学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃

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シルヴィアの凋落 Ⅰ

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 魔力を奪った後、私はついに人生の絶頂期を迎えた。元々学問は学年でトップだったので、魔術と合わせて成績は完全に一位になり、監督生の地位も得た。そして私は女子の中でもトップの地位について一年が終わろうとしている。

 レミリアの魔力は彼女がしっかりと鍛錬を積んだからだろう、量が多かったし、扱いやすかった。これまで自分の少ない魔力では使えなかった魔法も、レミリアの魔力であれば軽々と使うことが出来た。それを喜ぶと同時に、これまでこの魔力を使いこなしていた彼女が余計に憎くなった。だから絶対に返してやるものか、と改めて決意する。

 そして今日はそんな一年の締めくくりにふさわしい終業式の日だ。

「……それでは各学年代表者による魔法の披露を始めます。まずは一年生代表、シルヴィア・エブルー」
「はい」

 私はこの日のために新調したドレスを着て舞台の中央へ歩いていく。学年一の成績をとったと言ったらこれまでは私のことを無視していた両親も、何でも言うことを聞いてくれるようになった。
 昔は私のことを自分の子供じゃないとか言っていた両親が急にちやほやしてくれるのを見るとさすがにばかばかしくもなる。本当に世の中変わるものだ。
 とはいえ、今の私はそれを許すぐらいには寛容になっていたから、殊勝にも「育ててくれてありがとう」みたいな手紙を書いてあげた。

「ではこれより僭越ながら魔法の披露をさせていただきます……サモン・フェアリー」

 私は一礼して魔法を使おうとする。妖精を召喚するというのはこういうとき、一番見栄えがいい。
 レミリアから魔力を奪って以来、私はこの日のために練習を重ね、ユニコーンを召喚出来るようになっていた。ユニコーン召喚はかなり難度が高いから、私が全校生徒の前で実演すれば喝采は間違いなしだろう。

 が、その瞬間だった。突然私の全身からまるで誰かに魔力を抜き取られるように、魔力が抜けていくのを感じる。

「え、嘘……」

 未知の感覚に思わず情けない声を上げてしまう。慌てて精神を集中して魔力を集めようとするが、なくなっていく速さの方が圧倒的に早い。しかも急激に魔力を失ったせいか頭がくらくらしてまともに思考することも出来ない。

 まずい、これではユニコーンを召喚することが出来ない。せっかくレミリアの魔力を奪って全校生徒の前に立ち、魔法を披露するところまで行ったというのに。

 何でこんなことに、と思ったところでレミリアから来た手紙のことを思い出す。まさか彼女が本当にそんな手段を見つけていたとは。

「あの、シルヴィアさん、どうしました?」

 舞台袖にいた教師が心配そうに私の元に駆け寄ってくる。

 まずい、実は私に魔力がなくなれば実家もクラスメイトも教師たちも再び私のことをいないもののように扱うだろう。もうあんなことは嫌だ。
 そう考えると全身から得体のしれない恐怖が湧き上がってくる。
 せっかく手に入れたこの力と周囲からの評価を手放したくない。

 この時の私は後から考えると不思議なことながら、自分の犯罪がばれることよりも魔力がなくなることを恐れていた。

「大丈夫です、サモン・フェアリー」

 私は残った魔力でどうにか魔法を唱える。

 が、私の元にわずかに残った魔力では大した魔法を使うことは出来ない。私の目の前に現れたのは一体の小人の妖精だけだった。

 それを見て生徒や教師たちはしんと静まる。数百人の人がいる大講堂が静まり返るのは正直に言って恐ろしかった。彼らは皆私が進級試験の時に見せた大魔法を期待していたのだろう。あれに比べれば全くの期待はずれだ。

「おい、進級試験の時のあれはズルだったんじゃないか?」

 静寂を突き破って一人の男子生徒が叫ぶ。

 その言葉はまるで鋭利な刃物のように私を突き刺した。
 そんな、やはり私ではレミリアのように慣れないというの?
 再びあの日々に戻らないといけない?

 それがきっかけとなって「やっぱりそうだったのか」「急におかしいと思った」という声でざわざわとうるさくなっていく。そして横にいた教師たちも顔を見合わせている。

 もはや私は何が何だか分からなくなった。
 私は凍り付いた空気の中を舞台袖に下がっていった。
 この時私は全てが終わった、と思ったがこれは所詮終わりの始まりに過ぎなかった。
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