そう言ってレティシアは裏路地の奥に姿を消した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

処理中です...