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Ⅱ
休み明け
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それから数日して春休みが終わり、二年目が始まった。春休み中、私は大した変化はなかったが、アルフはシルヴィアの調査を進めていた。シルヴィア自身には大きな動きがなかったものの、彼女が昔よく行っていた裏路地のいかがわしい魔道具屋など周辺への調査を強化しているという。
ただしその辺りには盗品や非合法な物品を売買する店が多く、関係ない店の違法行為が明らかになるばかりで肝心の調査はなかなか進まないとのことだった。
一方の私は二年生が始まったからといってこれといって大きな変化がある訳ではない。終業式でシルヴィアが恥辱を晒したとはいえ、それが私にとって何か変化をもたらす訳でもなかった。他の生徒たちも私の不正が風評によるものだったことを悟ったものの、腫物に扱うように遠巻きにされるだけだった。
そんな私の生活が一変したのは最初の魔法の授業の日のことである。
今回習ったのは風を操る魔法だった。
「……と言う訳で、皆さん実演してみましょう」
先生の言葉に従って生徒たちは校庭で思い思いに魔法を使い始める。と言ってもほとんどの生徒はそよ風を起こしてその辺に落ちている葉っぱや木の実を浮かせる程度である。
そんな中、私は校庭の隅で一人突風を起こしていた。シルヴィアから取り戻した魔力はすっかり回復し、私は思い通りに風を操ることが出来るようになっていた。
とはいえ、いくら出来るようになったからといって大きなものを動かすのは危ない。仕方ないので私は風を操って自分の身体を浮かせる。
「ウィンド」
最初は突然重力を失ったようで頼りない感覚だった。バランスを崩した時に手足を動かしてもまるで意味がない。風を操っても手足と違うため、強弱や方向の調整が難しい。それでも繰り返していくうちに徐々に感覚がなじんでいく。気が付くと私は空中を自由に飛べるようになっていた。
「ねえ、あれ」
そんな私を見て女子の一人が声を上げる。その声に釣られて自由に練習していた女子たちがこちらを見る。
「本当だ」
「やっぱりレミリアさんのあれは不正とかではなかったんじゃない?」
「試験の日はたまたま体調が悪かっただけでこちらが本来の実力なんじゃ」
あまりの手の平返しの速さに唖然としてしまうが、彼女らは私に対して好意的な視線を向けてくるので文句も言いづらい。それに、シルヴィアの件があった時も別に全員が私に悪意を抱いていた訳ではなく、ほとんどの生徒はシルヴィアやエマに嫌われないように態度を合わせていただけかもしれない、と思うことにする。
そんな中、何人かの女子がこちらへ歩いて来る。彼女らは元々私とあまり関りがなかったグループで、話したこともないけど嫌がらせも多分されていない。
「あの、レミリアさん」
「何?」
遠慮がちに声をかけられ、私は地面に降り立って答える。
「この間の試験はきっと何か事情があったんだよね? それなのに不正だったっていうのを信じてごめんなさい」
「ああ、うん、いいけど」
私は複雑な気持ちで答える。
「でも本当にすごいね、風魔法で自分を飛ばせられるなんて。私も空飛んでみたいからうらやましいな」
「じゃあやってみる?」
私は何となく答えてしまってはっとする。もしかしたらクラスメイトと普通に話すことがこれまであまりなかったので無意識のうちにテンションが上がっていたのかもしれない。
「いいの!?」
彼女は目を輝かせて言う。そこまで喜んでくれるならまあいいか、という気持ちになる。
「うん。ウィンド」
私が呪文を唱えると、彼女の周りに風が現れ、やがて少し地面から浮き上がる。他人なのであまり上空に飛ばすことは出来ないが、地面から数センチ浮かせたままその周りを飛びまわらせる。
だが、それだけでも彼女らはとても喜んでくれた。
「わあ、すごい、本当に飛んでる!」
「本当はもっと高く飛ばせられると思うけど、落ちたら危ないからこれぐらいにしておくね」
「ううん、飛べるだけでもうれしい!」
「あの、レミリアさん、私もお願い!」
「じゃあ次ね」
気が付くと私の前には列が出来ていて私は彼女たちを次々と魔法で飛ばせていく。一人数分ずつ、数センチ飛ばしただけなのに思いのほか喜んでくれて良かった。私としても自分一人で練習するよりもうまく魔力コントロールの練習が出来たと思う。
ふと校庭の隅に目をやると、そこではシルヴィアが元に戻った魔力でひたすらに練習をしていた。しかしシルヴィアの元の魔力は他のクラスメイトと同じ、木の葉を浮かせる程度。それを見た他の女子たちからは「やっぱり試験の時はまぐれだったのか」「ていうか不正したのはシルヴィアの方じゃないか」というささやきが聞こえてくる。
ちなみに、アルフの話によると教師たちはアルフの調査結果が出るまでシルヴィアに対して退学などの処置はしないことになったらしい。シルヴィアが実家に帰ってしまえば調査を続けることは難しいので、いわゆる「泳がせている」という状態だ。
「……ではそろそろ授業を終わります」
「今日はありがとうレミリアさん」
「楽しかった」
「今まであんまり話さなかったけど、もっと話しておけば良かった」
「ううん、こちらこそありがとう」
私は笑顔で手を振り返す。彼女たちも多少周囲に流されやすいだけで悪い人ではなかったらしい。今後はほどほどに仲良く出来たらな、と思うのだった。
ただしその辺りには盗品や非合法な物品を売買する店が多く、関係ない店の違法行為が明らかになるばかりで肝心の調査はなかなか進まないとのことだった。
一方の私は二年生が始まったからといってこれといって大きな変化がある訳ではない。終業式でシルヴィアが恥辱を晒したとはいえ、それが私にとって何か変化をもたらす訳でもなかった。他の生徒たちも私の不正が風評によるものだったことを悟ったものの、腫物に扱うように遠巻きにされるだけだった。
そんな私の生活が一変したのは最初の魔法の授業の日のことである。
今回習ったのは風を操る魔法だった。
「……と言う訳で、皆さん実演してみましょう」
先生の言葉に従って生徒たちは校庭で思い思いに魔法を使い始める。と言ってもほとんどの生徒はそよ風を起こしてその辺に落ちている葉っぱや木の実を浮かせる程度である。
そんな中、私は校庭の隅で一人突風を起こしていた。シルヴィアから取り戻した魔力はすっかり回復し、私は思い通りに風を操ることが出来るようになっていた。
とはいえ、いくら出来るようになったからといって大きなものを動かすのは危ない。仕方ないので私は風を操って自分の身体を浮かせる。
「ウィンド」
最初は突然重力を失ったようで頼りない感覚だった。バランスを崩した時に手足を動かしてもまるで意味がない。風を操っても手足と違うため、強弱や方向の調整が難しい。それでも繰り返していくうちに徐々に感覚がなじんでいく。気が付くと私は空中を自由に飛べるようになっていた。
「ねえ、あれ」
そんな私を見て女子の一人が声を上げる。その声に釣られて自由に練習していた女子たちがこちらを見る。
「本当だ」
「やっぱりレミリアさんのあれは不正とかではなかったんじゃない?」
「試験の日はたまたま体調が悪かっただけでこちらが本来の実力なんじゃ」
あまりの手の平返しの速さに唖然としてしまうが、彼女らは私に対して好意的な視線を向けてくるので文句も言いづらい。それに、シルヴィアの件があった時も別に全員が私に悪意を抱いていた訳ではなく、ほとんどの生徒はシルヴィアやエマに嫌われないように態度を合わせていただけかもしれない、と思うことにする。
そんな中、何人かの女子がこちらへ歩いて来る。彼女らは元々私とあまり関りがなかったグループで、話したこともないけど嫌がらせも多分されていない。
「あの、レミリアさん」
「何?」
遠慮がちに声をかけられ、私は地面に降り立って答える。
「この間の試験はきっと何か事情があったんだよね? それなのに不正だったっていうのを信じてごめんなさい」
「ああ、うん、いいけど」
私は複雑な気持ちで答える。
「でも本当にすごいね、風魔法で自分を飛ばせられるなんて。私も空飛んでみたいからうらやましいな」
「じゃあやってみる?」
私は何となく答えてしまってはっとする。もしかしたらクラスメイトと普通に話すことがこれまであまりなかったので無意識のうちにテンションが上がっていたのかもしれない。
「いいの!?」
彼女は目を輝かせて言う。そこまで喜んでくれるならまあいいか、という気持ちになる。
「うん。ウィンド」
私が呪文を唱えると、彼女の周りに風が現れ、やがて少し地面から浮き上がる。他人なのであまり上空に飛ばすことは出来ないが、地面から数センチ浮かせたままその周りを飛びまわらせる。
だが、それだけでも彼女らはとても喜んでくれた。
「わあ、すごい、本当に飛んでる!」
「本当はもっと高く飛ばせられると思うけど、落ちたら危ないからこれぐらいにしておくね」
「ううん、飛べるだけでもうれしい!」
「あの、レミリアさん、私もお願い!」
「じゃあ次ね」
気が付くと私の前には列が出来ていて私は彼女たちを次々と魔法で飛ばせていく。一人数分ずつ、数センチ飛ばしただけなのに思いのほか喜んでくれて良かった。私としても自分一人で練習するよりもうまく魔力コントロールの練習が出来たと思う。
ふと校庭の隅に目をやると、そこではシルヴィアが元に戻った魔力でひたすらに練習をしていた。しかしシルヴィアの元の魔力は他のクラスメイトと同じ、木の葉を浮かせる程度。それを見た他の女子たちからは「やっぱり試験の時はまぐれだったのか」「ていうか不正したのはシルヴィアの方じゃないか」というささやきが聞こえてくる。
ちなみに、アルフの話によると教師たちはアルフの調査結果が出るまでシルヴィアに対して退学などの処置はしないことになったらしい。シルヴィアが実家に帰ってしまえば調査を続けることは難しいので、いわゆる「泳がせている」という状態だ。
「……ではそろそろ授業を終わります」
「今日はありがとうレミリアさん」
「楽しかった」
「今まであんまり話さなかったけど、もっと話しておけば良かった」
「ううん、こちらこそありがとう」
私は笑顔で手を振り返す。彼女たちも多少周囲に流されやすいだけで悪い人ではなかったらしい。今後はほどほどに仲良く出来たらな、と思うのだった。
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